四章:社長、オンステージ

第56話 不一致組のダンジョン配信。私のどこが不一致だってぇ?



「社長、死んでないで早く仕事してください」


 今私は、机の上で死んでいる。

 先日決まってしまった歌みた、そしてそれに加えてASMR。さらに宝くじ当選発表のセットも用意することとなっている。

 他にも様々な細々した仕事が盛り沢山。

 下手をすると私のグッズ第二弾の可能性まで出てきている。

 そんな現実を見て生きられるか?私しゃ無理だね。


「とりあえず、歌みたやASMRに関しての調整は後日だから後回しで良い。宝くじのセットは今発注する。あ〜忘れてたがASMRのシナリオも発注しないと」


 やることが多い上に全部の内容が億劫だなぁ。


「あ〜嫌だ嫌だ」

「あっ、そう言えばツクヨミさんとの晩酌ってどうなりました?」


 …………あっ、やるって言ったな、私。


「ちょっと聞いてくるか」

「今ですか?」


 そうだけど……いや、待てよ。


「今はダンジョン配信中ですね。電話は多分かからないかと」

「はぁ〜いいや、行ってくる。確か私とのコラボ懇願書類出てたよな」

「一応は」

「じゃあ受理しといて、今日の日付で」


 書類は聡子に任せて私はそのままダンジョンへと向かった。

 あっ、九重に頼めば……いや、あいつも仕事中か。仕方ない。



 ・・・


 ダンジョン三十階層。


「はい、こんばんわ」


 スーツがいかにも似合いそうな女性、ツクヨミがカメラに向かって挨拶を交わす。


 ・

『こんばんわ』 

『今日は三日月です』

『まだ夜じゃねぇよ』

『こんばんわツクヨミ様』

『今日はお一人ですか?』

 ・


「本日は、私とこちらの」

「オレだ。ヤマカズ、23歳だ」


 渋くて深いおじボイスを響かせた男性、シマミ・ヤマカズだ。年食った貫禄や服のない隙間から覗く歴戦の跡のような傷はまさにオジサマ。

 彼はSumaでは珍しい男性の配信者でありランク5の地位をステゴロのみで勝ち取った男である。


「シマミの二人で行こうと思います」


 ・ 

『出たな年齢逆転コンビ』

『かたや実年齢23歳、かたや実年齢46歳』

『どう見ても見た目は逆なんよな』

『若おじと美魔女』

『そんだけ年の差離れた男女のコンビなのにこの二人めちゃくちゃ仲いいんだよな』

『なお、恋愛ではない模様』

『お互いに見た目や年齢で苦労してきたから苦労を分かち合える貴重な仲間なんだと』

『最近では、ここにもう一人追加されましたね』

『そうですね〜』

 ・


「そう言えば、ツクヨミ、社長との晩酌はどうなったんだ?」

「その話はまだついてないんですよね。ですから、この配信が終わり次第話をつけていこうと思います」

「そうか、楽しみにしてるぞ」

「ありがとうございます」


 ・

『これぞ大人のやり取り?』

『ヤマカズ君がそんな事言うとなんだか危ない組織のあれに聞こえるよね』

『実際はホントに楽しみにしてるだけなのにね』

『まぁ、ヤマカズ君、いかんせん普段ステゴロで言動も声もあれだからね〜』

 ・


「勘違いされすぎて、慣れてしまったぞ」

「確か最近もただ歩いてただけなのに職質されたんでしたっけ?」

「おかしいだろ、何もしていないというのに」


 ・

『どこかで聞いた話だな』

『某社長も歩いてただけなのに補導されてましたね』

『某の意味がないの草』

『職質されるヤマカズ君と補導される社長』

『そして二人の母ツクヨミ』

『お若いですね〜』

 ・


「おん?誰か、私のことおちょくりましたか?」

「取り消すんだ、今のコメント」

「どなたかしら〜?」

「ここは俺に任せて逃げろ」


 ・

『あ、アニキ、助かったよ!』

『あ、あぶねぇ』

『ツクヨミ様の前ではそういうのは駄目だ!』

『うっかりしてたぜ、ありがとうヤマカズのアニキ!』

『アニキの犠牲は忘れるまで忘れない!』

 ・


「なんで急にコントしだしてんだ?」


 そんな謎のコントをする二人の後ろで社長は静かに立ち尽くしながら見守る形となっていた。


 ・・・



 私が二人の予定を確認し、スタートとなる三十階層に到着すると二人は何故かコントをしてたんだ。


「……話しかけづらいな」


 今冒頭だから盛り上がってるしなぁ。

 どうしよ。


「……じゃあ、配信開いて様子見でも」

『きしゃぁっ』

「邪魔」


 ペチン


 あっ、しまった。

 突然横からなんかきたからいつも通り拳出したらトマトにしてまった。それも肉片と言うか残骸と言うかミンチと言うか、まぁ破片をあっちに飛ばしちゃった……


「な、なんか飛んできた」

「……見なかったことにしたい」


 ヤマカズには完全に気づかれたな。

 視聴者にバレるのも時間の問題か。だったら潔く顔出すか。


「せっかくなら気配を消して近づこうかな」


 その場から気配と姿を消して、カメラに映るように、しかしツクヨミには気づかれないように


「おかしいですね、誰もいません」

「ふむ、これは言わない方が良いか」


 ・

『どうした?』

『何かいたか?』

『なんか血みたいの飛んできたね』

『えっ?怖っ』

『あっ、怖ぁ』

『う、後ろっ』

『な、なんかいる!』

『というかこのフォルムは、間違いない!』

 ・


「何かいる?後ろ?」


 コメントで後ろを指摘され振り向いたツクヨミ。

 しかしそこにはすでに私はいない。

 ヤマカズは腕を組んで、目をつぶってる。

 何も知らないアピールか。


「何もいなぁぁぁっ!?」

「よっ」


 そして後ろから視線を前に戻した瞬間、目の前に私はいた。その距離拳一つ分。ツクヨミ視点、私の目しか見えなかったろうな。


「しゃ、シャチョォォォ!」

「へい、ヤマカズ君、黙っててくれてありがとう」

「なんのことだ?オレは何も見ていないぞ」


 その辺のノリは良いんだよね、この子。

 とりあえず、カメラに顔を向ける。


「突然参加して悪いな。急遽飛び入り参加枠の宵闇だ。ツクヨミさんと話すついでに懇願書のコラボを消化してしまおうと思って来たぜ」


 ・

『年齢詐称組が揃ったな』

『噂をすればなんとやらとは言うが、ホントに来るとは思わんのよ』

『ホラーみてぇな登場しやがって、びっくりしてちびるかと思ったぞ』

『一緒に見てた息子が立ち上がってトイレに行きました』

『実際、リアルだからめっちゃ怖かった』

『ガチの悲鳴助かるわ』

『グッジョブ社長』

 ・


 へっへっへっ、思いつきだったが上手く行ったな。嬉しい限りだ。

 だが、漏らしちゃった子供にはマジで申し訳ない。


「怖かったじゃないですか!」

「そこはほら、鍛錬が足らんってことだよ。実際ヤマカズ君はしっかり気づいてたし」

「シマミさん?」

「うっ」


 冷や汗が凄〜い。

 圧が凄いね。うん、ちょっと震えてきたかも。


「ちょっと、お話を聞きたいのですが?」

「し、知らん知らん、オレは何も知らん。ただ社長が近づいてきてるなって気づいただけだ。わざわざ言うまでもないと思っただけだ!」

「それを言って欲しかったんですがねぇ?」

「うぐっ」


 助け舟は出せないぞ〜頑張れ〜


 ・

『他人事みたいに傍観する社長』

『薄情者め。お前のせいやろがい』

『それを言ったら俺たちもじゃあ』

『しっ、黙ってろ』

 ・


「後できっちり、謝罪してもらいますからね〜」

「働きで返そう」


 働きで返すって、どこの構成員だよ。

 まぁ、今形ある返し方ってそれしかないからしょうがないか。


「じゃあ、話しながら行こっか。あっ、私は手は出さないよ」


 手は、ね。


 ・

『手を出す必要すらないんだよなぁ』

『やたー社長だー』

『正式に社長合流ってことで、この三人のことなんて呼ぶ?』

『不一致組ヨシミ(宵闇、シマミ、ツクヨミ)』

『完全に組やん』

『ヨシミって誰やねん』

『もっとあるやろ、こう……ヤマヨミとか』

『じゃあそれで』

『不一致組ヤマヨミ(ヤミ、マミ、ヨミ)ってことで』

『組長は?』

『もちろんツクヨミさんで』

『社長は社長だし、ヤマカズはツクヨミさんの尻にひかれてるし、そうなると自然にツクヨミさんしかいない』

『ツクヨミの姉御になったわけか』

 ・


 ……知らぬ間に私は危なそうな組織の組員にされてるんだが?

 というか不一致組ってなんや!私の何を持ってそんなこと言うとるんや!


「手は出さないんだな」

「……あっ、私か。おう、もちろん」


 関係ない話をずっと見てたから直前まで何話してたか忘れちゃったよ。

 手は出さない、もちろんだ。

 わざわざ出さなくても良いだろうし、私がやり続けたら面白くない。

 前みたいに覇王とか撃つまでもないし、適当にコメントと話してるつもりだし。


「とりあえず、ツクヨミさ〜ん」

「な〜に?」

「晩酌配信するかどうか聞きに来たぜ」

「そのためだけにここまで……はぁ」


 なぜため息?!というかなんのため息!?私何か変なこと言ったか?


「良いですよ。たまには静かにゆっくり飲みたいと思ってましたし」

「じゃ、日程とかは追って連絡するよ」

「わかりました。では、今日はカメラマンとしてお願いしますね」


 まだカメラマンやるとは言ってないんだが、まぁ良いか。

 やりますやりますよ〜。初めからそのつもりだったし。


「さぁ、しゅっぱーつ」

「それはオレたちのセリフでは?」

「カメラマンが先頭に行ったら意味ないですよ」


 ……うるさいわい!



 歩き出ししばらく、ある程度戦闘とかちらほら見え隠れし始めた頃に私は口を開く。


「はい、じゃあ、なんかあるかお前ら」


 ・

『そうだな〜』

『せっかくだし、不一致組絡みの話聞きたいな』

『あっ、ヤマカズ君のことで聞きたいことあるわ』

『おっ?良いぞ〜』

『ではでは、ヤマカズ君って入った頃色々とあったけど裏ではどんな感じだったですか?』

 ・


 早速か。

 ヤマカズが入った頃ねぇ。

 ヤマカズはSumaでは珍しい男とは言ったが、実際、Sumaでは長男、つまり初めての男性配信者としてSumaに加入した。


「最初はアイドル路線だなんだ勝手に勘違いしてた人たちから文句とかアンチコメ一杯来てたよなぁ」


 まぁ、そんなの許すはずもなく表立って言ってはいないがしっかりと対策を取らせてもらいました。

 度が過ぎるやつにはキツいものをくれてやったよ。


「とはいえ、VTuberの方でもないし、むしろ男手がある方が安心なんてコメントもあったのは助かったなぁ」


 ・

『あのときは知らないうちに沈静化、もとい消されてたなんて噂あったよな』

『あんまりにも度が過ぎるコメントを打ち込んでた奴ら全員ネットから姿を消したとかなんとか』

『冒険者組に対してもともと女性しかいなかったのは別にそういう制限ではないってちゃんと言ってたもんね』

『男性だと視聴者が伸びにくいとか社長のお眼鏡とかでたまたまそれまでいなかっただけで、別に最初から男でもしっかり入れるつもりはあったはず』

『それなのに、あれだけ酷いこと言えるのってなんか凄かったよね』

『それに反して、肯定的な意見や温かい人がいて見ててホッコリしたよな』

『まぁ、肯定意見を打ち込んでたのは今見てるワイらなんやが』

『自慢か?』

『そんなつもりはない』

 ・


 まぁ、そりゃそうだわな。今見てくれてる人がこうやって支えてくれからってのは確かにあったな。

 そういう人やコメントがなけりゃ会社として少し考えることになってたのは間違いない。


「まぁ、その件ではありがとな。でだ、最初からそうなることは予想してたからちゃんと加入前に確認したさ。でも、あいつ『それがどうした、今更その程度の悪意でオレが折れるとでも思ったか』って言ってなぁ」


 ・

『アニキかよ』

『強いかよ』

『カッコよ』

『あの背格好だから慣れてたのもあるんだろうね』

『それでもだよな』

『俺だったら病む自信しかない』

『同じく』

 ・


 まぁ、多少なりとも揺らいだり傷ついたり、そんなふうになるだろうと思ってたんだが、ヤマカズは全部弾き返して、Suma男性配信者の牽引者になったんだよ。

 だからあながちアニキってのは違いない。実際裏では男性配信者たちにアニキ言われてるからな。


「ていう感じで鋼鉄ハートな人間だったよ」

「恥ずかしいから少し黙ってくれ」

「やだよー」


 流石に鋼鉄ハートなヤマカズ君もこれだけやれば照れて顔を赤らめるか。


「シマミさん!そっちに行きました!」

「任せろ、ドラッ」


 右腕を振り上げ、飛びかかってきた獣型魔物の顎を捉えゴキッっという音が響き、その場で魔物は足元に落ち、その姿をドロップに変える。


「流石です」

「ふん、所詮は雑魚だ」


 ちゃんと照れてるな。


「あぁ、そうそう。ヤマカズ君って、結構テレ屋なんだよな」

「しゃ、社長!」


 ・

『なんだ可愛いかよ』

『実際、社長が話している時ずっと耳まで赤くして震えてた』

『可愛いかよ』

『ヒロインしてんなぁ』

『Sumaってなんかカッコイイ系ほど可愛いよな』

『わかり見が深い』

 ・


「今度女装しない?」

「遠慮しよう」

「だよな」


 流石に冗談だ。

 色々と問題というか、そんなんやったらヤマカズ君羞恥で倒れちゃうよ。

 それに、流石にヤマカズ君に女装はないわ〜だったらその鍛えられた筋肉を見せつける路線、一◯三島とかその辺だろ。

 というか名前の元ネタそこだし。


「あぁ!ちょっと、なんか血の匂いで寄ってきたんですけど!シマミさん!照れてないで手伝ってぇ!」

「すまん。あぁ、そうだ社長」

「ん?どした?」

「無手の拳を教えてくれないか?」


 無手の拳を?なんで今さら。


「いくらでもそういうの教える機会あったのに、なんでその時言わなかったの」

「その時は社長があんなの使えるなんて知らなかったからだ」


 まぁ、ヤマカズ君には魔法どころかそういう技術系統も見せてなかったからなぁ。


「あの!その話も気になりますが!か、数が!」


 わぁ、ホントだ。

 気づけば獣型の魔物が百くらい一気に来てるねぇ。

 一体一体はそこまででもないけどここまで群れると面倒だねぇ。

 ……まぁ、大丈夫だろ。


「危なくなったら助けるよ〜」

「それって、助けないってことですよねぇ!?」


 そうだな。だって必要ないもん。自分でも言ってるじゃん、危なくなったら助ける、それで助けないってことは、危なくなることはないってことだよね。


「がんばえー」

「ちくしょぉぉ!」


 さて、ツクヨミさんが頑張ってる隙に、ヤマカズ君に無手の拳教えようかな。


 ・

『ひっでぇ』

『問題ないのわかってるとはいえ、一人でこの数黙々とやらせるとは酷い』

『まぁ、組長だし?』

『なおのこと不味いだろ』

『たしカニ』

『というか、社長とヤマカズ君、教える機会とか、前にとか、その辺の話詳しく』

『それは知りたい』

『あっ、もう社長コメント見てねぇ』

『それなのに器用にカメラ回してらぁ』

『さ、面白くなってきましたよ〜』 

 ・



・・・・・・・・・・

後書き


ヤマカズ君という新キャラ、ステゴロランク5の男性。そんでもっておじキャラ。それなのに年齢23歳。個人的にはステゴロでランク5ってユウナに近いかなぁと思いつつ、っぱステゴロよと求めて作った。元にしたのは話した通りミシマですね。

ちなみにヤマカズ君今年で24歳で加入時20歳です。

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