理由say群

あめはしつつじ

2023/11/05

 コンビニは昼の内に行っておく。

 夜にあんなルクスの高い場所に行くと、

 暗順応に時間がかかるからだ。

 虚数の書かれた看板の店で、

 おでんとカップ酒を買う。

 おでんは、レジの所でなく、

 袋入りのものを買う。

 安いのはもちろんのこと、

 出汁がたくさん入っているからだ。

 カップ酒は一番安いので十分なのだが、

 最近は値札の貼ってない場合が多い。

 確か一番安かったはずという理由と、

 星を見に行くのだからと理由で、

 月桂冠を二つ買う。

 よくよく考えれば、

 星を見るのに、月はいらないなと思う。

 中秋の名月が確か、月末だったから、

 今日は下弦の月に近いはず。

 月の入りは真夜中だから、

 星を見ていられるのは、

 二十時から日付が変わるまでくらいか。

 仕事が早く終われば良いが。




 十九時四十七分着の電車で、駅に着き。

 駅まで徒歩十分の自宅まで、

 十五分以上かけての帰宅。

 駅から家までは、

 徒歩十分の距離ながら、

 実際はほとんどが上り坂のため、

 五分以上、余計にかかってしまう。

 家に着く。二十時少し過ぎ。

 ただいまと言っても、

 何も返ってこない。

 真っ暗の家の中を、キッチンまで行き、

 冷蔵庫を開ける、少し眩しい。

 買い置きの発泡酒を開け、流し込む。

 上手い、

 仕事で疲れていたからだろうか。

 冷蔵庫の中の本数を確認する。

 次からは何を買うか悩む。

 ビールの酒税が安くなって、

 発泡酒が高くなった理由に、

 私はまだ、納得がいってない。

 キッチンの豆電球を点け、

 冷蔵庫の扉を閉める。

 薄暗い中、

 もう一度、発泡酒を飲み、

 準備に取り掛かる。

 鍋に袋入りのおでんを敷くように入れ、

 水を入れ、コンロにかける、

 タイマーは六分。

 電子レンジがあるのにも関わらず、

 対象物以外に水と鍋を温める必要があり、

 どう考えてもエネルギー効率の悪い、

 湯煎を選ぶのは、

 なんか美味しい気がするという、

 くだらない理由である。

 おでんの湯煎の間に、

 自分も湯洗、

 湯船ではなく、シャワーではあるが。

 シャワー中は風呂場の電気は点けない。

 脳に入る刺激を減らし、

 リラックスする。


 いつもと違い、ちょっと他所行きの、

 ジャージに着替える。

 キッチンに戻り、残っている発泡酒を飲む。

 鍋からおでんを取り出し、

 首にかけていたタオルで、水気を取る。

 鍋の中、残ったお湯の中に、

 蓋を開けたカップ酒を入れ、

 再び火にかける。

 おでんは、封を切って、

 タイガーの魔法瓶の中に入れる。

 象印でなくタイガーを選んだのは、

 体積に比べ表面積の小さい象よりも、

 虎の毛皮の方が暖かそうだと、

 思ったからだ。

 発泡酒を飲み終え、

 燗のついたカップ酒も、

 魔法瓶の中に入れる。

 蓋をしっかりと閉め、

 準備完了。

 おでんと酒の入ったタイガーの魔法瓶。

 タイガーのレザーシート、ではなく、

 ただのレジャーシートだけを持って、

 (わかりにくい駄洒落は、

 空きっ腹に入れた発泡酒による、

 酔いのためであろうか)

 家を出る。

 夜にドアの鍵を閉める時、

 別に誰もいないのに、

 静かに閉めてしまうのは、なぜだろうか。

 山の中腹にある自宅から、

 天辺の公園を目指し、

 坂を登る。


 私は秋の夜空が好きだ。

 天高く馬肥ゆる秋、

 空気中に含まれる水分が少ないため、

 シーイングが良いからという理由と、

 何もないからだ。

 何もないという、言い方は、

 少々語弊があるかもしれない。

 秋の夜空は、地味、なのだ。

 天の川や大三角のない、

 ペガススの大四辺形などと言われても、

 どこにあるのか分かりにくい。

 唯一の一等星、

 フォーマルハウトも、

 水平線近くで、分かりにくい。

 強い言い方をすれば、

 見るものがない。

 だが、

 それがいい。

 星々は結ばれることなく、

 物語りを秘められることもなく。

 ただ、輝いている。

 私は何も考えることなく、

 ただ、ぼーっとして、


 魔法瓶の中が空になったから、

 帰らなければいけない。

 もうすぐ、

 オリオンや、月も出てくる。

 けれど、帰りたくない。

 明日も仕事があるから。

 いきたくないなー、と一言愚痴ると。

 流れ星が流れた。


 家に帰って、

 理科年表を開く。

 あの流れ星は、

 おうし座流星群からか。

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