戦える魔法少女このかちゃんと戦えない樹くんの共依存スパイラル
maricaみかん
始まりの一歩(1)
「わたし、魔法少女なの!」
幼馴染であるこのかに、突然告げられた。
真ん丸な瞳をこちらに向けながら、必死そうな面持ちで。
いつもは愛嬌にあふれた顔を、若干歪めながら。
俺の胸辺りから、上目遣いで見上げながら。
魔法少女の存在は知っている。ブロッサムドロップという名前の女が、最近になって俺達の住む愛鐘町に現れた。
見た目としては、目隠しというか、見えるように穴の空いたリボンのようなもので目の周りを囲っている。それで、セーラー服を派手にしたかのようなピンクの衣装を着ている。
敵として、いかにもな怪人である、ゲドーユニオンという集団と戦っている存在だ。
いつもワタワタしているこのかが、ブロッサムドロップ?
勇敢に戦って、ゲドーユニオンを打ち破っていく魔法少女だぞ?
だが、このかは嘘をついている顔をしていない。幼馴染だから、それくらいは分かる。
そういえば、俺はこのかの家に呼び出されたのだったな。今までの流れを考えると、別の意味かと思っていた。
どういう事かというと、いつも通りに高校に通っていると、放課後に机に手紙が入っていた。
――樹くんに伝えたいことがあります。私の家に来てください。このかより。
それだけが書かれた手紙が。
俺が考えていたのは、告白されるかもしれないという事だった。
すごくドキドキしていたのだが、とんだ勘違いだったな。
いや、告白は告白なのだが。自分は魔法少女だという。
このかとはずっと一緒にいたし、信頼されているのだと思う。だから、好意を持ってくれているのだと誤解した。
まあ、重大な秘密を話してもいいとは思われているようだが。
俺達は幼馴染としてそれなりの関係を築いてきた。最低限の信用はあるに決まっているし、俺は大切に思っている。
というか、高校生で魔法少女か。あまりイメージに一致しないな。まあ、このかは美人だから似合うとは思うが。
それよりも大きな問題は、このかがゲドーユニオンと戦っていることだ。
人々を傷つける、悪と言って良い集団。それと対峙するということ。つまりは、このかの身に危険が迫る可能性があるんだ。
まずは、状況を整理しないとな。
このかはどれほど安全なのか、危険だとして、対処できるものなのか。
「魔法少女になって、危なくはないのか?」
「信じてくれるんだね。やっぱり、樹くんに話して良かった」
分かっているからな。このかが嘘をついていないことは。
もし騙そうとしていたら、絶対に顔に出ているからな。
信じているというか、疑う理由がないというか。
「まあ、嘘をついていたら分かるからな」
「ありがとう。嬉しいよ。樹くんなら、信じて良い。そう思ったのは正しかったよ」
「それはありがたいが。命の危険があったりしないよな?」
ちゃんと確認しておかないと。
このかに何かあったら、後悔してもしきれない。
どうにか力になれなかったのかと思うのは、絶対にゴメンだ。
「魔法少女としての力があるから、大丈夫。リーベも協力してくれるから」
「リーベ? 言い方からするに、サポートしてくれる人か?」
「ああ、ごめん。えっと、いわゆるマスコットだよ。魔法少女なら、定番だよね」
「ボクを紹介してくれるんだね。このか、よほど彼を信頼しているんだね」
いきなり話しかけてきたのは、猫のぬいぐるみのようなもの。
黄色と白の線が入っていて、まあ可愛いと言って良いか。
リーベと言っていたな。こいつが、このかを巻き込んだのか?
いや、軽率な判断は避けるべきだな。魔法少女になる必要があるほど、このかが追い詰められていた可能性もある。
例えば、ゲドーユニオンに襲われて、どうしようもなかったとか。
そもそも、俺が知っている魔法少女はブロッサムドロップだけだ。
なにか、大勢で戦えない理由があるのだろう。それがどんな原因なのかは分からない。
俺に解決できることなら、どうにかしたいが。
「リーベ。このかだけが戦う理由は、なにかあるのか?」
「難しい質問だ。正確には、戦力を増やす手段はある。とはいえ、誰も賛成しないだろうね。仮にボクの知っているやり方を肯定する人間に対してならば、このかも、君も、大きく失望するだろう」
おそらくは、倫理観から見て問題があるのだろう。
誰も賛成しないという言い回しからして、よほどの手段なはずだ。
「例えば、俺が実行することはできるのか?」
「その質問には、イエスと答えるよ。ただ、君の覚悟が問われることになる」
「リーベ!」
このかは殺意すら見えるような瞳でリーベを見ている。
つまり、このかも内容を知っていることになる。
まさかとは思うが、このかは何かを犠牲にしていたりしないよな? 寿命を削っているとか、冗談じゃないぞ。
「このか、質問がある。お前は、大丈夫なんだよな」
「わたし一人ならって感じかな。樹くん、これ以上は聞かないで」
とても悲しそうな顔をしていて、問いかける事はためらわれた。
だが、このかが安全でなくなるのなら、何が何でも知らなければならない。
俺にとっての問題は、このかが無事で居られるかどうかだからだ。
「リーベ、このかに問題はないんだよな?」
「そうだね。戦いに挑むという危険はあるとはいえ、それだけだ」
やはり、戦闘には危険がある。分かってはいたことだが。
俺が変わってやれるのならな。そんな事ができるのならば、もう提案されているはずだ。
いや、ちゃんと聞いたわけじゃない。確認を怠るべきではないな。このかの安全がかかっているんだ。
「もうひとつ質問がある。このかの代わりに俺が戦うことはできないのか?」
「それは無理と言って良いね。いや、正確には不可能ではないんだけど。このかも君も許さないだろう」
「当たり前だよ! 絶対にダメなんだからね!」
このかの反応からするに、よほど欠陥のある手段なのだろう。
そうなると、思いつく可能性は少ない。
なんというか、誰かを犠牲にするのだろうなという気がする。
それは流石に問題だよな。最悪の場合なら、実行するかもしれないが。
このかの命より、他の人間の命を優先したいとは思わない。
俺にとっては、誰よりも大切な幼馴染なんだ。
今でも、このかの戦いを止められないかと思う程度には。
「なら、戦いをやめられないのか? 他の手段で、ゲドーユニオンを倒せないのか?」
「難しいね。他に手段があるのなら、ボクだってどうにかしているんだ」
「わたしがみんなを守れるのなら、それで十分だよ」
このかの事だから、本当に善性からの言葉なのだろう。
だが、他人に任せられるのなら任せてほしいし、見捨てられそうなら見捨ててほしい。
なぜこのかなのだろう。他の誰かだったのなら、軽い気分で見ていられたのだが。
俺になにかできる事はないだろうか。
このかが、ただ傷ついていくのを見ているだけなんてゴメンだ。
戦いに身を置くのだとしても、何もできないよりはマシだ。
だが、実際のところ何ができる?
役に立つつもりで足を引っ張るなど論外だ。だから、がむしゃらに動けば良いわけではないよな。その事実が、俺の行動を制限してくる。
ただゲドーユニオンに立ち向かって、当然のように負ける。そうすれば、このかに無用な苦しみを与えるだけだ。
分かっているんだ。魔法少女なんてものが現れる異常事態に、ただの人間ができることなんて少ない。そうである以上、何か情報を集めないと。
まずは、一番詳しそうな当人に聞くところからだ。
俺は、リーベに問いかけることを決めた。
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