8:ダチョウが取引






「レイス殿! お待たせしました! ギルド職員の方も連れてきましたよ!」



ウチの子たちによる『果物強奪事件』のお説教と反省会が終わった後、私たちが陣取っている場所に例の冒険者パーティの人たちが帰ってきた。ギルド職員、という男性も一緒に。彼らには魔物素材の換金とかを頼んでたんだけど、なんかあったのかね? もしくはトラブル回避のために直接職員さんが説明しに来てくれたとか。



「冒険者ギルドの方で査定の責任者をしとるものです、よろしゅうですレイスさん。」


「ご丁寧にどうも、こちらこそよろしくお願いしますね。クルディウスさんたちに買取の代行をお願いしていたのですが……、何かありましたか?」



私がそう言うと、『えぇ、その件でしてな。』と言いながら懐から書類を取り出す彼。


見た目的に、まだ若い方だとは思うんだけど、結構特徴的と言うか年季の入ったおじさんみたいな話し方してるよね。見た感じ人間族だとは思うんだけど違うのかな……。いや、アメリアさんも見た目すごく若いんだけどね? エルフってことで普通に三桁を軽く超えて自分の年齢が解らなくなるレベルで生きてるらしくてさ……、マジで見た目がアテにならんのよね。


なんでこの人も見た目の割に滅茶苦茶年取ってるのかもしれないし、もしかしたら単に話し方がおかしな人かもしれない。とりあえずスルーしておくことが無難なのだろう。それに、私らダチョウも見た目詐欺をしているようなものだ。結構な年してロリ顔ショタ顔してる奴いるし、知能も全然育ってない奴ばっかりだから……、こっちが突っ込んで藪蛇になるのはごめんなのだ。



「今回持ち込んでもろた素材、オークの討伐証明部位については確認しとりますし、後日集落があった場所へと調査に向かわせますんでそっちの方はちゃんとお支払いできるとおもいます。けどあの土竜の歯ってのが厄介でしてな……。」



あぁ、アイツの歯ね。口の中が何かの粉砕機かと思うくらいびっしり並んでた歯。人の握りこぶしよりもおっきいアレね? たくさん採れたわけだし、結構高値で売れるってコトだったからもてるだけ持ってきたんだけど……、もしかして数が多かった感じ?



「それもあるんですが、ちょっち私らも見たことない素材でしてな? 完璧な査定が難しいんすわ。明らかに高額買取、しかもかなりの数やから結構な額のお渡しになると思うんすけど……、こっちとしても正確な値段が解らんので、ってかんじでんな。ギルドは信用商売さかい、高く買い取り過ぎても安く買いたたいても信用ガタ落ち、めんどい商売ですわ。」


「はえ~。」


「んで、今日はご提案にきたんよ。」



そう言うとまたもう一つ懐から紙束をだし、こちらに見せてくれる彼。えっと、なになに~? いったんギルド側で買い取って、後にオークションなどで販売した時の差額を後日受渡しする契約? あ~、なるほど。そう言う感じね。



「クルディウスの坊の話きいとる感じ、直近でお金結構必要そうな感じしましてな? こっちとしても美味しい素材なわけですし、けっこう利益見込めます。なんで特例としてこんな契約もってきたんですわ。……どうですかいな?」


「はいはい、なるほどね。うん、それで大丈夫ですよ、今言っていただいた形で進めてくださいな。」


「おぉ、あんがとうございます~。」



まぁ私らとしても、正直使い道のない素材だ。そもそもダチョウに何かを加工する文化がない以上、食べられない部分はその辺に捨てて置く以外使い道? がない。故にこうやって持ち込むことで外貨を稼ぐことが出来るのならそれでいい。クルディウスさんたちの方をちょっと見てみても、特に顔色に変化はない。デレのおかげか私たちへの好感度が高いアメリアさんも頷いてるし、不平等な契約ではないのだろう。


さっき『ギルドは信用商売』っていってたから、そこら辺はしっかりしてるのかもね。



「んじゃ、お支払いの方の手続きすぐしてくるんで、ちょっちお待ちください。これ、明細になりますな。ではでは。」



私に書類のいくつかを手渡すと、直ぐに町の中へと戻っていく彼。お仕事熱心な人やねぇ……、ん? どうした意気消沈気味のマイブラザー。この紙が気になるの? これね、大事な書類よ。ものを売ってお金をもらう、それについての契約が書かれてるの、コレがさっき言ってた"交換"を証明してくれるんだよ……、ていってもわかんないか。



「わかんない。」

「ごめんなさい……。」


「あ~、今日は駄目だなこりゃ。ほれおいで、怒ってないから。撫でて上げような~。」



そう言いながらダチョウの頭を膝にのせ、翼で優しく撫でてやる。ほれほれ、可愛いなぁ。お前、左側の膝に乗ってるコイツ多分私より年上やった気がするけど、ごっつ甘えたさんやなぁ~。まぁずっと子供のようなもんやし、別に年ぐらい全然気にしないけどたまに『スンっ』ってなっちゃうときあるんだよね。ほんとお前らの見た目が幼いままでよかったよ。



(しかもこっち、中身男だしな。)



母親代わり、というか保育園の先生? をしているせいかなんかこう、性別云々に繋がらないのよね。私としては色々この子たちに振り回されてるとはいえ幸せだし、別に気にならないんだけど……。TSしてる身で踏むべきそれ相応のイベントとか完璧にスキップしてきちゃったからなぁ。ずっと群れの長だったし、最初の頃は生き残るのに必死だった。余計なことを考える暇はほとんどなかった。



「それを考えると、だいぶ前進したね。」



「ぜんしん?」

「ぜんしんー。」



「相変わらず可愛らしいわね。」


「でしょう? アメリアさんもやるかい?」



微笑ましいものを見るような顔していた彼女が声を掛けてくる。無理矢理やったら怒るだろうけど、気を許している相手だったら膝を叩けばそこに寝転がったり、座ったりしてくれると思うよ。デレは……、ありゃ。落ち込んで横になってるな。



「? あの子は果物屋さんに突撃はしてなかったでしょう?」


「そうだね、でも群れの大半があそこに突っ込んで、私に怒られた。関係ない子もたまに『自分が怒られた!』と思って意気消沈しちゃったりするの。今回は数が多かったからねぇ~。」



普段、というか高原では怒ったとしても片手で数えられるぐらいだが、先ほどの事件では結構な人数が対象になってしまった。そのため当事者以外の関係ないダチョウへも影響を及ぼし、群れ全体が『ごめんなさいムード』になっていると言える。可愛らしいちゃそうだけど、怒った側からすると罪悪感すごいのよ。



「……でしょうね。お疲れ様、お母さん。」


「お母さんって! 子供どころか相手もいないよ! あははは!」



そんな風に大声で笑うが、まぁその言葉にかなり救われる。いやほんと、ちょっとした愚痴でも話せる相手ってこんなに素晴らしいのね。やっぱ"会話"大事。もっとたくさんお話しましょ~! あとウチの子たちにもそれができるように教育してあげて~!



「……難題ね、それは。」


「あはー! でも結構期待してるんだよ? 私一人しか刺激を与えられる人がいなかった時から、今は加速度的にどんどん増えてきている。この子たちは忘れるけど、決して覚えられない訳じゃない。だから……ね?」



末永くこの子たちの友達でいて欲しいな、なんて。あぁもちろん私とも仲良くしてほしいけどさ!








 ◇◆◇◆◇








「それで? 三人してまだ残ってるってことはなんか用事あったんだよね、クルディウスさんや?」


「はい、ですがアメリアと楽しそうに話していたので……、野暮かと。」


「ありゃ! そりゃゴメン! んで、どしたの?」


「ちょっとした質問、それとお礼をしに来ようかと。……私たちを町まで連れて来ていただきありがとうございました。」



あ、そういやこの人たちを町まで連れて来るっていう"お願い"を受けてここまで来たんだっけ。初めての肉体言語での会話とか、町のこととか、うちの子たちが暴走したりとかで完全に忘れてたよ。じゃ、とりあえずそのお礼は受け取っておきましょうか。こっちも自分たちの生息圏の外に連れ出してもらったワケだから、別にお礼なんかいいんだけどね?



「それで、質問ってのは?」


「個人的なものにはなるのですが……、これからどうするのかな、と。」


「これからねぇ~。まぁ町の外をちょっと借りて、って感じかなぁ。」



まだ町について一日目だけど、結構色んな問題に直面した。けれどまぁ想定の範囲内だし、町の人たちからの反応も悪いものではない。さっきのギルドの人のおかげでお金はすぐに手に入りそうだし、こっからダチョウたちが成長する可能性を信じながら色々とやってみるフェーズに入るだろう。高原みたいに身の危険を感じない分、色々と挑戦ができる。



「とりあえず目に付いたものとか、思いついたものをウチの子たちにやらせてみる感じかな。ま、とりあえず今日一日は"反省タイム"で使い物にならないだろうし、お休みするけどね~。」


「なるほど……。」



あ、そうだ。今日の晩飯のこと考えてなかったな。果物屋さんにうちの子たちが突撃しちゃったおかげで小腹は満たせてるだろうけど、夜から明日の朝までに何かしら用意してあげないとお腹空かせちゃうな。あのギルドのおじさん? お兄さんが持ってきてくれるお金で何か買って食べてみるか、それともちょっとこの周辺にいる魔物を探して食べてみるか、どっちにしようか。



「おまえらはどっちがいい?」



「おなかすいてない……。」

「ない……。」



「でも食べなきゃ明日お腹空いて動けなくなっちゃうよ? ……そうだ、ちょっと奮発して美味しい物食べよっか? 正直物価も何も解らないけど"結構な額"ならちょっとぐらい豪勢に行っても大丈夫でしょ。」



そんなことを言いながらうちの子たちの機嫌を取る、折角深まった縁もあることだし、クルディウスさんたちも誘おっか。というか出来合いの物を買うにしても、調理にしてもどっちみちダチョウ以外の人の手がいる。あ、あの晩御飯代出しますんで手伝ってもらってもいいっすかね? アメリアさんにはもちろんデレをお付けするんで……。



「ふふ、えぇもちろん。そんなことしなくても手伝うわ。……そうね、そうと決まれば食料品あたりを扱う商人にでも……。」







「お呼びですか?」






「ぴゃッ!」



「びっくり!」

「わっ!」

「てき!?」

「ごはん!」

「やっつける!」



アメリアさんが"商人"と言った瞬間、彼女の後ろから顔を出すような姿勢で現れた男性。響くアメリアさんの悲鳴と、背後で即座に立ち上がったデレの足音、それに反応して声を出すうちの子たち。……え、ちょっとまって? 私でも気が付かなかったんだけど……、何コイツ? 知り合いじゃ……、なさそうだね。あとウチの子たちは戦闘への切り替えスイッチが早いのはいいけど、ステイステイ。落ち着け者共。びっくりさせられた程度で殲滅してたらこの先、生き残れないぞ?(何がとは言わない)



「おぉ! 驚かせてしまい申し訳ない、私商人のアランと申します。なにやら商いの匂いがしましたので……、つい声を掛けてしまいました。」



頭髪をしっかりと固め、ちょっとお目目が細めな男性は申し訳なさそうにそう言う。どうやら彼によると、この町を守る守護兵の方々と一緒に町の外へと出てきたみたいだ。ん? 御用商人とかそういうの?



「えぇえぇ! そんな感じでございます。兵士の方々が新しくいらっしゃった方が町の外でも休めるように天幕を設置する、とお聞きしまして! 何か入用かと思い参りました。盗み聞きをしてしまい申し訳ないのですが……、パーティのご用意ですかな?」


「あぁ、うん。そんな感じ。」



彼が指さす方を見てみると、確かに兵士の人たちが天幕を張る準備をしている。彼の話的に、マティルデが私たちのために用意してくれたのだろうか? 後で使っていいのか聞きに行ってみよう。別に私ら野宿でも大丈夫と言うか、野宿での生活に慣れきっているからそれでよかったんだけど、わざわざ用意してくれるならご厚意に甘えよう。



「実はわたくし、かなり手広くやっておりまして! 食料品も我が商会の得意分野でございます! 見るからに大人数ですし……、お安くしておきますよ?」



……なんだろうな、こいつ。よほど勘の鋭い商人なのか、それとも耳がいいのか。確かに団体客相手に話しかける勇気や、その行動が早ければ早いほどいいってのは認めるけども。ある意味私たちが果物屋の商品を全部買い取ったわけだから、その話を聞いてやって来たってことか? それならそれで耳が良すぎるわけだが。



「マティルデ様からも、貴方方が来たことで町全体の食料消費量が上がる、と言うお話をお聞きしまして! 現在急ピッチで準備を進めているのです! 実は長期保存できる食料用の倉庫も一時解放しておりまして! 現在割引キャンペーンなのです!」



ふ~ん、割引。ねぇ? 未だ警戒を解かないうちの子たちの頭を撫でてやりながら、彼の問いに答えていく。



「あ、そう? ならお願いしちゃおうかな。ついでに大人数向けの調理器具とか、野営用の装備とかも軽くお願いしていいかい? "手広く"ってことはそれぐらいいけちゃったり?」


「もちろんですとも! なんでもお任せください!」


「じゃ、適当にお願い。お支払いの方は……、あぁそうだ。ちょうどこの後ギルドの人が買い取ってもらった分のお金持ってきてくれるからさ。その一部を渡すからそっちで適当な感じにしてくれない? ウチの子たちにちょうど行き渡る量で。」


「なるほどなるほど、これは商人の腕が試されている感じですね……! 受けて立ちましょうとも! 料理人のサービスや、食べられない物はございますかな?」


「ないよ、調理法とかもこっちのはよくわからんし、お願いしようかな。」



そう言葉を交わしながら、色々とお願いをしていく。こっちは相場どころか、この国の通貨すらどんなものか知らないんだ。"御用商人"ってことはまぁそんな変な奴でもないだろうし、仕事だけはきっちりやってくれるだろう。やってくれなかったらそれまでだ。うちの子は食いしん坊ばっかりだからね、"ごはん"は多ければ多いほどいい。



(な~んか、こっちを探るような"眼"をしてるし。気を付けておいた方が良さそうだなぁ。)





















〇ダチョウのスイッチ


厳しすぎる環境で生き抜いてきたダチョウたちは、切り替えももちろん早い。というか、自分たちの性質を非常にうまく利用している。なにか外部からの衝撃、例えば急な敵の攻撃を受けた際、それまで考えていたことを持ち前の忘却力で消去し、頭をスッキリさせた状態で対処することが出来る。


強敵が多く、群れたとしても勝てない相手が多い高原ではこの性質が上手く働き、彼らの『リーダー無し』での生存率を大きく上げた。ある意味忘却力を生存戦略の一つとして盛り込んでしまったが故に、おバカになってしまったのかもしれない。


なお、落ち込んでいる最中『ごめんなさいモード』中でもこの能力を発揮し、原因に対処することが可能ではあるが流石に先ほどまでずっと落ち込んでいたため、すぐに100%の力を発揮することは難しい。リーダーの声に励ましてもらえば何とか気合を入れられるようだが、精神的に参っている時はさすがに切り替えも上手く行かないようだ。


なお、仲間が攻撃された場合は"どんな時でも"スイッチが完全に入ってしまうので、注意が必要である。








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