第39話 ボス戦。紺金のターン


「おぉ、やるねぇ」


 ユッケちゃんがボスを倒したところで桜はそう呟いた。


「理想をイメージしてそれに近づける。理想が高ければ高いほど、強くなる。言い換えれば、理想に限りがない限り、ユッケちゃんは強くなり続ける……どこぞの主人公のスキルの説明文みたいだね(;^∀^)」


 本当に出鱈目な子である。

 時々、私の理解を超える人がいるんだけど、なんかスキル的なものでもあるのかねぇ。


「そういえば、霧ちゃんさっき実力を読み違えたみたいなこと言ってたけど、そういうことってどれくらいあるの?」

「は?」


 ……え~確かにレアケースではあるけどないとは言ってないよね。


「人生で三度、同じようなことがあった」

「結構多いね」

「そうか?」

「そうよ。だって霧ちゃんを騙したっていうのが三回もあるってことだよ?」

「そりゃ確かに多いな」


 ・

『三回?三人もいたってこと?』

『ユッケちゃん加えて三回?』

『三人もいたのか……』

『上に間違えたのか下に間違えたのかとかもあるぞ』

 ・


「で?どんな人だったの?」

「まず一人はユッケちゃん」

「それはわかってるぞ。次」


 急かすなよ。

 ちゃんと言いますから。


「二人目はまぁ、十三年前」

「高三のとき、つまり私たちといたときかな?」

「そうなるわね」


 あの時、一人面倒なのと出会ったのよね。


「で?誰なんだ?」

「冒険者協会会長だよ」

「「えぇ」」


 ・

『会長!?』

『あの社畜が!?』

『マジで?いや、下方修正のパターンもあるのか?』

『ってかあの人戦えるんだな』

 ・


 戦えるだろ。

 曲がりなりにも冒険者協会のトップなんだから有事の際は自分が指揮したり、歯向かうやつを従わせることも出来なければあそこは勤まらない。


「そんな風に考えて、ある程度の力も計ってたわけだけど、まぁ、見事に外したわ。普通に強かったわ」

「えっ?殴り合ったの?」

「喧嘩したか?」

「ま、まぁ」


 あの時は少しやりすぎたのよ。

 学生時代でも冒険者をやってたわけだけど少しばかりやらかしたことがありまして。


「ま、まぁ色々とあったのよ」


 濁したい。この場は濁したい。


 だって、言いたくないわよ?

 卒業が間近で悲しくなって、思うことが一杯あって暴れてました~なんて言えるわけないじゃない。


「……ま、聞かないであげるわ」

「ありがと」

「じゃあ、何で会長と喧嘩することに?」

「結局こうが聞くのよね。まぁ、それ自体は良いかな」


 暴れてたとき、周りを見てなくて獲物を奪うような形で取っちゃったのよね。まぁ、ドロップ自体はいらないし問題ではなかったんだけど、たまたまその場に居合わせた会長さんが職質みたいな形でやってきて、振り払って下に降りようとしたら、私の身を案じてか止めようとしてきたのよ。


「まぁ、静止を振り切って行こうと思ったの。これなら軽く捻れば理解してくれるって思ってね」

「そうしたら思いの外強かったって訳ね」

「マジか~…んで?勝敗は?」

「勿論私の勝ちぃ」

「そりゃそうか」


 ・

『高三の頃ってことはまだヤンチャ時代で暴れまくってなくて今ほどではないときだろ?』

『いや、それでもランク6に近しい力は持っていたはずだ』

『ということはそれと喧嘩できた会長って結構強い?』

『少なくとも、軽く一捻りって思ってた相手と喧嘩したってことだから、社長は会長の力をかなり見誤ったってことだよね』

『すげぇな、おい』

『学生時代の終了近くからすでにヤンチャ時代やってる件についてはノータッチ?』

 ・


「肝心の読み違いはどれくらいの数値?」

「えっと、ランク3程度かと思ったら実際はランク5の上振れ」

「おっとぉ?」


 ・

『えっ?あの人んなに強いの?』

『マジか~』

『ただの社畜じゃないのかよ』

『そんなだけ強いのに、隠す技術あんのかよ』

『ひょっとしなくても、もうちょい頑張ればあの人ランク6ってことぉ?』

『ヒント:高校時代とはいえ社長と喧嘩できる人間』

『あっ』

 ・


「今更だけど、営業妨害かな?」

「確かに」

「まぁ良いだろ。それくらいなら」


 それもそうね。

 大体の実力がバレるくらいならね。

 どういう戦いかたとか、どういうことをしてくるかとか、そういう具体的じゃないもんね。


「まぁ、そんな感じ」

「なに終わろうとしてるのかな?あと一人は?」


 チッ。


「おいおい、さらっと煙に巻こうとしてんじゃねぇよ」


 こうは間違いなく忘れて煙に巻かれとったやんけ。

 まぁ、優しい私はそれを指摘はしないけどね。


「で?こうちゃんは置いといて、三人目は?」


 詰め寄らないでもらえると。

 ……あんまりそいつに関しては言いたくないんだよねぇ。


「ノーコメントで」

「おっ?ここにきてそれが通じるとでも?」

「いや、通させてもらおうかね?」


 そいつは少し存在が面倒なもんで、話すと後が面倒だからね。


「じゃあ、どれくらいの計り違いをしたのかだけ教えて?」

「うーん、まぁそれなら」


 良いのか?


 まぁ、ここまで濁し続けるのもあれだし、それくらいは答えといた方がいいか。


「最初に出会ったときはランク5位かなって思ったんだけど、実際戦ってみたら同等位だった……」

「「はぁっ!?」」


 ・

『はぁっ!?』

『んなアホな!』

『何時の話かわからないけど、同等レベルって……えっ?冗談ですよね?』

『冗談じゃない場合、この世には社長みてぇな化け物がもう一人いるってことになる』

『同じランク6とか?』

『確かに、あり得るのか?』

『いや、なんとなくランク6の人とは違いそう……』

『ランク6の人ならここで濁さない、よな』

『まさかの爆弾投下。こんな質問が爆弾になるなんて誰が予想できるよ』

 ・


 二人がここまで取り乱した反応するほどなのね。

 やっぱり、詳しい概要言わなくてよかったわ。


「ま、そんな感じよ」

「……その相手について、これ以上追求するとヤバい情報が出てきそうだから追求は止めておくわ」


 うん、その通り。

 なんたって、そいつが私に数少ない死にかけ経験を与えてくれた野郎だからね。


「……お、丁度良いタイミングで紺金がボス戦行ったぞ!」


 ・

『ナイスタイミング!』

『流れを変えた!』

『ありがと~!』

『よし、この話は忘れよう!良いな!』

『勿論だ!ちょっと頭打ってくる!』

『伝書鳩の一匹もいない従順な鳥籠世界』

『そういやそうやね』

『まぁ、正直言わない方が面白そうよな』

 ・


「さて、紺金ちゃん、どんな風に戦ってくれるかな?」



 ・・・


 ユッケちゃんがボスを倒し、それから一度戻り、リポップするまで適当に雑談を過ごしたあと、適当な頃合いでわたくしたちは再びボス部屋に戻ってきた。


「では、今度は私の番です」

「頑張れ~」


 二人を見送りながら、静かに辺りを確認する。


 先ほどは何もありませんでした。

 ここで仕掛けないなんてことは、ない、と思いたいですが……


 ここで仕掛けてくれなければ、わたくしとしては何時仕掛けてくるか予想がつきにくくなってしまう。


 それならば、ここで仕掛けてくれた方がまだ安心できると言うもの。


「いっそ何もなければありがたいですが」


 ・

『そうだね~』

『紺金ちゃんがんばえ~』

『なんかクスリちゃん、何かを危惧してる?』

『心配性?』

『クスリちゃんってそういう面倒見の良いところもあるもんねぇ』

『社長の過保護をしっかりと貰っている子』

 ・


「わっ、わたくしは先輩として当然の心配をしているだけですわ!」

「そ、そうなんですね。クスリ先輩に心配してもらえるなんて……」

「い、いちいちそんな風に浸らないでください!」


「あ~後ろが騒がしい」



 そんな風に騒いでいる間に紺金は巨大な盾を片手にボスへと歩み寄る。


「さて、行きますか」


「あっ、始まりますわ」

「ほ、ほんとっすね。観戦モードだよ、静かにするよ」


 ・

『は~い』

『お口チャック』

『観戦に集中します』

 ・


 さて、始まりますわね。


「『ロックショット』」

『ルォォン』


 先制の魔法を放ちつつ、盾を前に突き出しながら前へと走り出す。


 対してスルーウルフは透過しロックショットを回避。

 そのまま飛び上がり、空中から飛び降りる形で紺金ちゃんに襲いかかる。


「ふっ」


 それを軽々と盾で受け止め、横にながして腹を上にさせ、そこへ手をかざす。


「『ロックスピア』」


 貫通能力の高いショット魔法、ロックスピアをその無防備になった腹へと吸い込まれた。


『グルァァァっ!?』

「やぁっ!」


 そのままシールドバッシュ。刺さった岩を押し込む形で追撃し、着実にダメージを稼いでいた。


 ヒュッ


「っ!」

「させませんわ!」


 カァーン


「えっ?!え、何々!?」

「ユッケちゃん、カメラよろしくお願いしますわ」


 わたくしはカメラを預けて、駆け出した。



 あの一瞬、わたくしの目にはしっかりとスルーウルフのものではない攻撃が映っていた。

 それも、人為的な魔法による攻撃が。


「咄嗟に撃った魔法で弾けて良かったですわ」


 とりあえず、攻撃源は見えたのでそこへ走る。


 チラッと、こちらを確認して駆け出すような人影を見て確信し追跡を開始した。



 ・・・


 ・

『な、何々どした!?』

『なんか魔法みたいなのが飛んできてなかった?』

『えっ?襲われたってこと?』

『んなアホな』

『でもクスリちゃんが何かを弾いて、そのまま追いかけていったけど』

『とりあえず協会に報告や』

『社長にも連絡や』

『いや、社長見てるから報告は大丈夫やで』

『えぇ?』

 ・


「……そういうことですか」


 クスリさんが駆け出したところを見届けてようやく合点がつきました。


 なぜ突然クスリさんがついてくることになったのか、なぜ案件なのにクスリさんは装備をしないのか。

 そもそもどこか含みのあるような言い方もしてましたし、何かあるのだろうと思ってましたが、襲撃に備えていたわけですか。


「ユッケ!周り警戒しながらカメラ回し続けて!」


 そして予め処理したり、秘密裏にやらなかったのはきっと証拠を押さえるため。


 ならば、ここでカメラを止めるのは違う。

 周囲の警戒はユッケに任せる。


 クスリさんが追ってくれてる相手だけとは限らない。

 他にも伏兵がいると考えた方がいい。


「……クスリさんを引き離すための策かもしれませんし」


 だとしたら、私がする事は目の前のスルーウルフを倒して、ユッケと一緒にクスリさんが戻ってくるまでの警戒、襲ってきた場合は迎撃。


「ということですので、超特急で倒します」


 盾をその場に打ち付け固定する。

 鎖は使わないで物理的に。


「行きます。『チャージ』『アロー』」


 掌に魔力を集め、それを弓の形に変化させる。


 魔力でできた弓の弦を引き、何時でも放てるように構える。


『オォン!』


 スルーウルフはダメージもあるので当然透過で距離を取り、私の周囲を走って攻めるタイミングを見計らっていると思います。


 その間私はずっと弦を引き続けて何時でも射貫けるように準備しておく。


「この魔法の弱点は両手でしか使えないことです」


 だから盾を捨てるしかない。


 だけど、盾を背に立つことで、少なくとも後ろからの攻撃はある程度ケアすることもできる。

 それが魔物の知能ならば、私の正面から攻めてくることでしょうからなおのこと後ろへの警戒は最低限で良くなる。


『グルァァァっ!』

「このように、ね!」


 透過を解除し私に正面から飛びかかるスルーウルフ。


 それを見逃すはずもない。

 矢は放たれ、噛みつき攻撃を仕掛けにきたはずのスルーウルフはその顔が跡形もなく吹き飛び、慣性に従ってその顔を失った体が私に体当たりするように当たって、地面に落ちた。


「っ……それなりに痛いですね」


 それなりの巨体が勢い良く突っ込んできたのでやはりダメージは貰ってしまった。


 まぁ、防具自体は悪くないのである程度は衝撃緩和してくれて良かったです。


「さて、あとは……」

「紺金!」

「っ!」


 ヒュン……パァン!


 ユッケの声で気づき横に目を向けると、目の前でクナイのようなものが弾丸と火花を散らして弾かれていた。


「ちっ……なぁ~んだ。遠距離持ってんのかよ」

「……」


 暗闇から姿を表したのは、醜い笑みを浮かべながら、弁慶が背負っているような様々な武器が顔を除かせる籠を持った男だった。



・・・・・・・・・・

後書き


なんかここ数日、謎渋滞に巻き込まれたり、私用で行った所の花見客に巻き込まれたり、強風で電車止まったりで散々だった。

まぁ、そんなこともありつつ書く時間が取れなかったって感じです。


pv14万超え、そして星評価500超え、本当にありがとうございます。

読者の皆さま、評価や感想を書いてくれている皆さま。こうして私の作品を見てくれている人に改めて、ありがとうございます!



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