第22話 接近

 それ以来、メルリアとモルモルは直接精気をやり取りする事が多くなった。

 だが、ジルベルリがメルリアの精気を吸った後、モルモルに上前をはねられるのは続いていて、慢性的に精気不足なのか、彼の顔色には精彩がない。


「モルモル。お前……太ったよな……メルリア太りだな……」

 ジルベルリがぼそっとこぼした。

「なっ? お兄ちゃん! 言うに事欠いて、年頃のかわいい妹になんて事を!」


「はは……モルモル。

 精気吸うばかりじゃなくて、運動もちゃんとしたほうがいいぞ!」

 姫路の突っ込みに、モルモルが不満そうな顔をする。

「えー。動くのかったるいし……。

 メルリア様とはそれなりに激しく絡んでるしー……。

 って、あっ!」


「どうした? モルモル」

 いきなり大声を出したモルモルの顔を姫路が覗き込む。


「いた! 人間……そしてこの魔力。多分勇者ヤミーじゃね?」

「おお、妹よ。やっとセンサーに引っかかったんだな。で、どの辺にいるんだ?」

「まだ、かなり遠い……‥でも、確かにこっちに向かってるよ。

 これなら明日にでも、ここに到着するよ!」

「へー。そんなに遠くても分かるんだ……」姫路が感心する。

「えへん! 姫路お姉さま。もっと褒めて!」


 その時姫路の脇を、大剣を担いだスズランがものすごい勢いで走り抜けていった。


「あっ! スズラン。待て待て……あわてるな! ああー、行っちまったか……。

 わりー、ジルベルリ。スズランとっ捕まえて来てくれないか?」

「あー。はい……」そう言いながらジルベルリは、ひょいと空に舞い上がり、走っていったスズランを追った。


 ◇◇◇


 程なく、スズランを抱えたジルベルリがキャンプに戻ってきた。


「スズラン、よく聞け。勇者がここに来るとしても明日だ。慌てずに準備するぞ。

 一人でやみくもに突っ込んでいって、お前が返り討ちにあったりしたら、あたいはどうすりゃいいんだい? だいたいその剣は、お前にゃ無理だ。

 ほら、あたいがエルフにもらった木の棒があるから、こっちを使え」


「これじゃ……斬れない……」

「いやいや。だから今のお前じゃ、その剣は使いこなせないって。

 最初にお前がその大剣で斬りかかってきた時、あたいはこの棒で防いだんだぞ。

 めっちゃ硬くて丈夫だし……こいつで殴られたら滅茶苦茶痛いと思うぞ」

「……わかった」


「そんじゃ、ジルベルリ。

 出来れば夜のうちに、勇者ヤミーの偵察して来てくれよ。

 あー、ただし、手出し厳禁な」

「えー。ですが、隙みて性交しちゃえば、僕の役目は完了なんですが……」


「だからさー……相手は勇者だ。能力もわかんないうちに一人で突っ走られて、あんたを失いたくないんだよ。

 いい加減ひと月以上いっしょだったし、もう仲間だろ?」

「姫路さん……僕の事を心配して下さって……。

 分かりました。今夜は偵察だけにします」


「そうだよお兄ちゃん。勇者の処女は私が貰うんだから!」

「ははっ、モルモル。また、ちんちん溶けるんじゃねーの?」

「うっきー。姫路姉さま、そんな事おっしゃらないで下さい。

 メルリア様のおかげでフル充電状態なんだから、今度は絶対大丈夫でーす!」

「そっか……なっ、スズラン。そう言う訳だから、お前が勇者やっつける前に、こいつらにも仕事させてやろうな」

「姫路、わかった……でも最後は私が勇者をやっつける」


 正直な所、姫路はスズランに仇討などという不毛な事はやらせたくなかった。

 しかし彼女の気持ちを考えたら、それなりのダメージを勇者に食らわせないとならない事も理解していた。


 まっ、半殺しってとこで手打ち出来ればいいんだが……。

 それには、事前に出来るだけ勇者ヤミー側の力を知っておく必要がある。


 夜が更けてから、ジルベルリはメルリアに精気を補充してもらい、勇者ヤミーの偵察に飛び立った。

 そして夜明け前には戻って来て偵察結果を報告した。


「間違いありません。勇者ヤミーと、側付きのエルフ、マジラニカントです。

 昼前にはここに着くかと……ヤミーの魔力は姫路さんほどじゃなくて、そんなに目立ちませんでしたが、マジラニカントの戦闘能力は結構ヤバそうです」


「へー。そういうの聞くと、なんか血が騒ぐんだが……。

 まあ、そっちはあたいのケンカじゃねえしな。

 そんじゃ、最初は夢魔の幻惑で動けなくしてって所か……」


「はい。兄妹二人掛かりで催眠すれば、まず動けません。

 そして、モルモルが擬態して勇者ヤミーを強姦します。

 その後は、スズランさんが殴りかかればよいかと」


「それじゃーさー。その側付きの方は、動けなくなった時点で、私が遊んでいい? 

 エルフなんて、エッチした事ないのよー」

 メルリアが眼を輝かせながらそう言った。


「ったく……まあ。夢魔兄妹とスズランの、仕事の邪魔はするなよな!」

「それで、姫路姉さんは?」モルモルが尋ねる。

「ああ。あたいは遊撃隊という事で……今の作戦に問題が生じたら、みんなの安全第一でフォローするさ」

 とは言ったものの、スズランが勇者を殺しちまう前に止めねえとな……。

 心の中ではそんな事を考えていた。


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