第15話 「愚の骨頂」

 ビルサ城入り口にて、ウンケイと鈍牙どんがのバンキがにらみ合う。

「ケッケッケ! ここはビルサ様の国だ。ビルサ様がいる限り、そんな未来はやって来ねぇ」

 「そいつはどうかな。現にてめぇは負けたじゃねぇか」

 ウンケイがニヤリと笑う。バンキが顔を真っ赤にし、鼻息を荒くしている。

 「負けてねぇ負けてねぇ! これからお前が負けるんだよぉ!!」

 バンキが突進して来る。ウンケイが薙刀なぎなたで受け、ガンガンと刀と薙刀が何度もぶつかり合う。前回と同じく、バンキが力任せに刀を振っているが、ウンケイはそれを涼しい顔でたくみに受け流している。そのことに更に腹を立て、バンキが激しい猛攻を続ける。

 「こ、このぉ!!!」

 バンキが思い切り二本の刀を振る。ウンケイは後ろへ飛んでそれを避ける。

 「ハァハァ。避けたなぁ! 避けなきゃ死んでたからなぁ!」

 バンキが肩で息をしている。一方のウンケイは、相変わらず飄々ひょうひょうとしている。

 「あぁそうかもな」

 ウンケイがニヤリと笑う。そして薙刀を構え直し、腰を落とす。

 「今度は俺の番だ」

 ビュッ! 今度はウンケイがバンキに向かって来る。ガキィン! バンキが刀で受ける。受けて間もなく、次々とウンケイが薙刀を振る。こちらも前回同様、バンキは受けるのが精一杯。必死に刀で受けてはいるが、どんどんと後ろへ後退っていく。そして辛抱たまらず、バンキが後ろへ飛んで距離を取る。バンキは滝のように汗をかき、ゼエゼエと息を切らしている。

 「ハァハァハァハァ。くそっ!」

 「どうした? 避けなきゃ死んでたか?」

 ウンケイは変わらず涼しい顔をしている。するとバンキは顔を赤くしたまま、二本の刀を体の前で交差させる。

 「うるせぇ! 次でお前は死ぬんだ!」

 バンキが空高く飛び上がる。そのまま逆さになり頭が地面を向く。ウンケイはそれを見上げる。

 「今度こそ潰れろぉ! 必殺! “つるべ落鈍牙おとし”ぃ!!」

 空中でどんどん加速し、地上のウンケイへ近づいていく。ウンケイは薙刀を構える。ガキィィン!!! バンキとウンケイが激突する。バンキの体は宙に浮いたまま、ぶつかり合った刀と薙刀を挟み、両者が睨み合う。

 「ケケケケ! つくづく生意気だなお前はぁ!」

 するとバンキが、片方の刀を振り上げる。

 「だがこれで終わりだぁ!」

 ガキィィン!! バンキが逆さのまま、刀を振り下ろす。そして、そのまま刀を交互に振り下ろす。

 「必殺! “つるべ落鈍牙おとし 牙輪鈍刀かりんとう”!!!」

 がガガガガガッ!!! バンキが回転するように両方の刀を振り回し、ウンケイの薙刀との間で、激しく火花が飛んでいる。すると、下で連撃を受けるウンケイが徐々に押され、真下の地面がべっこりと陥没する。

 「うっ・・・!!」

 「ケケケケケケェ! このまま潰れろぉ!!!」

 耐えているウンケイの膝がどんどんと落ちていく。バンキは大笑いしながら、猛攻を続ける。そしてついには、ウンケイが地面に片膝を着き、地面もどんどんと陥没かんぼつしていく。

 「ケーッケッケ! このまま地獄に行くかぁ!!?」



 一方ビルサ城内の広間。しゃらくともう一人の二本牙にほんきば鋭牙えいがのキンバが睨み合っている。

 「てめぇのせいで散々だったんでなぁ。たっぷりお返しさせてもらうぜぇ」

 「それはてめぇが負けたからだろ。人のせいにすんな」

 「ケケケ。本当にムカつくぜ。あの時はただ油断しただけだ。勘違いするなよなぁ」

 「ふん。戦いの中で油断したお前の負けだぜ」

 しゃらくがニヤリと笑う。キンバは眉をひそめる。そして刀をしゃらくに向ける。

 「命拾いしたって事を、思い知らせてやるよぉ」

 ヒュッ! ガキィン! キンバが目にも止まらぬ速さで向かって来るが、しゃらくが鋭い爪で刀を弾く。ガキィン! ガキィン! ガキィン! しゃらくは鋭い爪や蹴りで、キンバは二本の刀で、互いに目にも止まらぬ猛攻を続ける。しかし前回同様、素手と刀では間合いが違う為、しゃらくの腕や足が斬られていく。

 「ケケケケ! 馬鹿だなてめぇ! 侍相手に素手で戦おうなど骨頂こっちょう! 身の程を思い知れぇ!」

 しゃらくはそれでも攻撃を続け、切り傷はどんどん増えていく。キンバは笑いながらも、物凄い速さで刀を振る。すると、しゃらくが前蹴りを入れる。キンバは刀で受けるも少し距離が出来る。しゃらくはその隙に、手を交差させキンバに向かう。

 「“獣爪十文字じゅうもんじ”!!」

 ザンッ!! しゃらくが鋭い爪でキンバに斬りかかる。しかし、切り裂いたのは着物の一部で、キンバは上空に飛び、しゃらくの攻撃を避けている。

 「くっ! 外した!」

 しゃらくが、上空に飛んだキンバを見上げる。

 「ケーッケッケッケ! 遅いぜ遅いぜぇ。止まって見えるなぁ」

 「何ィ!? この野郎ォ!!」

 しゃらくがムッとし、顔を赤くする。するとキンバが空中で向きを変え、頭を下に逆さの状態になる。

 「俺の動きに付いて来れるかぁ? 必殺! “鎌鼬牙かまいたち”!!」

 ズバズバズバァァ!!! 一瞬のうちにしゃらくの体中が斬られ、全身から血が噴き出す。前回の傷も開いたようで、かなり出血しており、しゃらくは膝を着く。

 「ケーッケッケッケッケェ!! どうだ分かったかぁ? 十二支えと将軍しょうぐんの幹部に、お前ごとき小僧が歯向かえばどうなるかをよぉ!」

 キンバが大笑いしながら、刀にびっしりと付いた血を舐めている。血だらけのしゃらくは、体が倒れないよう拳を床に着き、歯を食いしばって堪えている。

 「・・・っ!!」

 しゃらくは震えながらも顔を上げ、キンバを睨みつける。キンバはしゃらくの目つきを見て、眉をひそめる。

 「何だその目はぁ? さっさとくたばれよなぁ。生意気だぜ」

 キンバは、満身創痍まんしんそういにも見えるしゃらくに、容赦ようしゃなく刀を向ける。しゃらくは依然いぜん、キンバを睨みつける。

 「・・・おれは、十二支えと将軍を超えるんだ。・・・その手下の手下ごときに、・・・負けてたまるかよォ」

 しゃらくが血まみれの顔でニヤリと笑う。

 「・・・無礼者め。望み通りぶっ殺してやるよぉ!!」

 ヒュッ! キンバが消える。しゃらくはゆっくりと立ち上がり、周囲を警戒する。

 「そんな体で、俺の動きに付いて来れるか? ケケケケ!」

 キンバの声は聞こえるが姿は見えず、天井のはりや壁を蹴る音だけが、至る所から聞こえてくる。しゃらくは静かに身構えている。刹那せつな、しゃらくが目を見開く。ガキィィン!!! しゃらくがキンバの攻撃を爪で弾く。ガキィィン!! ガキィン!! ガキン! キンバの目にも止まらぬ攻撃を、次々としゃらくが弾いていく。バリィィン!!! すると、しゃらくの爪で弾かれ、キンバの片方の刀が折れる。キンバが目を丸くしていると、すかさずしゃらくが顔面を殴り、キンバが吹っ飛んでいく。しゃらくが、自分の顔をビシビシと両手で叩く。

 「しゃんとしろォ!! こんなところで負けてられねェ!!」

 すると、吹っ飛んでいったキンバがゆっくり立ち上がる。キンバは折れた刀を見つめ、その後しゃらくを睨む。

 「よくも俺の牙を折りやがったな。しぶとい奴だ。その体で何故なぜ動ける」

 「何度も言わせるな。おれは、十二支えと将軍を全員ぶっ飛ばすまでは死なねェ」

 するとキンバが、折れた刀ともう一方の刀を交差させ、しゃらくに向ける。片足を大きく後ろへ引き、腰を低く構える。

 「ケケケケ。何度も言わせるな。上には上がいるんだ。お前がビルサ様の元へ行くことは決して無い」

 キンバがニヤリと笑う。すると、キンバの体がユラユラと揺らめきだし、そのまま姿が消える。しゃらくは咄嗟とっさに腕で防御する。

 「必殺! “鎌鼬牙かまいたち 辻風つじり”!!!」

 ズバズバズバズバズバァァッ!!! しゃらくの全身が連続で斬られる。終わらない斬撃に、しゃらくの意識が朦朧もうろうとしていく。

 「ぐふっ・・・」

 完

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