第64話 被害者と共にダンジョンへ。私、無言の見守り



 歌みた公開から一週間。

 かなりのヒットを記録し、このままでは第二弾になりそうと心配になりつつある宵闇です。


「最近、私の生活が改善してきてる件について」


 ・

『いきなりどした?』

『改善?社長の生活が?』

『そんな馬鹿なっ!あの仕事人間だった社長が!』

 ・


「いや、撮影とかさダンジョンとかさ、なんだかんだ事務作業以外の仕事の量が増えたせいで逆に合計の仕事量は減ったんだよな」


 撮影するから、とかダンジョン潜るからってやってたら聡子とか結構調整してくれて、私がやらなきゃいけない仕事以外は受け持ってくれてるらしいんだよね。

 私がやるって言っても、大丈夫だって言うし、結果私の仕事減った。


「そうなると、明日撮影〜とかだったら早く寝るし、時間があれば家に普通に帰るし、なんでか生活の質が上がってんのよ」


 ・

『それが普通な希ガス』

『なんで仕事増えたら仕事減るんだよ』

『理解が、理解がっ』

『でも、そのお陰で社長を見れるわけだからな』

『おーい、社長は社長だぞ〜』

 ・


「絶対的に拘束される仕事があるってわかってればその時間を考慮して仕事を抱え込まなくなったのも一つの理由だな」


 限界ギリギリの量を溜め込んでそれを終わらせるってのがある程度の余裕を持って仕事してるになって、その差分で休めてるイメージ。

 ある程度余裕を持つことの大切さを知ったよ。


「というわけで、行くぞ」

「うぅぅぅ……死にたくないよぉ」


 なぜ私があんなこと喋ってたと思う?この配信主の翔がこんな感じだからだよ。


「改めて今日の説明をするぞ」


 今日のダンジョンの予定は私と翔の二人パーティで翔に五十階の先を教えようの回だ。

 と、それに対して翔がこうなったわけであります。


「なんでビビってんだよ」

「い、いや!だって私、ギリギリ人間ラインなのに、本当の人外が戦う場所でなんて嫌だよ!」


 ……確かにランク6はよく人外扱いされるけど、お前らが人間ラインなのは納得いかんな。


「大丈夫だ、死ぬ前に助ける。なんなら死んでも大丈夫だぞ?」

「えっ?それ、比喩的表現だよね?」

「ぴゅ〜ピュピュ〜」


 ・

『この顔、マジそう』

『さらに顔が青くなっていく翔』

『いつも余裕だったり、ふざけてたりする翔がここまで怯えるのも中々ないよな』

『こういうの好きやわ』

『お前ぇ』 

 ・


「さ、行くぞー」

「嫌だーッ!死にたくないぃぃ」


 もちろん、問答無用で引きずりました。



 さて、ダンジョン五十階の先、五十一階に到着しました。

 えっ?ボス?ワンパンしたよ。


「あんなに苦労したのに……」

「まだまだだな」


 ・

『あんなに手こずったボスを一撃で小石の如く処理される』

『いつものことじゃん?』

『翔のなんとも言えない顔がまた良き』

『まだ手を使っただけあいつは強かったよ』

『基準がヤベェい』

 ・


「社長が強すぎるだけだって」

「そりゃな」


 逆にこれくらいできなきゃランク7判定もらえないんだよな。


「さ、お話はここまでにしとくか。来るぞ〜」

「い、いきなりっ。やったらぁい!」


 現れたのはシンプルな狼型の魔物が十体ほど。


 ・

『五十一階とはいえ、沸くのは案外普通?』

『もっとゲテモノ想像してたわ』

『ホントにな』

『いや待て!シンプル強いかもしれんぞ!』

『そりゃ、五十一階!人外領域やぞ!』

 ・


 まぁ、コメも言ってる通り見た目通りではないな。


『『『がぁっ!』』』

「えっ、ちょっ!?」


 目の前で高速で三匹が翔へと飛びかかり、その上後方三匹は魔法のようなものを準備、さらにもう三匹は遊撃部隊のように動き出す。


「こいつはパーティウルフってな、人間みたいにパーティ連携を活かして襲ってくるんだ」

「んな馬鹿なっ。あぶっ!?」


 ほんで一匹ずつがかなり強いから厄介この上ない。

 この辺で群れる魔物ではこいつが一番厄介だと思うくらいには強いかな。


「くそっ『アイスランス』『アイスエッジ』」


 手前にランス、中衛辺りにエッジを発射し、牽制と撃破を狙う攻撃。

 しかし、当然のごとくランスはまず効かない。エッジは後衛の一匹が障壁を張って防ぐ。


「ヤバいなぁこれ。スピードモードは動きが多いし不規則すぎて使えないし、オーロラは流石に使わせてくれなさそう」

『るぉん!』

「『ファイヤショット』」


 襲いかかる狼を炎の弾丸を口に放り込んで爆破し追い払う。


『ぉぉ〜ん』

「か、回復もできるの?!」

『るぉぉん!』

「くっ」


 爆破された狼は後衛の狼の遠吠えと共に光、すぐに傷もダメージもなくなり、何もなかったように襲い掛かってくる。

 翔はすぐに後ろに下がってそれを回避し、周囲の確認をする。


「前中後はそれぞれ三枚ずつっっ『アイスエッジ』!けど、一匹だけそのどれにも属さないのがいるねひゃっ『ファイヤウォール』。となると、あれは指令塔ってやつか」


 おっ、気づいたか。

 そう、パーティウルフにはコマンダー、指令塔がいる。

 それを潰せばこの連携力はただ下がりだ。

 ……まぁ〜潰せればな。


「そうとわかれば、『スピードモード』!行きます!」


 ヒュッっと姿を消し光の軌跡は一直線に指令塔へと向かう。


「『サンダーバレット』」

『ウォン!』

「!?うっそっ」


 意気揚々と突っ込み、魔法を至近距離で魔法を放ったが、それに反応して指令塔の狼は魔法を避けたのだ。

 翔の最高速度で放ったものをである。


 これでわかる通り、指令塔の狼は弱いということはない。

 むしろ、パーティで一番強い。じゃなければ纏めることはできない。


 つまりこのパーティウルフを倒すには、一番強い指令塔を潰して楽するか、各個撃破していってタイマンで楽するかの二択。結局、指令塔とどう戦うかが大事になってくる魔物なのである。

 厄介なのも良いところだ。


「くそっ、ならせめて回復役をっ『ファイヤランス』『アイスエッジ』!」

『キャンっ』


 ま、そうだな。

 もともと狙ってたからスピードモードが継続している間に回復役を潰しに行ったな。


「『オーバーフロー』ふぅ……やばすぎる」


「さて、どうするかな」


 ・

『社長が珍しく喋らないし、状況が全く飲み込めない我々』

『翔が危険ならすぐ助けられるように気を張ってるんだろ』

『逆に言えば喋る余裕はないということだよな』

『けど解説とか欲しい。翔のスピードモードとか速すぎて見えん』

『何が起きたかはわからないけど気づけば回復してたっぽい狼はやられてる』

『一応何もしてない?狼の足元辺りに焦げがあるから狙ったんだろうなと推測』

『だとしたらあの速度で撃った攻撃避けたのかよ』

『やべぇな』

『翔の最高速度を見切るってマ?落ち武者君すら見切れず武器を落とされたんだよ?』

『ホントに世界が違うんだって実感するよ』

 ・


 ・・・


 ホントにどうしよう。

 性質も役割も強さもだいたい把握した。

 だから指令役のあいつを倒そうと思ったけど、普通に避けられるとは思ってなかった。

 辛うじて回復役は潰せたから良かったけど、スピードモードは連発できるものじゃない。

 とすると、今の私に取れる択は各個撃破によるパーティ壊滅。


『るぉん!』

「『エアショット』」

『るぉぉぉん!』

「魔法っ……避けるか」 


 ホントに多彩でやりにくい。


「『サンダーエッジ』はっ!」

『キャン』

『るぉっ』

「くぅ」


 手前を一体ずつ処理しようとすれば前衛がカバーに中衛が攻撃を仕掛けてくるため詰めきれない。

 後衛にはそもそも近づけないし、指令塔はまだ動く気配がないけど動き出すと負けが近づく。


「ここで確実に一体、『クアッドエッジ』!」


 四種類のエッジを同時に発動させ切り刻む魔法。

 それを持って中後衛の相手を二種類で行い、残りの二種類で前衛の一匹を切り裂いた。


「あいつが本格的に参加する前に数を減らすっ」


 速度上げて、高速でしばき倒す。

 まずは後衛に狙いをつけて


「『エアブラスト』」


 風による爆発を起こし、こちらへ飛ばす。


「これで庇えないよね。『バーニングスマッシュ』!」


 飛んできた狼を炎が燃えたぎる拳で打ち抜き、飛んでいった先で爆発した。


「さて、あとは」

『るぉぉぉ!』

「ま、まぁ、そうだよね」


 指令塔が動き出した。

 これだけ味方がやられてれば当然、動くよね。


「とはいえ、後衛と回復役の二枚落とせた上に、前衛にはダメージも与えた」


 指令塔の狼にさえ気をつければなんとかタイマンまで行ける、はず。

 そこまで行ければなんとか倒せると思う。


「しゃぁ行くz」

『るぁぁっ!』

「やばっ!」


 言い切る前に指令塔はかなりの速度で突撃してきて、咄嗟に横回避、その隙へさらに前衛の三匹が襲いかかってきた。


「回れば、なんとかなるっ!『スピニングハリケーン』」


 風魔法の二重魔法。

 同系統の魔法ではなく、同じ魔法を二重に重ね掛けすることで威力の高い別魔法へと昇格させる技術、らしい。

 これの難しいところは、魔法の形はそのままに出力を上げるため制御どこかオーバーヒート気味になり発動すらできないこともあることだ。


 自分を起点に回転し風を作り出し、それはやがて暴風となり狼を全て纏めて吹き飛ばした。

 ついでにダメージを負っていた何匹はそれで倒れてくれた。


「ラッキー。っぱ回ればなんとかなる」


 さて、問題は今のでどれがどれか分からなくなったことなんだよね。


「というわけで各個撃破、もう一発『スピードモード』行くよ!」


 ヒュッ


『ォォンッ』


 シュシュン


『キャンッ』


 ヒュイン


『ギャン』


「『オーバーフロー』。っし、タイマンじゃい!」


 今のでパーティは指令塔以外全滅!


『ルゥゥゥゥ』

「あんまり、余裕ないから早めに仕留めさせてもらうよ!」

『るぁぁッ!』

「『バインドチェーン』!」

『るぁっ!?』


 飛びかかってくるところに合わせて光の鎖を狼の足へと巻き付け、捕まった狼は地面に体を強打した。


「これで、さようなら『オーロラブラスト』!」

『ギャァンッ』


 オーロラは地面に這いつくばっていた狼を飲み込み、消滅させた。


「はぁ……これが雑魚……」

『ォォンッ!』


 全てのパーティウルフを倒し、息を吐いて肩を下ろした瞬間、背後からもう一匹、パーティウルフが飛び出してきた。


「えっ……」

「まだまだ甘いな」


 シャン


 やられるっと身構えたがその攻撃は私には来ず、代わりに来たのは社長からのお叱りの声だった。



 ・・・


「パーティウルフの面倒なところは、最後の最後まで暗殺者が隠れてるところなんだよな」


 ・

『いやらしっ』

『えっ?ってことは翔ちゃん、危ないんじゃ』

『いや、社長はしっかり見てるから……』

『って、おぉっ!見えてる分全部やった!』

『うぉっ!ど、どっから出てきた!』

『危ない!逃げろ!』

 ・


 見えてる分のパーティウルフを全て倒し肩の力を抜いたところへ、翔の背後から影もなにもないところからもう一匹パーティウルフが飛び出し翔れも襲いかかった。


 もちろん私はそれを知ってるから、気づいてないなってわかった時点で割り込み切り捨てた。


「まだまだ甘いな」


 まぁ、はじめてにしては上々ではあるがな。


「あ、ありがと社長……」

「それにしてもなんとかなったっても、ほとんどゴリ押しだし、スピニングハリケーンだってなんも考えてないだろ」


 回ればなんとかなるって言ってたし、完全にテキトーだったろ!マン兄さんじゃないんだから!


「うっ、咄嗟だったから」

「まぁなんとかなったから良いか。あんまり良くはないけどよ」


 これ以上何か言っても意味もないし。


「まだ始まったばかりだが、休憩するぞ」


 始まったばっかりの配信だが、道のりは長そうである。



・・・・・・・・・

後書き


夏バテです。クーラーによる軽い風邪です。精神的なものですね。

と、まぁ、酷いくらい体力ないのにやること多くて死んでました。


最近ようやく仕事終わったと、思った次の日、マギレコ最終日。

……ありがとう!俺に深い絶望と希望をありがとう!いろは〜!マギエクでもよろしく!ってやって、いざ終わると精神的にきてしまって……こっちに手がつきませんでした。


という事情の下、モチベーション的にも、体力的にもしばらく休みます。

後日談のところは次回の休憩時間に話す!以上!

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