魔法使いが暗躍する世界で僕一人だけ最強のぼっち超能力者

おさない

第1話 ぼっちと不審者


 友達なんて普通に過ごしていたら勝手にできる。


 少なくとも、幼少期の僕はそう考えていた。


 全てが狂い始めたのは、小学五年生の時に転校を経験してから。


 お友達と涙のお別れをし、期待と不安を胸に新しい小学校へ転入。


 そして残りの二年間、休みの日以外は毎日登校して、気付けば誰とも友達になることなく卒業していた。


 卒業アルバムの余白ページが、真っ白でとても綺麗だった。僕は未だにこのページの使い道を知らない。


 ――それから中学校へ入学した。


 三年間、休みの日以外は毎日登校したはずだけど、記憶が曖昧でよく思いだせない。辛すぎる思い出は、早く忘れるようになっているらしい。


 気付けば手には卒業証書が握られていて、校舎には桜が散っていた。


 そう、僕は誰とも友達になることなく卒業したのだ。


 卒業アルバムの余白ページには、水を零したような跡がついていた。僕は未だにこのページの使い道を知らない。


 ……約五年間のぼっち生活を経て、分かったことがある。


 友達は普通に過ごしていたら勝手にできるものではない!


 もし友達が欲しいのであれば、自分から積極的に話しかける必要があるのだ!


 そんな教訓を心へと刻み込み、気持ちを新たに高校へ進学して、はや二ヶ月。


 思えば僕は、未だにクラスメイトと会話をしたことがない。おまけに誰の名前も覚えていない。顔と名前が一致しない!


 ここまでくると、もはや根本的なところから分からなくなってしまう。


 そもそも友達ってなんだっけ。何をしたら友達なんだっけ。友達ってこの世に実在してるんだっけ。友達って未確認生物の一種だっけ。仲の良い野良猫は友達にカウントしていいんだっけ。


 僕にはもう、何も分からない。友達という言葉の意味すら曖昧だ。


 とにかくそんなこんなで、僕は中学の時とほとんど変わらないぼっち生活を送っている。


 ただ、一つだけ変わったことといえば――


 *


「眠れない……」


 深夜、どうしても寝つけなかったので、僕は自室のベッドから起き上がった。


 いつも引きこもってるし、たまには近くの公園を散歩してみようと思い至ったのである。たぶん深夜だからテンションがおかしかったんだと思う。


 パジャマの上から長袖の黒いパーカーを着て、フードを目深に被り、黒いマスクとサングラスを装備する。


 これなら外に出ても安心だ。万が一誰かに遭遇しても僕だと分からないし、人目が気になる事もない。


 その姿はさながら†夜闇に紛れる漆黒の徘徊者†。


「……うわぁ、不審者だ」


 そう思ったけど、壁にかかっていた鏡に写る自分の姿がどう見ても不審者だったので、マスクとサングラスは置いていくことにした。


「これでよし……」


 部屋を出て、寝静まった家族を起こさないように階段を降り、玄関から家の外へ出る。


 今朝は雨が降っていたので、何となくじめじめしていた。


「だ、誰にも見つかりませんように……」


 それから僕は、歩いて数分もしない場所にある公園へと向かう。深夜なので人通りはない。人目を気にする必要なんてなかったみたいだ。


 少しだけ安心しつつ、公園の中へ足を踏み入れる。数分ほど道沿いに歩いて、並木道の真ん中あたりに差し掛かったその時。


「おい、人間」

「ひっ!?」


 突然、何者かに呼び止められた。


「………………」

「貴様のことだ、人間」


 本当に僕のことだろうか?


 いや、僕なんかが誰かに話しかけられるはずないし、きっと別の人を呼んでいるのだろう。そうに違いない。


「聞いているのか? 黒い服を着た貴様だ。無視をするな」

「ぁ、は、はぃ」


 聞いていないフリをしてスルーしようと思ったけど、無理そうなので慌てて返事をしながら振り返った。


 そこに立っていたのは、茶褐色の和服らしきものを着た、かなり背の高い男の人だ。どう見ても現代人のする格好ではない。


 ……もしかして、幽霊? それとも有名な作家の人? 文豪?


 僕は不安になって男の人の顔をじっと見つめるが、暗くてよく見えなかった。


「貴様、名はなんという?」


 一人であたふたしていると、男の人が威圧感のある低い声で聞いてくる。


「ぅ、海原うなばら一樹いつき……市立凪江なぎえ高校の……いっ、一年B組です……」


 とても怖かったので、思わず個人情報をほとんど開示してしまった。


 どうしよう。こんな怪しい人に名前や通っている高校を教えたって、何も良い事がないのに。


 僕は絶望する。泣きそう。


「虫けら、声が小さすぎて聞こえないぞ?」


 だけど、家族以外の人と話すのが久しぶりだったおかげで命拾いしたみたいだ。良かった。僕はほっと胸を撫で下ろすが、何故か悲しい気持ちになった。


 ともかく、次はちゃんと断ろう。


「あっ、その、名前とかは、個人情報だから……教えられるっ、られませんごめんなさいっ」


 噛んだ。


「……チッ」


 舌打ちされた。


 そういえば中学の時、僕の席を占領していたクラスメイトの女子に「授業が始まるから移動して欲しい」とお願いしたら、同じ反応をされたっけ。


 中学で女子と会話した記憶がそれしか残っていない。


「うっ」


 かつてのトラウマが蘇り、精神に深刻なダメージを受ける。胃液が込み上げてきた。吐きそう。帰りたい。不審者が深夜に徘徊してすみませんでした。


 もう家に帰してください!




 

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