永久の祈りを
梅林 冬実
永久の祈りを
心から愛する人を
こんなにも鬱積するなんて
私の心にヘドロが巣食い
浸食していくのを感じる
感じるけれど
突然発生したものなのか
それとも私が気付かぬうちから
そこに留まっていたのか
分からないまま徒に時だけが過ぎ
同じ家で暮らしているなら
寝食も共にしているなんて
勝手な思い込みだったと
気付かされてまた傷付けられて
ねぇ
ずっと一緒にいるんじゃなかったの?私たち
その人誰よ?私の知らない人よ?
教えてよ 誰なのよ?
ごめんとか
許してくれなんて言わないとか
君と別れたいとか
そんな台詞が聞きたいんじゃないの
「その人は誰なの?」
容易い問いに見合う答えを聞きたいだけなの
その口から
何度も重ね合わせたその唇から
カーテンは月に1度クリーニングに出すから
窓なんて毎日ピカピカに磨いているから
家だって建てて5年も経たないんだから
とてもきれいに見えると思うのよ
往来を行きかう人たちには
主は妻に見向きもしないなんて
妻が話しかけても返事もしないなんて
妻が沸かした風呂に入らないなんて
手料理に箸もつけないなんて
きっと誰も思わない
庭は色取り取りの花に彩られ
私はせっせとそれらの世話をして
お天気のいい日にはこれ見よがしに
小洒落たテーブルセットを用意して
優雅にお茶を楽しむのだもの
手製のハーブティに焼きたてのスコーン
あなたも好きだったでしょう?
コンフィチュールだって
私の手作りでなければ嫌だって言うから
ブルーベリーとキイチゴを植えたの
忘れたりしないわよね?
昨日の朝お気に入りの小瓶に
詰めたばかりよ
出来立てのキウイのジャムと
モモのコンフィチュール
どうして知らん顔するのよ
こんなことね
誰にも言えないの
私は私が知る誰よりも幸せだから
夫にそっぽを向かれ
嘆き悲しむ女性たちを
「かわいそう」
だと感じているから
「かわいそうにね」
って慰めてきたのだから
私が「かわいそう」な人に
なるわけにはいかないの
私の知らない女の元に
あなたを行かせるわけにはいかないの
あなたは私と共に暮らすの
約束したでしょう
忘れたなんて言わせない
絶対に言わせない
私はあなたを愛していて
あなたは私を必要としていて
互いを慈しみ愛し尊び
そんな日々はこれからも続くのよ きっと
それが分からないなら
分かるまで教えてあげる
誰に何を言われても
頼まれても泣かれても
そんなの聞く必要ないからね
あなたは私の目をじっと見つめて
「君を愛してる」
と伝えてくれればそれでいいの
あの人誰なのと聞いても答えてくれないなら
どこで知り合ったのと聞いても教えてくれないなら
あなたは私の知るあなたで居続けなければならない
これは不変よ
私たちは同じ現実に向き合うの
目を反らさないで
白のレースに身を包んだ私を
綺麗だと言ってくれたあの日から
永久に続く物語
主人公は私とあなた
他に誰もいらない
誰も出てこなくていい
登場人物は私とあなた
2人きりの物語
永久の祈りを私は捧ぐ
それはきっとあなたに
あなたはそれを受けねばならない
それはきっと私のために
何にも縛られることはないわ
いいからこちらに戻っていらっしゃい
そうしたら私は
なにも言わない なにも聞かない
なにも知らなかった頃の私に戻って
きっとあなたに尽くすわ
それまで以上にね
永久の祈りを 梅林 冬実 @umemomosakura333
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます