転生少女の底辺から始める幸せスローライフ~勇者と聖女を育てたら賢者になって魔法を覚えたけど、生活向上のため便利に利用します~

鳥助

第一章 始まりの土地

1.魔物の氾濫

「門が魔物に破られたぞ! 魔物が町の中に入ってきているぞ、逃げろ!」


 通りを走る兵士が声を張り上げて周囲に知らせる、町の門が魔物に破られた。その話を聞いた瞬間、私ノアは血の気が引く。どうしよう、沢山の魔物がこの町の中に入ってくる。


 邸宅の門のところで立ちすくんでいるが、すぐに正気に戻った。こうしてはいられない、ご主人様にこのことを伝えなくては。


 振り返って邸宅まで走り、扉を開けて中へと入った。それから廊下を進み、ご主人様がいるであろう部屋の扉を叩く。


「ノアです、大変です! 門が破られました!」


 すると部屋の中が騒々しくなり、扉が急に開いた。扉が開いた衝撃で私は床に飛ばされる。


「こうしてはおれん、すぐに馬車を出して逃げるぞ!」

「大事なお金や宝石も持っていかなくては!」

「私のドレス、私の装飾品!」


 ご主人様、奥様、娘様が部屋から飛び出してきた。奥様と娘様は急いでその場からいなくなり、その場には私とご主人様が残される。


「このグズ、そこで倒れてないでさっさと立ちやがれ! お前は邸宅の中にいる奴らにこのことを伝え、家にある商品を持ち出すことを伝えてこい! さっさといかんか!」


 倒れているところを罵倒されながらもなんとか体を起こして立ち上がると、深々とお辞儀をした。


「も、申し訳ございません」

「のろまが、さっさといけ!」


 体がよろめくがなんとか踏みとどまると、廊下を駆けて行く。それから邸宅内で働いている人たちにこのことを伝えて走り回り、ご主人様の言伝を伝えた。するとみんな驚いた後、焦ったように商品や荷物を選別し始める。


 そうやって現状と言伝を伝えるため邸宅内を走り回った後、エントランスに辿り着いた。そこには選別された荷物が置かれ始めているところだ。そこへ奥様が荷物を持ってやってきた。


「ノア、何をボーッとしているの!? 早く荷物を馬車に乗せなさい!」

「申し訳ございません」

「あーもう! さっさと、荷物を、運びなさい!」


 奥様に追い立てられるように、私は玄関に近づいた。玄関の扉を全開にすると、玄関先には二台の馬車が止まっているのが見える。


 私はエントランスに溜まっていく荷物を一つ一つ、馬車の荷台に運び始めた。荷物はどれも重くて、簡単には運べない。十歳の筋力では持てない荷物もあり、持てる荷物を優先的に馬車へと運んでいく。


 エントランスと馬車を何度も往復していると、娘様がやってきた。


「ノア! こんなところで何をしているの、私の部屋に来て私の荷物を運びなさい!」

「は、はい……申し訳」

「さっさとしなさいって言っているでしょ!」


 指示された通りに娘様の部屋へと急ぐ。娘様の部屋に辿り着くと、部屋の中には荷物を詰められた袋が沢山あった。それらを担ぐと、エントランスに急いで戻る。


 娘様の部屋とエントランスを何往復かすると、今度はエントランスにご主人様が怒りの形相で立っていた。


「このグズが、何をしている! 早く荷物を馬車に運ばんか!」

「申し訳ございません。娘様の荷物を」

「口答えをするくらいに偉くなったのか、このグズがっ!」


 ご主人様は大声で罵倒してきた。私は言い訳をするが、それは遮られてしまった。


「さっさと荷物を馬車に詰め込め!」

「は、はいっ……ただいま、すぐにっ!」


 罵倒してきたご主人様はその場から立ち去った。私は何も言えなかった。理不尽なことは毎度あるから気にしていても仕方がない。


 娘様の荷物は置いておいて、まずは荷物を馬車に詰め込もう。私は重たい荷物を馬車に詰め込んでいく。


 ◇


 二台の馬車に荷物を詰め込み終わる、かなり時間がかかったけれど逃げる時間はあるのだろうか? そんな不安を抱えながら、邸宅を出発する時間が来た。


 ご主人様家族は馬車に乗り込み、邸宅で働いていた人たちは馬車に付き添う感じで歩くみたい。もちろん私もみんなと一緒で馬車に並走して進むことになる。


 荷物を沢山積んだ馬車が動き出すと、振動で荷物が一つ落ちてしまった。戻しようにも荷物がいっぱいすぎて戻せない。誰もがその荷物を見て見ぬふりをしようとした時、馬車からご主人様が降りてきた。


「バカ者が! 荷物が一つ落ちただろう!」


 ご主人はその荷物を手に持つと、私の方に近づいてきた。


「お前がこの荷物を背負って歩け!」

「わ、私がですか?」

「黙って荷物を背負え!」


 仕方がなく私は大きなリュックになっていた荷物を背負う。だが、ご主人様はそれだけでは許してくれない。リュックについてあった長い紐を縛り、私の体とリュックを離れないようにした。


「これでお前はリュックを手放せないだろう。いいか、絶対に捨てるんじゃないぞ」

「は、はい……」


 それだけを言い残して、ご主人様は馬車へと戻った。顔を上げて周りを見てみると、他の人たちは見て見ぬふりだ。誰も助けてはくれないし、それはいつものことだ。仕方がない、背負って歩こう。


 邸宅の門を開けると、馬車はゆっくりと動き出す。私たちも馬車に続いて歩き出し、通りに出ていった。


 通りには同じく荷物を持った人々が列をなして町から脱出するところだった。ごった返していないところを見ると、私たちが遅れて出発しているのが分かる。他の人たちは本当に必要なものしか持って行っていないから、きっと早めに出ていけたに違いない。


 このままだと門から入ってきた魔物に追いつかれてしまうかも、その恐怖が付きまとっていた。馬車は早く進んでいき、それに付き従う人たちは早歩きで馬車についていく。一方、荷物を背負った私は一団からどんどん離されていった。


 どうしよう、早くしないと魔物に追いつかれちゃう。駆け足になりながら一団を追うが、荷物が重くて思うように進めていない。一団との距離はどんどん離れていき、焦りがピークに達した時だ。


「ブオォォッ!!」

「ブゥッ!!」


 通りの脇道からオークが数体現れた。


「キャーッ!」

「に、逃げろー!」

「早く前に進めー!」


 通りはパニックになった。通りを進んでいた人たちは走り出し、オークを避けようと必死だ。オークが出てきた脇道は私たちの前方にある、ということはオークをすり抜けないと先へは進めなくなっていた。


 すると、早くすり抜けようと馬車はスピードを上げた。徒歩の一団は馬車に離されまいと一緒に駆け出していく。私だけが取り残され、置いていかれそうなった。


 待って、置いていかないで! 私も懸命に走るが、他のみんなと比べると歩みは遅い。荷物を捨てれば早くなるかも、そう思って体にくくられた紐をほどこうとするが、かなり固く縛られていたため簡単には外せない。


 どうしよう、このままじゃオークに掴まっちゃう! 気持ちがだんだんと焦っていき、どうしようもなくなった時、それは起こった。


 オークたちが走ってくる馬車に標的を定めて、手に持ったこんぼうを振るった。こんぼうは馬車に当たり、馬車に乗っていたご主人様たちは地面に投げ出された。


 その後からくる一団も標的にしてこんぼうを振るい始めた。もし、私があの一団の傍にいたら、私も巻き込まれたかも……そう考えるとぞっとする。申し訳ないけれど、オークの注意がご主人様一団に向いている今がチャンスだ。


「ごめんなさいっ!」


 力を振り絞って私は駆け出した。できるだけオークから離れて走っていくと、声が聞こえてきた。


「こ、こら! 私を置いて逃げるな! ま、待て……助けてくれー!」


 ご主人様の声が聞こえたけど、私は振り返らなかった。他の人に混じって全力で駆けていき、オークは倒した一団に夢中でこんぼうを振り続けている。


 気が付いた頃にはオークたちは私の後ろにいた。


「とにかく、逃げなくっちゃ!」


 重たい荷物を担いで、私は他の人と一緒に町の外を目指した。

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