第57話 教えて見守って。私、まだ見ぬ素材に思いを馳せる



 今更になるが、ツクヨミさんは前にも言った通り、双剣+槍の二つの武器を持って戦う。魔法は使えない。


 そんなツクヨミさんは百を越える魔物相手に未だ被弾ゼロで立ち回っている。


「こうか?」

「ちょっと違うな」


 あっ、シマミ君に無手の拳を教えながら、ツクヨミさんを一応見てる。

 危なくなったら助けるとは言ったから責任は持つよ。


 でだ、自前で買ったらしい収納ブレスレットを駆使して、剣を投げたり槍を使ったりと武器を使って自分のフィールドを作り出し戦う感じだ。

 剣はある程度の距離なら勝手に帰ってくる仕様、槍は柄から伸縮自在なものだ。

 それを三本一組三セット。それが獲物だ。それ以上は収納量的に無理だと。極小サイズの収納なんだろなあれ。それともなんか切り札的なもん入ってんのかね。


 まぁ、どちらにせよ、ツクヨミさんは派手さこそないが堅実で確実な冒険者だってこと。


「おりゃ!」

「あぶっ!?」


 ヤマカズ君が打ち損じたものが足元に被弾、とっさにジャンプで避けたから無傷だが、いきなりだなぁ。

 さっきまで形も出なかったのに。


「とりあえず、もっと人いないところに撃とうか」

「すまない。どりぁ!」


 壁に向かって拳を突き出すヤマカズ君。その拳の周囲は一瞬歪み無手の拳が放たれた。

 ……な〜ぜか私の頭スレスレに。


「あぶねぇ!?」


 リンボーダンスで回避!

 というかなんじゃいわれぇ!


 ・

『ヤマカズ君社長に恨みでも?』

『社長、綺麗なイナバンワーですね』

『明らかに明後日の方向に撃ってたのに急に社長の方に向くやん』

『やはり恨みでも……』

 ・


「わざとだろ!わざとだよなぁ!そう言え!」

「す、すまない。わざとではないんだ」


 だとしたら逆になんで私の方にばっか飛んできやがる!


「……試しにあっちにいる魔物目掛けて撃ってみろ」

「あぁ。でりゃ!」


 ヒューんボォん


「ちゃんと当たったな」

「そうだな……」


 今度は変な方向転換とかせずに向けた方向に飛んでいった。

 しっかり魔物の一匹に命中し撃破した。


「標的に向かって飛んでいくとか、なのか?」


 無意識に的に向けて狙っているってことか?

 それともホントにセンス的な問題で相手に狙いをつけてるわけか? 


「……いや、待てよ。どちらにせよ私に飛んでくるのはどう考えてもおかしい!」


 私は的でも相手でもないぞ!

 ひょっとして、ヤマカズ君私に対してなんか敵意向けてる?


「ね、ねぇ?ヤマカズ君、私のことどう思ってる?」

「いきなりどうしたと言うんだ。……まぁ、強いて言うなら尊敬してる、だな」


 ……嘘じゃないと思うんだが、じゃあなんで私にあんなに飛んできたんだ?


「多分だが、近くにいたからじゃないのか?」


 近くにいた?……あぁ!


「お前気配探知とかで狙いつけてんな!」


 無意識で気配探知で狙いをつけてるせいで一番近くにいた私に飛んできてたのか!

 普通に飛んでいったのは目で収めて的を意識して撃ったからだな!


「よし、証明しよう!ヤマカズ君、私から少し離れて目を瞑って無手の拳を出せ」

「お、おう」


 言われた通り、私から少し離れ、一番近いのは魔物になるような位置に立つ。


「そこで良いぞ。撃ってみろ」

「あぁ。でりゃぁっ」


 そして放たれた無手の拳は私に向けていたはずなのに後ろにいた魔物の方へ飛んでい……ったと思ったんよ。


「ひゃぁっ!?」

「「あっ」」

「危ないわぁ!いきなり何してくれてんじゃあ!」


 ・

『あっ』

『一般通過に飛んでっちゃったかぁ』

『ひぇっ』

『普通に怖い……』

『逃げるんだぁ』

『この圧力、やはり姉御か』

 ・


 その寸前、一般通過ツクヨミさんが割り込んじゃって距離的に一番近いのは魔物ではなくツクヨミさんにすり替わり、無手の拳はツクヨミさんの胴体目掛けて放たれそれを地面の槍を使って切り落とし回避していた。


「シマミさん!私あなたの攻撃食らったら致命傷なんですけど!そんなのいきなり私に撃つなんて何を考えてるんですか!」


 なんとか立て直し、引き続き戦いながらツクヨミさんは私たちに吠える。というかこっちに視線ないのに睨まれたみてぇだ。


「す、すまない。オレはただ練習してただけで」

「だったらもっと広いところでやりなさい!」


 ごもっとも。

 シマミのパンチなんかツクヨミが喰らえば瀕死だが、飛んでいったのは無手の拳、痛いだけだよ!ってそういう問題じゃないのはわかってます。


 実際身内じゃなかったら訴えられててもおかしくない。

 命の危険が伴うのがこの世界だからな。

 いや、それは置いといて、こりゃしばらくヤマカズ君には無手の拳をお預けにしないと駄目だな。

 こいつ危なすぎる。


「狙いがつけられないのなら封印しろ、練習するときは人がいないところでな」

「あぁ」

「というか話が終わったら手伝ってくれません?」


 悲痛な声が聞こえるけど、もう十何匹しかいないやん。

 助ける意味ある?


「まぁ、ヤマカズ君のお手本として倒してやるか。ほっ」


 無造作に突き出された拳から放たれた無手の拳は残った魔物に寸分違わず命中し、その全てを一撃で絶命させた。


「あぁ〜疲れたぁぁ」

「お疲れさん」

「これができるなら初めから手を貸してくれても……って、手は出さないんでした」


 まぁ今も手は出してないぞ。突き出しはしたが直接何かしてないし?ただ無手の拳出しただけだし?

 というわけだ。初めから手は使わないだけで色々とやりようはあるわけだな。


「というか、さっきの昔二人は師弟関係みたいな会話はなんですか?」


 ……そんなこと言ったか?

 わからんが、師弟関係に関しては隠してるわけでもないしな。


「言っても良いのか?」

「もう、こうしてバレちまったんだ。今更だろ」


 もともと、私は力も存在も隠してきたため、教えました、なんて言えない存在だったけど、こうして表に立っちゃった以上はその辺も隠す必要がなくなった。


「私は何人かにはデビューしてすぐの頃マンツーマンでコーチングしてたんだ」


 というか、奴ちゃんもその一環だったんだが、まさか事故っちまうとはなぁ。


「その時に色々と戦い方とか教えてたの。そのうちの一人がヤマカズ君ってわけ」


 ・

『へけ〜』

『しっかり強くなってる辺り成功してんねぇ』

『ヤマカズの師匠が社長だと社長が仙人の類に見えてくるぜ』

『実際仙人みてぇなもんだろ』

『それもそうや』

 ・


「ステゴロの意志を尊重して、私もそれで教えてたから、一番怪我が酷かったよなぁ」


 他の子は武器とかでの撃ち合い、魔法講座とか立ち回りとかなのにステゴロは教えるためにはどうしても立会わなければいけない。

 面倒なことこの上ないし、怪我も多い。だが仕方のないことだ。


「もとより覚悟の上でのものだ。その時にだいぶ怪我もした」

「いくつか切り傷をつけちゃってなぁ……治すか聞いたらいらないって言うもんで、少し困ったよ」


 妨げにならないくらいの傷はそのままにした結果こんな傷だらけなものとなった。

 ……そんなのなくてもそれなりに刃物による傷があったけどな。


 ・

『あの頃か、納得』

『いきなり傷一杯作って来た代わりにめっちゃ強くなったあの時期か』

『そんな事があったのか』

『というかその傷社長がつけたんかい』

『治さないってのもヤマカズらしくて良いね』

『そのかいあって今やランク5の冒険者だもんな』

 ・


「へぇ〜」

「というわけだ」

「ツクヨミも受けたらどうだ?」

「えっ?えぇ〜」


 確かにそういうのも良いが、ツクヨミさんはなんというか、完成されてるからなぁ。手を加えるにしてももうちょい成長してからかな。


「今は良いです。未熟を理解しているうちは自分でなんとかしてみたいですし」

「おっ、良いね」


 本人もこう言ってるみたいだし、しばらくは見守る方向でいいな。


「……おっ、なら丁度良さげなやつが来たね」


 都合がいいタイミングで私の感知に引っかかった魔物がいた。


「三十二階名物、レア魔物。鋼鉄スネーク」


 ドロップが希少価値を持つ魔物なのだが、いかんせん出現率が著しく低いやつだ。

 その上、足が速く死ぬほど硬い。

 しかし襲ってくることは少ない。

 絶対に勝てると判断した冒険者にのみ襲いかかる慎重さがあるのだ。


 前に言ったパーティ制度がなくなった理由の一つがこいつだ。

 弱いやつを囮にして、その隙に狩る、なんて人間を餌にするやり方が横行し、多くの死者を出した。それを改善するためにパーティ制度は消えた上で対策を取ったわけだ。


「強さだけなら四十階の魔物と大差ないからなぁ」

「今の私といい勝負ってことですか?」

「まぁ、そうじゃねぇか?鋼鉄スネークが寄ってくるってことは少なくともお前になら勝てるって判断されたわけだからな」

「舐められたものですね」


 シャッ

 双剣を取り出し、ツクヨミさんは臨戦態勢を私たちから一歩離れた位置で取る。


「私のことを舐めて見たこと、絶対に許さん」

『しゃぁ』

「あれ?」


 と、今にも戦闘が始まるかと思いきや、鋼鉄スネークは尻尾を巻いて逃げだした。


「……なんで武器構えたツクヨミさんを前にして逃げたんだ?」

「さぁ?私、舐められてなかったんですかね」

「なら姿も見せないだろ」


 ・

『他二人に反応して逃げた?』

『それともツクヨミさんにはやっぱり勝てねぇって?』

『なんでだろ〜ね』

『もしかして社長のこと子供とか思っちゃった?』

『んなわけ』

『どちらにしても何だったんだよ』

 ・


 私が侮られてた?

 そりゃ……あるか。


「じゃ、逃さん『エネルギーフィールド』」


 フィンガースナップ。で、私を中心に緑色のエネルギーが結界のようなものを作った。


 カン


 そして逃げようとしていた鋼鉄スネークはその結界にぶつかって跳ね返った。


「別名隔離結界だ。これで逃げられない」


 内からの攻撃に強く外からの攻撃には弱い、というか素通しする本当に中の生物を隔離するだけの結界。今回は逃さないという拘束ようなので都合は良い。


「よし、倒すか」


 せっかくレアな魔物が出てきたんだ、逃げられるわけにはいかないよな〜。


「そいつ私一人の時あんまり出てこないんだよね。だからお前の素材で何かを作ったことないんだよね?」

「へぇ。じゃあ、なおのこと逃がせないですね」


 そのまま戦闘態勢に入っていたツクヨミさんが結界にぶつかって弱スタン状態の鋼鉄スネークに肉薄し、素早く無数の剣閃を描き、細々になるまで斬り刻んだ。


「硬いけど、まぁ、逃げ足を潰せば硬いだけね。倒せるまで斬ればいいので余裕です」

『きしゃぁぁ〜』


 そして呆気なく姿をドロップに変えた。

 ツクヨミさんはそれを拾い上げて私に投げた。


「おっ、良いのか?売りゃ結構良い値段になるぞ」

「構いませんよ。晩酌配信のときには、その、よろしくお願いします」


 ……あぁ。酔ったらよろしくねってことか。先払いの迷惑料かよ。


「なら、遠慮なくもらうぞ」


 このドロップ、皮、にしては異様に硬い。文字通り鋼鉄の皮。伸縮性高いのに高い耐久性、いいねぇ。

 桜の剣とかあの辺に使えそうな気がするが……せっかくならこの高い伸縮性を活かして、通常よりも多い数の効果付与をしたものにしたいな。

 そしたらこの長さはロングソードには満たないくらいか。


「試作品みたいなもんだが、短剣かグローブ、どっちが良い?」

「「えっ?」」


 ・

『やべぇ、伝説の製作者だ!』

『どっちにしてもやばい代物ができるだろ!やめろ!』

『そんなポンって渡しちゃ駄目!』

『どっちに渡しても良からぬ方向に行きそうなのな』

『怖い怖い』

『争いになりそうだよな』

 ・


「うーむ、オレは遠慮しておこう」

「えっ?良いんですか?」

「感覚が変わりそうでな。それにそんなのなくてもオレは構わないからな」


 おぉ〜カッコいいね。

 まぁ、実際貰ってくれなさそうとは思ってたしな。

 ……それとは別に趣味でグローブ、メリケンサックでも作ろうかな。


「じゃあ、ツクヨミさん用の短剣作るか」

「良いんですか」

「作っても使い道がないし、使ってくれたほうがなぁ」


 それに貰ってくれないと私の倉庫番になっちまうからな。

 今や大量にそういうの積み上がってるからなぁ。


「よし、じゃあ私先帰るわ〜」

「え?」

「ここで作るこたぁないだろ?」


 さぁて、どんなものに仕上がるかなぁ。

 どこまでてんこ盛りにできるか気になるし、楽しみだなぁ。


 そんなことを考えながら二人に背を向けて鼻歌交じりで来た道を帰った。


「ほ、ホントに帰っちゃったよ」

「……オレたちはもう少し続けようか」


 ・

『あぁ〜帰っちゃった』

『めっちゃウキウキしてたけど、このあとどんな兵器ができるのかね』

『前に社長に素材を与えてはいけないとかってフラグだったね』

『もう、あの人に関しては気にすんな。それよりも晩酌配信を楽しみにしようぜ』

『その前にこの配信を楽しんでいこうか』

『そうだな』

 ・


 それから、二時間ほど二人はダンジョンを探索した後配信を終了させた。



・・・・・・・・・・ 

後書き


20万PV及び2000ブックマーク突破ー。

気づいたらこんな数字になってたよ!ありがとー!

これからもこの作品をよろしくお願いします。



今回、色々と拾っとくかの回。ダンジョン来たは良いけど、ヤマカズ君がいて相手になるやついないなって。ツクヨミさんは背景で淡々と狩り続けさせた。

ってなったら社長が何人かに教えてたやつとかパーティーシステム云々の話を少ししとこうとなった結果の回でした。

この二人の本格的な戦闘はまた今度かな。

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