第68話 魔法の得意・不得意
「はい、それでは『魔法修得』の授業を開始しますよ。皆さん、静粛にしてください」
穏やかな顔立ちの男性教員が現れて、授業開始を宣言する。
ユーリの爆弾発言によってざわついていた生徒達もさすがに静かになった。
「私が『魔法修得』の授業を担当させてもらいます、ヒューストン・バレティスと申します。Bクラスの担任も務めています。これから一年間、よろしくお願いしますね」
メガネで白髪頭、初老の男性教員は身なりの良いスーツを身に着けている。
Aクラスの担任であるMs.カーダーとは大違いで、落ち着いていて温厚そうな人物だった。
「えー……我々、魔法使いが普段から当たり前のように使用している魔法ですが、どのように発動しているか説明できる方はいますか?」
バレティスは特定の誰かを指名することなく教室全体に問いかけた。
生徒達がちらほらと手を挙げる。バレティスはそのうち一人を指名した。
「えーと、前列の君。名前を述べてから回答してください」
「はい、モーリス・ルーイです。僕達は魔法を使う際、脳内での術式の構築、魔力の装填、発動の三つのステップを経ています」
指名された真面目そうな生徒……モーリスが朗々と説明する。
「術式は『魔法陣』と呼ばれる図形のことで、脳内で構築した陣に魔力を流し込むことで魔法が発動します。図形の構築を補助するため、呪文や魔道具を使用する場合もあります」
「はい、よろしい。モーリス君の言うとおりです」
バレティスが柔和な笑みを浮かべて頷いた。
「新しい魔法を修得するということは、すなわち術式……魔法陣を記憶して、即座に脳裏に描くことをいいます。高度な魔法ほど術式が複雑となるため、使用が困難になります」
バレティスが解説をしていると、一人の女子生徒が挙手をした。
「はい、そこの君」
「エイミーです。平民なので姓はありません。先生のお話はつまり、術式を記憶さえできればどんな魔法でも使うことができるということですか?」
「もちろん、魔法の発動のためには相応の魔力が必要です。頭に描いた術式を充填させられるだけの魔力を持っていない場合、魔法は不発に終わるか不完全な状態で発動することになるでしょう。そして、複雑な上級魔法の魔方陣を寸分たがわず記憶して、即座に頭に描くには相当なセンスが必要となるでしょう」
バレティスが生徒の質問に穏やかな口調で答えた。
「また、人はそれぞれに『魔法出力』と『魔法属性』というものがあります。出力は一度に体外に放出することができる魔力量、属性はどの魔法に適しているかという属性です」
背後にある黒板にチョークを走らせ、いくつかの数字と図形を描いていく。
「たとえば発動に百の魔力が必要となる魔法があったとして、その人の出力が八十だとします。その場合、本来よりも威力の少ない不完全な形で魔法が発動することになります。また、使用者の魔力の属性が『水』に寄っている場合、水属性と相反する火属性の魔法を使用すると、これまた威力が減衰してしまいます」
黒板に描かれる十字の上に『火』、下に『水』。左右にはそれぞれ『風』と『土』の文字が書かれる。
さらに、十字の隣に横棒が一本。左右に『光』と『闇』という文字が足されていく。
「地水火風、そして光と闇。これらの六属性が基本的な魔力属性であるといわれています。ただし、人によってはこれらの属性に含まれない魔法……例えば【身体強化】や【治癒】などに適した魔力を持っている方もいますね。得意属性の魔法であれば、本来よりも高い威力となります」
バレティスは教室全体を見回して……ニッコリと微笑んだ。
「それでは、これから自分に適している属性を調べてみましょう。簡単なことです。元素魔法の基礎である【球】の魔法を使用するのです」
バレティスがそれぞれのテーブルに十センチ四方にカットされた紙の束を配っていった。
「そちらの紙は入学試験にも使用した、魔法の威力を測定する機器を簡略化したものです。紙に触れた魔法の威力を測定することができます」
バレティスが人差し指を立てて、魔法を発動。指の上に拳大の火の球が生じる。
バレティスが生み出した火球に紙をそっと触れさせると、そこに数字の『10』と表示された。
「【球】の魔法の基本的な威力は『10』。つまり、この数字よりも高い数字が紙に出れば得意属性となり、低い数字が出れば苦手属性ということになります」
つまり、六属性の【球】をそれぞれこの紙に触れさせることによって、自分に適した属性がわかるということ。
感覚ではなく数字として得意・不得意が測定できるのだから、とてもわかりやすい。
「それでは、試してみてください。使える方は【雷球】や【毒球】を使ってみてもいいですよ。くれぐれも周りの生徒に怪我をさせないよう、注意して魔法を使ってください」
魔法使用の許可が出され、クラスメイト達がそれぞれ魔法を発動させる。
発動した属性の球体に紙を近づけて、魔法の威力を測定した。
「私の得意属性は『火』と『雷』みたいね。苦手なのは『水』だったわ」
ヴィオラが火と雷の球体を生み出して紙に触れさせると、それぞれが20以上の数字を出していた。
反対に、水の球体は基本的な威力の半分以下の数字だった。
「私は『水』が得意みたいです。苦手なのは『火』でした」
同じように試したプリムラが言う。
双子でも属性が同じということはないようで、姉とは違う得意・不得意のようだった。
「レストは……すごいわね。全部ぴったり『10』じゃないの」
レストがやってみると、測ったように全てが同じ数字が出た。
まったく、得意・不得意がないようである。
「うーん……苦手な魔法がないのは良いけど、得意もないのならどの魔法を優先させて覚えたら良いかわからないよね」
レストは苦笑した。
要するに、器用貧乏ということである。
(まあ、どうせ見ただけで魔法は覚えられるんだ。これまで通り、片っ端から覚えていったらいいか)
レストは開き直ったようにそんなことを考えて、手に持った紙をテーブルに置いたのであった。
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