第13話 いとこだからできる事。

春也は眠れるようになったらメキメキと元気になった。

お母さんは嬉しそうに藍子おばさんのところに連絡をしていて、藍子おばさんも病院から春也なら環境が変わればきっと良くなりますと言われた通りだったと喜んだ。


だが喜べないのは光莉の事だった。

光莉は春也と東京に行ってから変わった。

急に高いカメラを持ち始めて、毎日春也のところに来て数時間外でカメラを教わって帰る。


カメラを持たない私はその間家で春也を待つ。


「ふふ。お兄ちゃんを取られてヤキモチ?」とお母さんに聞かれて、わりかしムカついて睨んでしまった。


「別に、折角元気になってくれた春也が、また調子悪くなったら嫌なの。カメラが原因で春也がおかしくなったんだよ?」


お母さんは「そうね」なんて言いながらも、「でも藍ちゃんも言っていたけど、環境が人を変えるのよ。春也くんも活き活きとしてるから平気よ」と言っていてわかっていない。


春也は辛い思いをして壊れてしまったのに、その原因の一つのカメラに自分のタイミング以外で触れる時間が長くなるなんて良くない。


そんな事を思っている時、お母さんが「そして、笑梨が居るから元気なのよ。本当に楽しそうにお散歩に行くもの。今だって光莉ちゃんがきた後でも笑梨と散歩に行くのよ?」と言ってくるので、私は照れて「そうかな?」と聞くと、「そうよ」と返されて満更ではない中、パソコンでの写真の触り方を教わる為に、家にまで来るようになる光莉。

外よりは近くにいれるから安心できるけど、それでもなんだかナワバリに入られるみたいで面白くない。


暫くすると春也は家で唸り始めた。

光莉がワガママを言ったのかと思って心配すると、光莉と2人でコンビニまで行って袋に沢山のスイーツを入れて帰ってくると、2人で「笑梨、頼む」、「笑梨!お願い!」と言って私に写真のモデルになれと言い出した。


「えぇぇぇぇっ!?」と驚く私に、2人して「人物撮影の勉強には人が必要なんだ」、「お願い!」と頼み込んでくる。


私は照れながら「春也も撮るの?」と聞くと、春也は微笑みながら「見本を見せる為に撮るぞ」と言ってきた。


私はとても嬉しくて「可愛く撮ってくれる?」と聞くと「笑梨は可愛いから、カメラ任せでも可愛いが、もっと可愛く撮れるように頑張ろう」と言ってくれた。


春也は細かい事を覚えていないので、「こっちに来た頃に撮ってって言っても撮ってくれなかったのに」と言って小さな嘘をつく。

喜びを表したら負けた気がするから理由が欲しい。

案の定春也は覚えてないと言うので、私はここぞとばかりに「春也が撮ってくれるなら」と言って承諾した。


春也と光莉のモデルは思いの外大変だった。

ポーズの指示とか表情とか細かい。


「笑梨、目線こっちだ」

「私もお願い」


そんな事を言われると頑張る羽目になり、モデルさんは大変だと痛感する。


後悔したのは「美味しそうに肉まんを食べる写真」を撮る時に、意地悪してペロリと食べてしまったら、「笑梨、何個でも買うから美味しそうに食べるんだ」と言われて春也と光莉の納得がいくまで中華まんが出てきた事だ。


そしてお気に入りの写真は、天気のいい日に私が雪を空に向けて放り投げる時の写真で、もう成人してしまっているのに、子供のような笑顔で粉雪を投げていた。

光る私は本当に私には見えないくらい可愛かった。



2月も2週目になった時、リビングで春也が「もう昼に教える事は無くなったかな」と言っていた。


光莉は1番の友達だが、これで終われると思うと嬉しかった。


だが光莉は最後だからと足利のイルミネーションに行きたいと言い、夜だから教える事もあると春也は了承した。


その時、春也は「最後」と言った。

そう、春は近付いていて、春也は春の訪れと共に東京に帰ってしまう。

それを聞いた時、お母さんと2人きりの生活に戻る事を考えたら、怖くてたまらなくなった。



イルミネーションは綺麗だった。

予想外と予想内はあった。


予想外は同じ中学だった山田くんがイルミネーションについてきた事。


話の感じから、年始から付き合いの悪くなった光莉を心配していたら、春也と居るところを見て弄ばれていると思ってしまい、春也に絡んでいた。


それなのに春也は何を思ったか、山田くんをイルミネーションに連れて行く。


光莉の不機嫌は手に取るようにわかる。

山田くんを本当に邪魔そうにするが、春也に言われると山田くんの写真を撮ってみている。


帰る前に春也にトイレに行くように言われて2人きりになると、光莉は「もう、最悪。なんでアイツまで来るの?春也さんを悪人みたいに決めつけるなんて最低」と文句を言う。


「あはは、いい人なのかもしれないけど、訳わからないよね」


わかってる。

山田くんは光莉が好き。

だから光莉は光莉で呼んで、私は苗字の秋田さんなんだよ。


光莉は真面目な顔で、「ねえ笑梨、お願い聞いてくれないかな?」と言ってきた。


2人きりになりたいから山田くんと帰っては嫌すぎる。まあ春也はうんと言わないから「なに?」と余裕を見せながら聞く。


「あのね…。チョコレートを作ってきたの。手作りなの。生まれて初めてなの」

顔を真っ赤にして言う光莉は、同性の私から見ても可愛い。


「春也さんに渡したいから、5分でいいから2人きりにしてくれないかな?」


私にはとてもNOとは言えない。

言う理由もない。

素直に光莉のお願いを聞き、解散前に「ごめん春也、トイレ行く。光莉」と誘ってトイレに行くと、家の場所が違う山田くんは帰っていた。

先に戻った光莉は春也にチョコレートを渡す。少し離れたところで戻るタイミングを伺う私の目には、街のイルミネーションに照らされる春也と光莉が見えた。

それはとてもお似合いに見えてしまって、私は出ていきにくい空気に足が動かなくなった。


遅れて戻った私に、春也はチョコのことを悟らせないように、「さあ帰るぞ。皆の前で格好つけて、大盛りにしなかったから腹減るだろ?」と聞いてくる。

どうあっても大食い認定してくる春也に、「肉まんと温かい烏龍茶」と言うと、春也は「あんまんもつけてやる」と言ってくれた。


そんなに食べられないのだが、私は「やった!ありがとう春也!大好き!」と言って飛び付く。


光莉の目が気にならないと言えば嘘だが、いとこ同士にしかできない事もある。


「じゃあ、本当に送らないで平気?」

「はい。今日もありがとうございました。笑梨、またね」

「うん。ばいばい」


ばいばい…。

春也にも言う日が来る。

とてもとても怖くて考えないようにした。

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