第2話 召喚

「おー、なんと可愛らしい勇者様だ! これで我々も救われる!」

 みどりがふと気が付くと、周りには歓声とどよめきにあふれた大勢の人がいた。


「えっ、あれ? 私、いったい……」

 状況がわからず動揺している碧に、何か中世の兵士のような恰好をした人が近づいてきて話しかけた。


「勇者様、遠路はるばる、我が国まで来ていただき、光栄の極みです」

「へっ? 勇者? 

 あっ、確かに『』って書いてあったのに入ってきちゃったけど……私は、勇者ではないですよ~」


「またまた、お戯れを。あの匂いに気付かれたのでしょう? 

 あれは、その資質がある人しか気が付かない様、魔法調合された勇者誘因剤の匂いです。あれに気付かれてドアに到達された時点であなた様は、立派な勇者ですよ!」


「えっ? え―――――――――――!!」


 しまった! やっぱりあんなドアにかかわるんじゃなかった……。

 これってあれだよね。最近流行りの異世界転生とかいうやつ……。

 というかあれって、死んで生まれ変わるのでは? 

 いや、召喚って言ってたから、生きたままこっちに引っ張って来られちゃったのか……あーん、どうしよう。


「ぐー」

 あ、お腹が鳴っちゃった。

 そういえば晩御飯まだだしなー。お母さん心配してるよね。


 その腹の虫の音を聞いて、さっきの兵士さんが

「こちらに食べるものもございますので、どうぞ」と声をかけてくれた。

 テーブルにはパンやら果物やらが籠に入って置かれていて、お好きにどうぞとの事だったので、とりあえず腹ごしらえをした。まずは落ち着かないと。


 ざっと周りを見渡してみると、みんないわゆる中世風の格好をしていて、剣や鎧をまとっている人もいる。しかも、よくみるとみんな耳が左右にとんがって突き出ている。いわゆるエルフとかいうやつだろうか。


 やはりお芝居でもなければ、自分の世界とは違う所だとハッキリ感じられる。

 そうしていると、偉そうな感じの僧侶風の人が近寄ってきた。


「勇者様。今日のところはお疲れでしょう。

 細かいお話は明日からに致しますので、ごゆっくりなさって下さい。

 とはいっても何も分からなくてお困りでしょうから、側付きを一人ご用意いたいましたので、なにかあればこの者にお申し付け下さい」

 そう言われて脇から、碧と同年代位のちょっと背の高い女性兵士が歩み寄ってきた。


「近衛騎士団の、マジラニカント・キャル・オスメトールと申します。

 以後宜しくお願い致します」

「マジ……さん? 宜しくお願い致します。私は……ヤミーでいいです」

「はは、長い名前で恐縮です。マジで結構ですよ。勇者ヤミー様」


 ◇◇◇


「勇者ヤミー様、今日はこの部屋でお休みください。後程、改めてお食事をお持ちします。他に何かご要望はございますか?」


 マジ……さんに案内されて、窓が無い、客室のような部屋に通された。

 ベッドは大きく、優にキングサイズはあるだろう。

 簡単な応接セットもあり、着替えも用意されている様だった。


「あの、マジ……さん。

 着替えはありがたいんだけれど、シャワーとか借りられないかしら? 

 部活後だったもんで、結構汗臭いのよね」

「はは、マジと呼び捨てで結構ですよ、勇者様。

 それで何ですか、そのシャワーと言うのは?」

「あー、それじゃ私もヤミーって呼んで。歳もそれほど違わなそうだし……。

 それで、シャワーっていうのは、んー……そう行水! 

 お湯で行水がしたいのだけど……お風呂と言った方がわかりやすいかな」


「なるほど、お湯で行水とはなんとも贅沢ですね。

 貴族でも滅多にそんな事はしないかも……。

 後で、たらいにお湯を用意いたしますので、それでお体を清めさせていただきますね。それに、同い歳位に見立てていただき大変光栄なのですが、私はエルフですので、多分、びっくりするくらい貴方様と歳は離れていると思いますよ」


「あっ、そうなんだ。

 多分文化レベルとかが前の世界と違うから、自分のペースじゃダメなんだね。

 私、まだよくわからない事だらけだから、これからもいろいろ教えてね。

 それにしても、本当に、あなた一体何歳なのー?」


 碧自身、時々、こうした自分の順応性の高さに驚く事があるが、持ち前の人懐っこさが、もう前面に出て来ている様だ。


「うーん、どうしましょうか……まあ、今はまだ内緒という事で……」

「えー、ケチー」


 やがて、大きな木製の手桶にお湯が入れられ、大量のタオルとともに部屋に運ばれてきた。


「それでは勇者様、お食事の前にサッパリ致しましょう。

 私が身体をお拭きいたしますので、その変わったお召し物をお脱ぎ下さい。

 洗濯に回しますね」

「へっ? い……いいわよ。体拭く位、自分で出来るから……」

「いえ、それはいけません。それは側付きの役目でございます!」

「そ、側付きの役目って……あなたは私のインストラクタみたいな人なんじゃ?」

「はい。そのインストなんとかは判りませんが、側付きは、勇者様の生活の一切を、ご不自由ない様にコーディネートし、あらゆるお手伝いをするものです。

 場合によっては、性欲の処理に使っていただいても構いません」


「ちょっと待ってよ。性欲の処理とか……私もあなたも女の子でしょ!」

 顔を真っ赤にしながら碧が食い下がる。

 男の子ともエッチした事ないのに、女の子ととか……。


「いえ、問題ありません。むしろあなたのお相手が男性だと、あなたが処女ではなくなってしまいますので、それはまずいのです」

「…………どういう事?」


 話が噛み合わないので、いったん冷静になろうと思い、碧は制服と下着を脱ぎ、湯着に着替え、床に敷かれた大きなタオルの上に正座しながら、マジに身体を拭いてもらいつつ、彼女の説明にゆっくり耳を傾けた。


 それによると、碧が勇者として召喚された理由は、キングとかいう魔王を退治するためで、そいつに勝つためには、処女の聖なる魔力を有した勇者が必須らしい。


 はは……処女限定……何てこった……


 そのため、召喚された勇者が修行を終え、本懐を遂げるまで、側付きは女性限定で、四六時中そばに侍って、生活の世話や護衛、訓練相手や実戦のサポートなどもするらしい。


 でも、このマジさん。女の私が憧れてしまいそうな位、すんごい美少女だ。

 こんな子と仲良くするのはそんなに苦じゃないかも知れないなどと思っていたら、背中を拭いていたマジの手が脇越しに前に延びてきた。


「勇者様、それではお胸を洗わさせていただきます」

「あっ、そこは自分で……」

 碧を無視して、マジの手が優しく碧の乳房をさする。これはこれで気持ちがいい

……ん? あ、当たってる!? マジの乳首が背中に当たってる!!


 マジはスレンダーな感じで胸はそれほど大きくはないが、今は薄い湯着になっていて、乳首がほんのり浮き出しているのが分った。

 なんとなく、マジの息遣いも荒くなっている様な気がする。


「はぁ、はぁ……勇者様、それでは次はあそこを……」

 そう言いながら、マジが手を下方に降ろしてくるが、さすがにそれ以上好きにさせるとダメな気がして、断固拒否して自分で洗った。


 ◇◇◇


「どうですか。サッパリされましたか?」

「どうって、サッパリはしたけど……あんな事まで……」

「あんな事とは?」

「胸とか股間とか……他人に洗ってもらう習慣はないんだけど……」

「なにかおかしかったですか? 我々エルフだと、あんな事は普通なのですが?」


 ふーん、そうなんだ…………何かに目覚めちゃったらどうするのよ!


 やがて夕食が運ばれてきて、食事を摂った後、就寝時間となった。

 聞きたい事や確認したい事は山ほどあるのだが、今日はなんか疲れた。

 さっきの沐浴のドキドキもまだ収まらない。


 とりあえず後は明日ね。

 そう思ってベッドに横になったら、マジが話しかけてきた。


「勇者様、私が添い寝させていただきます」

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