第310話 ごちそうします

「いやあ、美味い美味い」


「こりゃあ御馳走じゃのう。若返るわい」


 その後、ワイバーン解体の御礼に余った肉と骨を村人に提供した。

 パーティーに出す分の食材はキチンと確保している。しっかりと芯まで凍らせており腐敗対策もバッチリだった。

 ごちそうしたのは持ち帰るにも値しない細切れの肉と骨だったが、村人はそれをスープに調理して美味そうに食べていた。


「うんうん、スープも美味いな。レスト!」


「ああ……美味いな」


 村人から貰ったスープを飲み、レストとユーリも舌鼓を打っていた。

 嬉しそうなユーリに対して、レストはしかめっ面。

 スープの味に少しも不満はないが……竜肝のせいで元気になった下半身が気になっているである。


(竜種には基本的に精力増強効果があるんだな……気をつけよう。本当に)


 先ほどから、前屈みにならないと落ち着かない。

 傍にいるユーリの胸や尻にいつも以上に視線が吸い寄せられてしまうのを、鋼の意思によって必死に逸らした。


(肉には肝ほどの精力増強効果はないか……せめてもの救いだな)


「ありがとうございます、お二人とも。ワイバーン肉なんて滅多に食べられないから、みんな喜んでいます」


 案内人のリベリーがやってきて、二人に頭を下げてくる。

 彼女の手には料理の皿がある。肉料理が盛られているが……ワイバーン肉とは違う材料で作られた物に見えた。


「こちら、村の郷土料理です。田舎の味付けで申し訳ないんですけど……」


「へえ、美味そうじゃないか」


 肉の煮込み料理である。

 香ばしい匂いに誘われてフォークを付けると、口の中に独特の臭みが広がった。

 牛肉に近いがクセが強く、好き嫌いが分かれそうだが……少なくとも、レストは嫌いではない味だった。


「不思議な味だな。これも魔物肉か?」


「いえいえ、この村で飼っている家畜ですよ」


 リベリーが視線を横に向ける。

 そこには牛によく似た動物がいた。頭部に二本の角があって牛によく似たフォルムをしているものの、やけに毛が長いのが特徴的だった。


「ヤキューという動物です。この辺りの村ではよく飼われていて、乳はバターやチーズに加工されているんですよ」


「へえ、チーズか……それは酒のあてに良いかもしれないな」


「興味があるのなら、どうぞ。食べてみてください」


 リベリーが肉料理に続いて、カットされたチーズも出してくれた。

 こちらも悪くない味だ。チーズ自体はメジャーな食べ物なので、そこまで珍しさは感じないが。


「あ……でも、ピザとか出してみるのも良いかもしれないな……」


 ピザは具材によって味が大きく変わる。

 例えば、ワイバーン肉などをピザの具材にしてみるのも面白いかもしれない。

 肉だけではなく魚介などもピザの定番だ。海から離れた地域では魚介ピザなど食べないので、パーティーに出す料理として意外性があるだろう。


「美味い、美味いぞ。レスト。ほらほら、食べてみろ」


「うん、美味いのはわかったからあんまり近づくなよ。胸が当たってるぞ」


 ユーリがわざわざチーズをたべさせようとしてくれたが、レストは下半身が暴走しないようにそっと距離を取った。

 接近してくる凶器的な膨らみから意識を逸らすために真面目な話を口に出す。


「ワイバーン肉が手に入ったのは良し。あとは魚とか酒とかかな?」


「魚は知らないけど、酒だったらセレスティーヌに聞いてみたらどうだ?」


「セレスティーヌって……どうして、彼女の名前が出てくるんだ?」


 セレスティーヌ・クロッカスは公爵令嬢であり、レストにとっては同級生の友人。ついでに新しく婚約者になった女性だった。


「前にセレスティーヌが話していたんだ。父親が酒の収集を趣味にしているって。お酒のことになると我を忘れてしまうから困ると笑っていたぞ」


「ああ……だったら、珍しい酒についても知っているかもしれないな」


 いきなり公爵に会わせろというのは失礼な話だが、セレスティーヌであれば気軽に連絡が取れる仲だ。

 ワイバーンの肉を持ち帰ったら、王都まで会いに行っても良いかもしれない。


「おお、レスト! こっちの串焼きも美味しいぞ。食べてみてくれ!」


「ああ、そうだな……だから、今は近づかないでくれっ!」


 レストの下半身事情も知らずに抱き着いて肉を勧めてくるユーリに、レストは股間を手で押さえて叫ぶのであった。

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