第278話 デートです?(セレスティーヌ編)②
「この屋敷です」
「ここが……普通の屋敷に見えるな」
セレスティーヌに案内されたのは、時計塔から少し離れた場所にある屋敷だった。
二階建ての屋敷、猫の額ほどの広さの庭、周囲は鉄柵によって囲まれて部外者は入れないようになっている。
王太后というかつて国を牛耳った女性が所有しているとは思えない大きさの物で、せいぜい少し裕福な商人の屋敷……という規模だった。
「だからこそ、これまで気がつかなかったとも言えますわね。この屋敷は『サナダ・ショーコ』が所有者となっていますが、表向きの管理人は別人でした。もっとも……その人間も名前を貸しているだけで、屋敷に入ったこともないそうですけど」
「魔法の仕掛けがあると言っていたけど……中には入れないのか?」
「柵を越えるだけならば、如何様にも。難しいのは建物に入ることの方です」
セレスティーヌが鉄柵の門を開いて、敷地の中に入った。レストも後に続く。
庭は雑草が刈られる程度の管理がされているが、花や植木などの彩りはない殺風景な物だった。
それなのに……屋敷の玄関扉だけはやたらと立派。重厚感のある黒い扉が、レスト達の前に立ちふさがってくる。
「これが例の仕掛け扉です」
セレスティーヌが扉を指差して説明する。
「ドアノブの上に数字が書かれたパネルがありますよね? こちらを正確な順番で押していくことにより、カギが開くようになっているのですが……その順番も桁数もわからなくて、開けることができないのです」
「適当に押してみたらどうなるんだ?」
「調査に来た人間が試したようですけど、間違ったパネルを押したら電撃の魔法が発動するようです。電撃は致死性のものではありませんが、昏倒する程度には強力な魔法のようですわね」
「電撃……」
「何度か気絶してわかったことは、最初のパネルが『1』、次のパネルが『2』であるこ。それ以上は調査員の身体と心が保たず、続けられなかったとのことです」
「…………」
こういった数字式のパスワードの攻略法として、全ての数字パターンを試してみるという方法がある。
パネルの数字は『0』から『9』まで。パスワードが二桁であるのなら百パターン、三桁であるのなら千パターンを試せば、いつかは正解にたどり着く。
(でも……このパスワードが何桁なのかはわからない。仮に十桁であるのなら十の十乗だから……百億パターンか。現実的じゃないな)
電撃の罰ゲームがなかったとしても、やりたくはない。
調査に来た人間も適当に試したようだが……『12』という頭の二桁にたどり着くまで、何度も電撃を喰らって昏倒したはず。
「ん……パネルの上に何か彫ってあるな。かすれていて読めないけど……?」
「ああ、それも調査員から報告が上がっています。文字の解読もできていますわ」
セレスティーヌが一枚の紙を差し出してきた。
「所々が欠けて読みづらくなっていますけど……解読するに、このような文章が書いてあったものと思われますわ」
「フウン……」
レストは受け取った紙に目を通し、短い文章を目でなぞる。
『水兵の船、クラークなベリー』
「…………」
「『水兵の船』という言葉の意味も分かりませんし、クラークとベリーという人間が誰なのかもわかっていません。現在、王太后陛下の関係者を洗って、同名の人間がいないか調査中ですけど……」
「いや……調査はいらないよ。閃いたから」
「え?」
「えっと……最初は1,2で次は……」
レストは思い至った番号を入力していった。
桁数がかなり多かったが、どの数字を押せばよいかはすぐにわかった。
幸い、レストは前世で理系だった。理科の授業で教わった語呂合わせだって覚えている。
全ての数字を入力し終えると、ガチャリとカギが開く音がした。
「開いたよ」
「そんな……いったい、どうしてわかったんですか?」
セレスティーヌが驚き、口元を手で覆う。
レストはどう説明したものかと悩みつつ、適当な言い訳をすることにした。
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