静観
@Nico23
もう何本目かの煙草を灰皿に押し当てた後、この客人は何度目かの大きな溜息をついた。
小さなこの喫茶店の、ほんの三席分しかない狭いカウンターを占領するように、大きく腕を伸ばしたまま突っ伏している。
幸い他には客もいないし、この客人は常連でもある。特に
「珍しいですね。貴方がそんな風に気落ちしているなんて」
私は珈琲豆を挽きつつカウンター越しに話しかけた。
「え、なんでわかったのマスター」
「そんなあからさまに煙草を何本も吸って溜息をついていれば、さすがにわかりますよ」
私が苦笑しながら言うと、客人が気まずそうに顔を逸らす。
「ちょっと…その…やらかしたというか」
「それはまた、貴方らしくもない」
この客人はいつも
「こういう仕事をしていると、程々の距離感が大切だってわかっていたんだけど…」
「取引相手と踏み込んだ関係になったと?」
「いやいや全然っ…全然だからこそ、踏み込もうとしてしまったというか」
客人が両手で頭をくしゃくしゃと掻き混ぜて再びはあぁと溜息をつく。
会話をしながらいれた珈琲をそっと客人に差し出すと、相手は香りに気付いて顔を上げ、そっとカップに口をつけた。
「美味し…」
ほぅと息を吐いて緩んだ表情を見て、私は少しだけ安堵した。この根が素直な客人は貴重な常連であり、なんだか放っておけない友人のようでもあるからだ。
「恋焦がれるというのはままならないものですね」
勢いよく顔を上げて私を見たあと、みるみる赤く染まる顔を
静観 @Nico23
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