第11話 本当に愛すべき人

 ……つつがなく帝位がキーラへ禅譲され、キーラが女帝陛下となった後。


 ただの男爵家令嬢となった私とエドワード殿は晴れて婚約者同士となりました。

式場の手配や神殿との日程を調整しているので、まだ婚約者なのですが、来月の女神のための祝祭日に、名実ともに夫婦になるのです。


 サティーナ様は隣国の面食いの上に美貌で有名な第二王子に嫁ぎ、そのまま二人は臣籍降下して公爵となりました。面食い同士、上手く行っているような気がします。


 キーラはユーゴ殿、ギベルト殿、そして……何とあのローディと結婚しました。

まさかこの二人が慕いあっていたなんて、気付きませんでした。

「この妾が、隠すことに必死でしたもの。ユリアごときに気付かせる訳がないでしょう」

ローディは男爵の位を貰い、内外で積極的にキーラを支えています。

特に内政に関しては、彼の助言や判断に間違いはないようです。貧農の生まれでしたが、学舎をずば抜けた成績で卒業し、エドワード殿もその才覚を見込んで帝国城に採用するよう、密かに働きかけただけはあります。

「僕は一目惚れでした……でも遙か上の皇女殿下と知って……悲しかった……」

「それで諦めるなんて妾が許すと思って?精々、妾が皇女に位を譲り渡すまでは妾と国のために尽くしなさい」

はい、とローディは何度も頷きました。微笑みながら。

何かと腹黒いキーラをここまで慕っているのですから、彼もなかなかだと思いました。


 「エド」

「何だい、ユリ」

「見て、あの子達のお墓に……」

「……きっと生き残った子が運んできてくれたのだろうね」

私達の視線の先、たおやかにそよ風に揺れながら薄紅色の花が咲いていました。

「どうか……どうか安らかでありますように」

あの子達のために祈りながら、エドは歯を食いしばりました。


 「幸せになって」


……あの子達の笑い声が聞こえたような気がしました。

エドは私にすがって、涙を堪えていました。

「ねえ」

彼と結婚して三年が過ぎました。私は優しい声を出して告げます。

「実は、私はもうエドを一番には愛せないのよ」

――見る間にエドは青くなって慌てふためきました。

「君にいつもしつこかったから……!?いや、仕事を優先することが多かったから!?朝起きる時に寝坊しようとしたから……?!この頃ハーブティーを淹れられていないから……!?」

「悪いけれど、そのどれでもないの」

私はエドの手を私の腹に当てました。


 「ここに私達が一番に愛すべき存在がいるからなのよ」

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