第9話 文学少女と天才ピアニスト その七
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そんなわけで、ぼく達は目的地のハンバーガーショップに入ると、各自で注文していく。
「それで沙音、何を食べるんだい?」
ぼくはメニューを見ながら沙音に尋ねる。
「う~ん……テリヤキもいいけど……チーズもありかも……サヨサヨは?」
「ぼくはもう決まってるよ、オーソドックスに普通のハンバーガーセットにしようかと思ってるよ」
「相変わらず早いな」
天道さんはそんなぼく達の会話を聞いて苦笑する。
「そういう天道さんはどれにするんだい?」
「俺はチーズバーガーのセットにしようと思う」
「二人とも選ぶの早すぎ!! こういうときって迷わないの!?」
ぼく達の素早い注文に沙音は驚きの声を上げる。
「まあ、ぼくは食べやすいものを選んでいるだけだよ」
「俺も、結構迷うほうだからな……迷ったときはシンプルなものを選ぶことにしているんだ」
ぼくと天道さんの言葉に沙音は信じられないといった表情をする。まあ、人によって考え方は違うからこういうときに性格が表れるんだろう。
それから数分後、沙音は悩みに悩んだ結果、テリヤキバーガーのセットを選んだ。
それからそれぞれが注文して品物を受け取ると、テーブル席に座って食べることにした。
席はぼくが窓際でその隣に沙音、対面に天道さんが座っている形だ。
「改めてさっきは助かったよ、天道さん」
「ホント、マジで助かったし、ありがとね!!」
「別にたまたま通りがかっただけだって」
ぼくと沙音の言葉に天道さんは苦笑する。そんな彼を見ながら、沙音は思い出したように口を開く。
「そういえば天道って、今日はこの辺に何か用があったの?」
「暇だったからブラついていただけだな」
「へぇ~、そうなんだ~」
沙音は天道さんの言葉を聞くとポテトを摘まんで口に運んだ。ぼくも同じようにポテトを食べながら、天道さんのほうを見る。
「そういう二人は?」
「あーしたちは、仲良くデートだよ」
天道さんの問いに沙音はあっさりと答える。ぼくはそんな彼女の言葉を否定することはせず、黙ってポテトを食べる。
「ふ~ん、二人ともいつの間にそんなに仲良くなったんだよ」
「あれ? 反応が薄い? あーしとサヨサヨがデートしてるんだよ、もっと何かないの?」
沙音は天道さんの反応が想像していたものとは違い、少し戸惑った様子を見せる。
「いや……最近は女の子同士で遊びに行くこともデートって言い方したりするからな」
「あ~、知ってたんだ、てっきりテンパるかと思ったけど……」
沙音は拍子抜けしたような表情をする。どうやら沙音の思惑が外れてしまったらしい。
「正直、二人と一緒にこうしてお昼を食べているほうが別の意味でドキドキしているけどな」
「おや? それはどういう意味だい?」
天道さんの言葉にぼくはすかさず聞き返していく。
「お前、分かってて言ってるだろ」
「ハハハ、なんのことかな?」
ぼくはとぼけるように首を傾げる。すると、沙音は何かに気が付いたようにニヤニヤしながら天道さんのほうを見る。
「ふ~ん、もしかして~天道……あーしたちと一緒にお昼食べてて緊張してるとか?」
「まあ、それもあるが……うちの学校の三大美人の二人とこうしている姿を誰かに見られたらと思うと……な」
天道さんはそう言いながら、ぼくと沙音のほうを見る。
「三大美人って、サヨサヨがあーしに教えてくれたやつだよね」
「そうだね、実際のところ何でぼくも三大美人に数えられているのか不思議で仕方ないけどね」
まだ入学して三ヶ月程度しか経ってないのに、一年であるぼくが数えられているのは正直疑問だ。それにこの三ヶ月間は基本的に図書室で過ごしていただけで、学内でぼくの姿はみんなに知られてないはずなのに。
「いや……本郷は一年の中でもかなり有名だぞ」
「えっ?」
天道さんの言葉にぼくは思わず間の抜けた声を漏らした。
「図書室に現れる端麗な文学少女、その美貌と物静かそうな佇まいから三大美人の一人にも数えられているぞ」
天道さんからそんな説明を受けたぼくは思わず苦笑してしまった。まさかぼくがそんな風に呼ばれているなんてね。
「しかも三大美人の中で男子よりも女子人気のほうが一番高い」
「あぁ~分かるかも」
天道さんの言葉に沙音は納得したように頷く。
「そうなのかい? まあ、顔が整っているのは自覚あるが、沙音のほうが明るくて可愛いし、女子にも人気あると思うんだけどね」
「アハハ……ちょっと本人の前でいうなし」
沙音は恥ずかしそうに笑いながらぼくを小突く。
「まあ、確かに月城は男女問わず人気あるな」
天道さんはそう言いながらハンバーガーに齧り付く。
「だろうね」
ぼくはそう言いながらハンバーガーを齧る。
「ただ男子からは特に優しそうなギャル的な意味での人気が高いな、あの笑顔は反則だって騒いでるやつもいるぞ」
なるほど、つまり沙音の人気はギャル的な意味合いでの男子人気ってことか。そういった理由なら沙音が選ばれるのに納得ができる。
「確かにこんな美人に優しくされれば誰だって惚れてしまうだろうね」
ぼくの発言に沙音は顔を真っ赤にする。
「もう!! サヨサヨ!!」
沙音は恥ずかしさからか、ぼくを軽く叩く。そして沙音は誤魔化すようにジュースを飲むと話題を変える。
「っていうかさ!! 天道も結構モテるでしょ? だってイケメンだし」
「いや、俺は全然モテないぞ」
「またまた~」
そんなやり取りを見ながら、ぼくは黙々とハンバーガーを食べる。確かに天道さんはかっこいい部類に入ると思うし、彼に好意を寄せている女の子はいるだろう。実際に中学のときは結構告白されているのを何度も見た。
「あっ!? もしかして、天道って実は好きな人がもういる感じ!?」
そう言いながら沙音はぼくのほうに視線を向ける。
「なんで沙音はぼくを見るんだい?」
「えぇ~? だって二人は幼馴染み何だよね~てことは~つまり……」
沙音はニヤニヤしながらぼくを見つめる。そして天道さんも何かを察したような表情になる。
「いやいや、確かに俺と本郷は幼馴染みだけど、そういうのはない」
「えぇ~、ホントに~? 怪しいな~」
天道さんの否定の言葉に沙音は訝しげな表情を浮かべる。
「沙音、そろそろからかうのはやめてくれ」
ぼくはそう言って沙音のほうに視線を向けた。流石にこれ以上天道さんに迷惑を掛けるわけにはいかない。
「天道さんこういうからかわれかたされるのが、一番嫌みたいだから」
「えっ? そうなの……なんかゴメンね」
沙音は申し訳なさそうに、天道さんに謝る。天道さんはそんな沙音の行動に少し驚いた表情を浮かべたあと、すぐに優しく微笑んだ。
「いや、別に怒ってないから謝らなくてもいい」
「でも……イヤな気持ちにさせたのは確かだし……」
「まあ、確かにあまり好きじゃないが……もう慣れた」
天道さんはそう言って苦笑すると、ジュースを飲み始めた。彼の表情をみた沙音はホッとしたような表情を浮かべていた。
「まあ、昔振った女のことで、あれやこれやとは言われたくはないだろうからね」
「ブホッ!?」
ぼくの発言に天道さんはジュースを噴き出した。
「えっ!? えっ!?」
沙音は天道さんの反応を見て戸惑いの表情を浮かべながらぼくと天道さんを交互に見つめる。
「お前!! 急になんだよ!! ビックリするだろ!!」
天道さんはぼくにそう言いながら溢したジュースを拭いていた。ぼくはそんな天道さんを気にすることなく、沙音のほうへ再び視線を向ける。
「別に隠す必要もないだろう? ぼくが天道さんに告白をして、見事に玉砕したそれだけの話さ」
「マジで!?」
沙音はぼくの言葉に驚きの声を上げたあと、すぐに困惑した表情で天道さんのほうを見る。
「いや……まあ、その通りだが……」
天道さんは気まずそうな表情を浮かべながら視線を逸らす。沙音はぼくと天道さんを交互に見つめていた。そんな沙音にぼくは苦笑しながら口を開く。
「正直こっぴどく振られた訳だが、今ではこの通り仲の良い幼馴染みをさせてあげているのさ」
「いや、確かにその通りだが……お前が言うとなんかムカつくな……」
天道さんはそう言ってぼくを睨む。
「ふ~ん……そうなんだ……なんか良いじゃん」
沙音はどこか羨望の眼差しでぼくと天道さんのほうを見るとハッと何かに気が付いたような表情を浮かべる。
「って、サヨサヨ振られてるのに何言っちゃってるんだろうね、あーし」
「いや、気にしなくていいよ、昔の話さ、ただの女子中学生が初恋を終わらせただけの話だよ」
ぼくが彼女のほうを見てそう笑う。沙音にはぼくと天道さんのことで変に気を使って欲しくない。
「う、うん……まあ、そっか……」
沙音は少し戸惑った様子を見せるが、すぐに安心したような笑みを浮かべた。
「けど、サヨサヨを振るなんて勿体な、あーしだったら迷わずOKするのに」
『えっ?』
沙音の発言にぼくと天道さんは同時に驚きの声を上げる。
「ん? 二人ともどうしたの?」
そんなぼくたちの反応を見た沙音は不思議そうに首を傾げた。
「いや、月城って実は男よりも女の子に……興味あるタイプなのか?」
「えっ? いや、別にそういうわけじゃないけど」
沙音は困惑した表情でぼくと天道さんのほうを見る。沙音自身には別に同性愛のケはないみたいだ。それなら彼女の発言に特に深い意味はないだろう。しかし、ぼくの聞き間違いでなければ、沙音は確かに言ったはずだ。
『あーしだったら迷わずOKするのに』と……これはどう解釈すれば良いのだろうか? 彼女が同性愛者ではないのなら単純に友人としてぼくを好きだと言っているだけだろうか。
「ああ!! あーしの発言に二人とも困惑している感じ!?」
沙音はぼくと天道さんの顔を交互に見る。
「まあ……な……」
「うん、正直に言うと困惑しているよ」
天道さんとぼくはほぼ同時にそう言うと苦笑した。
「あーしの場合、好きになったら男女関係なくOKしちゃうタイプだから」
「つまり、沙音は男性でも女性でも好きになれると?」
「そうゆうこと」
沙音はあっさりとそう言うと、ハンバーガーに齧り付く。
「まあ、あーしの場合、誰かのこと好きになったら一直線みたいになると思うから、性別なんて関係ないって感じ」
沙音はそう言いながら笑みを浮かべた。そんな彼女の表情を見て、ぼくはどこか納得した感じがした。
確かに沙音は誰かを好きになったら一途に想いそうだな。
ぼくは沙音を見ながらそんなことを思う。
「その点サヨサヨは顔も性格も結構好きだし、何かあってコロって落ちちゃったら絶対に恋愛対象として見ちゃうかも」
沙音はあっけらかんとした態度でぼくに微笑みかける。
「ハハハ……それは光栄だね」
ぼくは沙音の発言に乾いた笑いで返した。天道さんのほうを見ると彼も苦笑していた。
「いや、月城は本郷の顔が好みって言うが、二人ともよく見ると顔がスゲーそっくりだなって」
天道さんはそう言うとぼくと沙音の顔を交互に見る。
「そういえばさっきのナンパ男たちも同じようなことを言っていたね」
ぼくは先程のことを思い出しながらそう言った。
その言葉に沙音は何か思い出したかのように口を開いた。
「そういや、ナンパ男たち、あーしたちのこと、芸能人の誰かに似てるなんて言っていたような気がする」
「それはナンパの口説き文句じゃないのか? 具体的な名前とかは言っていなかったんだろ」
「確かにそんな気はする、でも、なぜかあーしとサヨサヨって顔のパーツは殆ど同じっぽいだよね」
沙音はぼくのほうに顔を向けてそう言う。まあ、確かにぼくと沙音は顔のパーツはかなり似ていると思っていた。
てっきりぼくの思い過ごしかと思っていたが、天道さんや見ず知らずの他人までが見てもそう見えるなら、確かに沙音とぼくの顔は似ているのかもしれない。
「それにしてもマジでそっくりだよな……顔もって思ったけど、声も同じじゃないか?」
「そうかい? まあ、さすがにそこまでは似ていないと思うけど」
天道さんの疑問にぼくは苦笑しながら答えた。
顔のパーツが似ているのは、まあ認めることにする。けど、声が似ていると言われてもピンとはこない。
「いや……俺は結構似てると思うけどな……」
「まっ、どっちでもよくない? あーしはサヨサヨと似てるって言われて、悪い気はしないよ」
沙音はそう言ってニカッと笑った。そんな彼女の笑顔を見て思わずドキッとする。やはり、沙音がぼくに対して割りと好意的な感情を持っていることを知ってしまっただろうからか。
「本人たちが気にしないならいいか」
天道さんは納得したようにそう呟いた。
「ってか、サヨサヨとあーしがそっくりならウィッグで髪型同じにしたら、マジで姉妹とか双子みたいになりそう」
「ああ、それは……あるかもしれないな……」
おそらく天道さんはぼくたちがお揃いの格好をした姿を想像したのだろう。そんな彼の表情はどこか難しそうな表情を浮かべていた。
「マジで、同じ髪型、服装をしたら俺は間違える自信があるぞ」
「そんなにかい?」
「ああ、本郷か月城かどっちか分からないレベルだ」
天道さんは少し複雑そうな表情を浮かべながらそう言う。
それを聞いて沙音は何か面白そうなことを思い付いたのか、笑みを浮かべた。
「じゃあさ!! 今からマジで上から下まで完全にお揃いにしてさ、写真撮ろうよ!!」
「えっ!? ああ……まあ、別にいいけど……」
沙音の提案にぼくは少し困惑した表情を浮かべた。
「よし!! じゃあ、このあとは服見に行って、お揃いのコーデで買おう!!」
「まあ……別にいいけど……」
「それにサヨサヨには色んなコーデを着せたいし!! メイクとかもしてみたいし!!」
「アハハ……お手柔らかに頼むよ」
「よし、そうと決まればサヨサヨ!! 早く食べて服見に行こうよ!!」
沙音はそう言って残ったハンバーガーを一気に頬張ると立ち上がった。
そしてぼくのほうを見ながら笑みを浮かべた。
「おいおい、そんなに急がなくてもまだ時間あるだろ」
「ほら、サヨサヨも早く食べて!!」
「ハハ……はいはい」
ぼくはそんな彼女に苦笑しながら、残っていたハンバーガーを急いで食べ始めた。
「そういえば天道はどうする?」
沙音は食べ終わったあと、ジュースを飲みながら天道さんのほうを見た。
「俺はもう少しゆっくりしていくよ」
「そっか、じゃあ、またね!!」
「ああ、本郷もまたな」
天道さんはそう言ってぼくに挨拶をすると、沙音はぼくを連れてフードコートをあとにした。
「よし、それじゃあ、まずは何から買おうか?」
「そうだね……まずはお互いに似合いそうな服でも探そうか」
「オッケー!! じゃあ、まずあそこのお店にいこう!!」
沙音はぼくの手を握りながらそう笑うと、再び歩き出した。そんな沙音の後ろ姿を見ながらぼくは思わず小さく笑みを溢した。
それから沙音は色々な店を周りながらぼくを着せ替え人形にして遊ぶのだった。
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