黒幕はかくありき 〜貴族に転生したので、念願の全てを裏で支配する【黒幕】になってみた。「力が欲しいか……?」がやりたいだけだから、神と呼ぶのはやめてくれ!〜
エリザベス
第1話 『黒幕』になってみた
「ひっ、ひぃ!! 殺さないでくれ!!」
「貴様は知りすぎた……ゆえに消されるのだ」
あぁ、たまらない……。
鮮やかな血しぶきとともに、目の前の肥えた豚のような貴族は首を跳ねられた。
剣を横なぎし、付着している血を払う眉目秀麗な少年。
そう、俺である。
極めつけはこのセリフ。
――貴様は知りすぎた……ゆえに消されるのだ。
やばっ、鼻血出る……。
もはやこれ以上かっこいい言葉なんてあるのだろうか、いやない!
あっ、スキルを回収するの忘れてた。
倒れたゲース子爵に手をかざすと、丸い光が浮き上がる。
それを手に取り、自分の中へと吸収する。
「【
最近はハズレスキルが多かったから、ちょっと嬉しい。
「ゲース様の部屋から物音がッ!」
「急げ! 賊を逃がすなッ!」
部屋の外からけたたましい声が聞こえてくるこの瞬間も、高級なカーペットが血に染まっていく。
かっこいい……。
かっこよすぎるぞ!! 俺!!
おっと、今はこんなことを考えている場合じゃなかった。
人も来たんだし、ずらかるとするか。
「【
スキルを発動させ、窓を伝って空を飛ぶ。
こうして、俺は夜を駆けた。
………………
…………
……
俺の前世はごく普通の日本人だ。
少し変わったところがあるとすれば、それは俺が『黒幕』というポジションに憧れていることくらい。
それなら、総理大臣を目指せばいいんじゃない?
そう思う人もいるが、俺からしたら溜まったもんじゃない。
好き放題できない上に、なにかやらかしたら非難を受ける。
そんなの真っ平御免だ。
なにより、ロマンがない。
だから、俺は経済で国を支配出来るように必死に働いた。
そして、過労死で死んだ。
志半ばでこの世を去ったかと思ったら、俺は異世界のジルフォード侯爵家の長男―――アビス・ジルフォードに転生していた。
俺は思った。これはチャンスだと。
侯爵家なら権力の基盤があり、裏で色々やりやすい。
なによりいい隠れ蓑だ。
いずれこの国―――メフェシア王国を裏で支配した際、誰も『黒幕』が侯爵家、しかもその長男だとは思わない。
そして、『黒幕』と言えば、やはりこのセリフだ。
「力が欲しいか……?」
うひょー! かっこよすぎるぅ!
幸運にも俺はこのセリフにピッタリのスキル【
これは殺した相手のスキルを自分のものに出来る上に、スキルの貸出までできる優れものだ。
そのために、俺は幼少期からぼちぼち敵対派閥の貴族を暗殺してきた。
そして、やつらの持つ様々な貴重かつ強力なスキルを手に入れた。
今はもはやスキルを集めすぎて、どんなのを持っているかすらよく覚えていない。
まあ、困ることはないだろう。
これならいつどん底に叩きつけられた者と対面しても問題はない。
「力が欲しいか……?」と言って適当なスキルを与えて、『黒幕』ムーブを堪能できる!
経済面だって根回ししておいた。
こっそり侯爵家の権力を使って、偽名で商会を立ち上げた。
そして前世の製品を開発し、売りさばいた。
それでたくさんの利益を手に入れた俺は銀行を立ち上げて、紙幣を発行した。
10歳の時からの事業だから、五年経った今ではメフェシア王国の通貨はほとんど俺の銀行が発行した紙幣になっている。
巷では、俺の銀行の所有者はどこかの豪商という噂で持ち切りだが、残念。
俺でした!
やばい。
今の考えただけで、脳内でドーパミンがドバドバ分泌されている。
こんな快感を俺は追い求めていたのだ!
封建社会で経済の重要性を上げるために、低利で色んな商会に融資しているし、工場設備なども低値で色んな人に売った。
軽く産業革命が起きたが、それで俺の影響力が増したから問題ない。
今どの商会も俺に逆らえない。
逆らおうものなら融資を停止してやる。
また、人心掌握のために、女性、特にシングルマザーを無償で援助している。
この地球でいう中世のような世界では、女性の貧困は想像を絶するほどだ。
食い扶持を失った女性達は娼婦となり、やりたくもないことをやらされているのは目に余る。
彼女たちを集めて、俺の商会の傘下の企業で雇った。
支配者は民あってのもの。
ゆえに民から見放されないことこそ最優先事項。
彼女達の支持を得るために、福利厚生を充実させ、年に一度の温泉旅行も設けてある。
ただ、まさかそれで入社希望者が殺到し、今では全国にネットワークを持つ大企業になっている。
これなら誰も俺に逆らえないだろう。
逆らったものはクビだから!
ちなみに、俺の商会、銀行と企業は等しく『ユメシス』という名前だ。
『夢の途中で死んだ』という臥薪嘗胆のような意味を込めての『
全部合わせて財閥という意味で俺は『ユメシスグループ』と呼んでいる。
国王でも簡単には手出しできないどころか、商会のいいなりである。
ただ、そんなことは絶対にバレないようにしている。
『表の支配者』あっての『黒幕』だ。
だから、国王のことはそれなりに大事にしている。
王宮での会議もお父様が国王を立てるようにお願いしてある。
敵対派閥の貴族の多くは謎の死を遂げているから、今は表立ってお父様に敵対するものはいない。
まさに、全ての権力が国王に集中しているように思われた。
しかし、その後ろに俺がいることを誰も知らない。
やばっ、ヨダレ出そう。
これで、俺は国王を隠れ蓑に好き放題できる。
問題があったらそれは国王のせいだ、俺は関係ない。
もちろん、『黒幕』になるための全ての工作は家族にも内密で行われている。
商会を立てる際もお父様にバレないように色々細工した。
この国の真の支配者が俺だとバレることは死を意味する。
そんなことがあったら俺の悪事は暴かれ、処刑されるだろう。
それだけが嫌だ!
俺は『黒幕』としてこの国に死ぬまで君臨していたいんだ。
気に食わぬものを闇に葬り、助けたいものを人知れずに助ける。
そして、夜が更けていく中、部屋でこのセリフを人知れずに呟く。
「ふふっ……誰も知らない、この国の真の支配者は俺だということをな……」
やばっ、脳が痺れてきた……。
もはや、これがやりたいがために『黒幕』を目指したまである。
メフェシア王国の掌握も一段落したから、これで俺の最初にやりたいこと―――『復讐に燃えている者に「力が欲しいか……?」と言って適当なスキルを貸し付けてその者の行く先を見守る』ができる。
何かあったら、こっそり助けてその復讐劇を盛り上げる。
「そろそろ朝か……」
さて、今日もいつも通り、路地裏を見て回って誰か倒れていないか探そう。
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