九章八話 『三男ハコベラと積木の世界』

地下三階に現れた十匹、追加で一匹、計十一匹の戦車蟹(タンククラブ)。

既に魔道士ユーフォルビア、ウォーウルフの群れ、魔道士グラジオラスが一匹ずつ撃破し、残るは機動力を失った八匹。

その一匹に向かって魔水晶(クリスタル)を投げては起爆させ、魔道士パッシフローラが弱らせていく。


「いくら戦車蟹(タンククラブ)といえど、動かなけりゃ怖くないっすよ!!

 ホラホラ、E型:貫通雷(バンカーバスター)!!」


空中で起こる爆発から矢じりのような鋼の角が射出され、戦車蟹(タンククラブ)の殻へと打ち込まれていく。


「ひゃっほ~~~う………おぁ~!?」


硝煙中毒(トリガーハッピー)よろしくハイになりながら爆弾を投げていたパッシフローラが少し固まる。

戦車蟹(タンククラブ)に異変が起こった―――全ての脚が突然ばらばらに外れたのだ。


「お?な?」


「自切、よ」


混乱するパッシフローラに、同じ班の学者シキミがフォローを入れる。


「カルブンコ、トカゲが尾を切るのとおんなじ。

 蟹にも窮地に陥ると脚を切り離す習性があるの」


「っはっは~、このパッシフローラちゃんの烈火の如き攻撃にビビったってことっすね!!」


それで納得をし終わったのか、パッシフローラは再び爆弾を投げ始める。






「グラジオラス、魔力切れだな!?ローレンティアのとこまで下がってろ!」


指示と同時に、ツワブキは自分が足止めをした戦車蟹(タンククラブ)の腕をもぎ、脚を砕いていく。


「ツワブキ」


「あ?」


指示に従わず立ち止まるグラジオラスにツワブキが怪訝な顔を向ける。

彼女の視線は、茂みの方の一点に注がれていた。ウォーウルフとカルブンコだ。

異種にしては近い位置取りの二匹、次の瞬間、ウォーウルフがカルブンコに爪を振り下ろし………。

カルブンコの尻尾で、爪とぎ・・・を始めた。


「………共生!?」


思わずツワブキは叫ぶ。ミノタウロスと爆弾岩が形成していた協力関係……。

それはウォーウルフとカルブンコの間でも存在した。

だからカルブンコはウォーウルフの縄張りを闊歩する。


アブラムシとアリの関係だ、とツワブキは素早く理解する。

花などから汁を吸うアブラムシは、テントウムシを天敵とする。

彼らは身を守るため、アリと協力関係を結んだ。

アブラムシがアリの好む汁を出し食事を提供する代わりに、アリは彼らを守るべくテントウムシを攻撃する。

つまりこの地下三階においては、アブラムシがカルブンコで、アリがウォーウルフで、テントウムシが戦車蟹(タンククラブ)か、セイレーンだ。


カルブンコ側からすれば、高級砥ぎ石として用いられる自らの尾を貸す代わりに守ってもらう。

ウォーウルフ側からすれば、自分達の縄張りでの生息を許す代わりに、カルブンコの尾を爪とぎに使い、敵への攻撃を鋭く保つ。彼らが守るのはカルブンコというより縄張りだ。


「………そうか、共生か」


それがもたらすものに関して思考を巡らせながらも、ツワブキは一匹目を完全に無力化すると、次のもう一匹へと取りかかる。網に掛かった五体のうちの一匹だ。


「まず網が絡まっていない方の脚を壊すことを優先しろ!!

 その後に出来れば腕!!ハサミの攻撃には気をつけろ!!」


【隻眼】のディルが全体に指示を出しながら、戦車蟹(タンククラブ)のハサミの振り降ろしをさけ、大剣で脚を一本打ち砕いていく。

パッシフローラの意見は正しい。動かなければ戦車蟹(タンククラブ)の脅威は前評判ほどではなく。

そしてもう1つ、ウォーウルフ達が戦車蟹(タンククラブ)の周囲を駆け、ハサミの攻撃を引きつけていた。


「囮を買ってくれてんのか」


懐に潜り込み腕の付け根を鋭く突きながら、【刻剣】のトウガが呟く。

トウガ班、【刻剣】のトウガ。

ストライガ班、【殲滅家】ストライガ。

ツワブキ班、【隻眼】のディル。

ツワブキ班、【凱旋】のツワブキ。


戦闘部隊の中でもこの四人はアシタバより戦闘力・対応力が高く、個々で戦車蟹(タンククラブ)を撃破していく。

そしてもう一人、アシタバ班キリ。


彼女やタチバナが止めた戦車蟹(タンククラブ)に間髪いれず近づき、関節に連撃を入れては削り、脚をもいでいく。

彼女の場合際立ったのは、その判断と作業の早さ。たまらず戦車蟹(タンククラブ)はハサミを打ち降ろし―――。


「お前らを出すわけにはいかねぇ」


それを見切り避けたオオバコが、腕に斧の一撃(カウンター)を加える。が、殻に阻まれる。


「硬ってぇ!!」


逡巡。いや、迷宮蜘蛛(ダンジョンスパイダー)の時の教訓だ。重歩兵相手には―――。


「関節を突く!」


もう一度振り下ろされるハサミの軌道を正確に読み避けると、オオバコがその肘へ斧の一撃を加える。

今度は手応えと共に、膝の破壊が確認できた。


「やった!!」


「油断しない!!」


直後繰り出されたもう一方のハサミの横薙ぎを、素早くサポートに入ったタチバナが上に弾く。

いや、槍の柄の中心で弾き流しながら先端の刃で肘を抉っていた。

対する戦車蟹(タンククラブ)、そのもう片方のハサミも不能になる。回避と部位破壊を一瞬で。


「あ、ありがとうござます…………。

 前から思っていましたけど、タチバナさんかなりやりますよね?」


「さぁ……今は敵に集中しよう!」


はぐらかされる形になりながらも、オオバコはその言葉に従った。

戦車蟹(タンククラブ)。各地で人々の生活を打ち壊していった魔物。

まさに兄貴は、それと戦うために村を出たんだろう。

強く斧を握り直すと、オオバコは目の前の戦車蟹(タンククラブ)へと意識を戻した。





戦車蟹(タンククラブ)の脚を止め、その攻撃手段(ハサミ)を不能にしていく。

もはや戦車蟹(タンククラブ)は消化試合の様相を成していた。

湖岸線の向こうに現れたセイレーン達も、その気配を感じ取ったのか勢いが衰えてきている。

ローレンティアの側、狩人エミリアとスズナはそこへ絶え間なく矢を打ち続ける。


「どうにか凌げたようだな。はは、スズナ、兄がお手柄じゃないか」


「……………………」


スズナは矢の射出を正確にしながらも、意識をスズシロのいる黙して潜む消失陣カゲロウの方角へ向ける。


「………そうですね」


今まで一度もなかった。

兄が、相手を傷つける目的の罠を張ったことなど。







その、落とし穴に落ち爆炎に包まれた最後の一匹に、アシタバとウォーウルフ達が近づく。


林側と違い砂浜のここは存分に火を使ってもよかったのだろう、その炎だけで既に、戦車蟹(タンククラブ)は命を終えようとしていた。


「―――たまにお前達が分からなくなるんだ」


戦車蟹(タンククラブ)相手に奔走する仲間達とは少し離れた場所で、その言葉をウォーウルフだけが聞き届け、アシタバの顔を見上げる。


「囮を使って。林の食糧になりそうなものにも目もくれず。

 お前達は、どうしてそこまで湖を目指したんだ?」


少し悲しそうに、戦車蟹(タンククラブ)を見つめていた。


「壊すために?それとも………生きたかったのか?」


その問いに誰も答えない。答えられない。

ただ炎に包まれ終わりゆくその魔物を、アシタバは立ち尽くし、見守っていた。








あの日のことは、怒りが混じってよく憶えていない。


一度、難民先で畑が荒らされたことがあった。

戦火から逃げ、何とか辿り着いた先の土地で、父が何度も地主に頭を下げてようやく借りられた畑だった。

やせ細ったあまりいい土地じゃなかったけど。

これでまた日常を取り戻せると父はやる気に溢れてて。

その時はゴギョウも帰っていたから、家族みんなで畑を耕して、種を植えて大切に育てた。


故郷を失ってから、私達はようやく日常を手に入れられると思ったんだ。




あれも舞い月の夜だった。畑で喧騒が聞こえた。

難民生活で夜中の音に敏感になっていた私達はすぐさま起きて、武器を持って急いで畑に向かった。


畑は荒らされた後だった。

もうじき収穫だったはずの野菜は、育ちきらない状態で全部が持ち去られていた。

ハコベラやタビラコが世話をしていたところが乱暴に踏み荒らされ―――その中にゴギョウが血まみれで倒れていた。


知らなかったんだ。


ゴギョウが私達が寝静まった後、畑の見張りに出ていたなんて。

知らなかったんだ。

魔王軍との戦線からは遠いこの地で、私達はまだ何かを警戒しなきゃいけないなんて。


「ゴギョウ!ゴギョウ!!!」


「……セリ姉」


ゴギョウの頭を抱きかかえた。戦ったんだろう。武器の傷よりは殴り蹴られた跡が目立った。


「あんた、何して――――」


「全部、盗られた」


陽気な弟が口にする、か細い震えた声だけは、私は未だに憶えている。


「守れなかったんだ。姉貴、俺はまた・・守れなかった」


泣いていた。ゴギョウが兄になってから久しく。戦場から帰ってきて以来だった。


「馬鹿ッ!!」


傷ついた弟を抱き寄せる。



知らなかったんだ。


魔王軍との戦争で、撒き散らされる貧困の中で。

他人に平気で苦しみを押しつける奴らがいるなんて。

人が苦しんで育てたものをあっさり奪っていく奴らがいるなんて。

おんなじ人間で。どんなに、どんなに飢えていたとしても。

弟をあそこまで痛めつける必要は、絶対になかった。


「………スズナ、スズシロ、武器持って俺についてこい。

 近隣の家に知らせに行く。母さん、セリ、ゴギョウを頼むぞ」


父が動く。弟達が動く。

頭を渦巻く怒りが、世界をぐるぐると掻き乱しているようだった。


「………ゴギョウ兄」


弟のハコベラが泣きながら兄の名を呼ぶ。

私はあの後、何を言ったんだっけ。


忘れてしまった。



忘れて、しまった。






現在、セリはクレソン家長男ツバキと魔王城南側を歩く。

今や打ち捨てられた農耕部隊の畑が広がっていた。


「最初の方は大変でしたね。

 皆でとにかく耕したのはいいものの、亜土(ヂードゥ)で作物が育たないときた。

 結局ここは無駄だったわけですが……」


「でも私はこの景色、好きですよ。地平線まで伸びる畑を見てると……」


「大地主になったみたいで?」


「そう!ふふ、考えることは一緒ですね」


と、セリは少し肩の力を抜いて会話を楽しんだ。

ツバキは相変わらず考えが読めないところがあったが、少なくとも友好的じゃないわけではない。


「最近じゃ弟がこの辺で農業の真似ごとをしているんですよ。僕の畑だーって言って。

 結局は育ちはしないんですけど、まぁいい練習だと思って親ともども見守っています………」


「畑ドロボー!!!」


その弟の叫び声がまさに聞こえてきたので、セリはずっこけそうになる。

行く先に目を凝らせば、弟ハコベラが大人に枝を突き付けている。

ゴギョウに似た坊主頭、背後には怯えた顔の末っ子タビラコも一緒だ。


「いやいやいや、泥棒をしていたわけじゃねぇ。

 使わせてもらおうと思っただけだ。先客がいるなんて知らなかったんだ」


「嘘付け!お前ら泥棒なんか信用できるか!!」


「………あれ、リンゴさん?」


距離を置き、セリとツバキはその様子を見守る。

ハルピュイア迎撃戦の一件で、その姿は皆知っていた。

ぼさぼさの髪と無精髭。聖剣を腰に携えた勇者リンゴだ。

セリの弟ハコベラはその勇者に木の枝を突き付け。

そして彼らの後ろ……ハコベラの畑には、何やら木の幹が突き立てられている。

正しくは、幹樹人(トレントツリー)。


「ここは農耕部隊も撤収して誰も使ってねーって聞いたぞ?

 お前こそ勝手に陣取って、土地泥棒なんじゃねぇの?」


「お前と一緒にするな!!」


「第一、畑なんも実ってねーじゃん。俺が何を盗むんですかー?言ってみてくださーい?」


「うるさーい!!」


少年と同じ目線で喧嘩するリンゴに、二人は戸惑いと呆れの目線を送りつつ見守る。


「いいか、バカ、この野郎!お前は知らないんだ!!」


「何をだよ?」


「積み上げることをだ!!」


ああ、それは。


その話は。



「頑張って積み上げた積木も、一瞬で倒される。

 長い時間をかけて育った樹も、俺が火をかければ燃えてしまう。

 ずっと頑張って育てた野菜も一晩で盗られていく!

 セリ姉が言ってた!この世はどうしても、積み上げることより崩すことの方が簡単で。

 お前たちみたいな積み上げる大変さを知らない奴らが、そうやって俺達の積木を崩していくんだ!」


叫ぶハコベラを、勇者リンゴは真剣な眼差しで見つめていた。


「でもやられたからって、簡単だからって、俺達が同じことをやっちゃいけないんだ。

 そしたらこの世は何も積み上がらない、砂漠のような世の中になってしまう。

 俺達は種を植えて育てなきゃいけない。どれだけ踏み躙られたって、高く、高く。

 俺達は、積み上げていかなきゃいけないんだ!!」


忘れていた。

未だに相手を殺したいとさえ思っている、渦巻く怒りの中で必死に紡いだあの時の言葉。


「ゴギョウ兄は正しいことをやろうとした!!俺たちだって正しいことをやっている!!

 簡単なことをして威張り散らして自慢げに人のものを奪っていく、お前みたいな奴らを俺は絶対に許さない!!」


セリもツバキも。そしてリンゴも。しばらく、叫んだその少年を見守った。


「………そりゃあ悪かった。本当に知らなかったんだ。クレソンさんに確認はした。

 それに俺はお前の何かを奪うつもりはない。

 あの樹をぶっさしたのは、ここで農業をやってみたかったんだ。

 お前の畑とは知らず、悪い事をした」


「………農業を?」


「ああ、つまり同業者ってわけだ。

 俺はお前の畑の隣を借りるとするかな。これからよろしく頼む」


「………ご近所付き合いは大事だ。よろしくお願いします」


お辞儀をし合う弟と勇者。


「でだ。ご近所のよしみって奴で、お前に1つ言っておくことがある」


「ハコベラだ。こっちはタビラコ」


「そうか、ハコベラ。お前は俺が畑泥棒だと思ったわけだな?」


「ああ、そうだ」


「じゃあ約束してくれ。今後畑泥棒を見つけたら、真っ先に俺か親父に知らせろ。

 今回みたいに一人で立ち向かうな」


ツバキとセリは、思わず顔を見合わせた。


「それは、俺が弱いからか」


「違う。一人ではなくみんなで当たるべきものがある。

 お前の親父は畑泥棒に出くわした時、一人で立ち向かっていったのか?」


「…………父ちゃんは、お隣に知らせに行くって……」


「そうか。で、お前の父ちゃんは弱いのか?」


「いいや、強い!!」


「じゃあ俺の言いたいことは分かるな?

 強い弱いに関係なく、それはそうするべきなんだ………約束できるか?」


「………分かった、約束する」


意外に面倒見のいい勇者リンゴと、指切りをする弟ハコベラ。

セリはその様子をただ、見守り続けた。







「―――あれは、きみがハコベラ君に?」


南方の畑からひっそりと退散し、魔王城に戻ったところでツバキはセリに問う。

二人は農耕部隊の主戦場、地下一階に向かっており、大階段を下りながらの会話となった。


「え、えぇ………言ったのはちょうど畑泥棒に会った時で……。

 動転していてよく憶えていないんだけど……」


難民時代の畑泥棒、で事情を察したのだろう。

ツバキはそれ以上踏みこんではこなかった。

代わりに「いい弟さんだ」と呟く。


「………不安、だったの」


セリが零す。目はどこか、遠い虚空へ向けられていた。


「土地から土地へ彷徨う日々で。寝床も、食事も服も……友達も、そして生活も。

 満足にはあげられなかった。

 あの子たちの成長をちゃんと守れるだけの環境を、私は与えられているのかって」


怖かったんだ。あの日壊された日常を繋ぎ止めるのに必死だった。

成長期のハコベラやタビラコに満足に食事を用意できず。

それに責任を感じてスズナやスズシロが追いつめられるのを知りながら、休ませてあげることはできず。

ナズナがムードメイカーを買って出るんだけど、だからこそナズナからも目を離せなかったり。

ゴギョウが夜、畑へ向かっていく時の顔を見ると、掛ける言葉がどうしても見つからない。


「不安だったの。私はちゃんと家族を守れているのかって」


「…………きみはどこにあるんだ?」


「え?」


「いや………立派な男の子じゃないか。

 きみや、きみの家族はきちんと役目を果たしている」


そうなのだろうか。

勇者に向かう弟の姿を思い浮かべる。そう思っていいのだろうか。


「戦争は終わったんだ。きみは銀の団に入って生活を手に入れた。

 そういう考え方は少しずつ変えていくべきなんじゃないかって、俺は思う」


大階段の暗い部分を抜ける。太陽光が取り入れられた明るい地下一階。

もはや樹人(トレント)達の畑となったそのフロアを二人は見下ろす。


「父に、お前にはあれが何に見えると聞かれたことがあるんだ」


そう言ってツバキは眼下の、樹人(トレント)の畑を指す。


「何に?」


「俺は新しい畑と答えた。でも父は未来の食卓だと言った」


「未来の食卓」


「あれが形になるなら、各地の亜土(ヂードゥ)の土地は農業用に使えることになる。

 今はどこもかしこも食糧難だ。その問題の根本は魔物に土地を奪われたことにある、と父は考えている。

 農民たちが手入れをしてきた土地が魔物に奪われ、亜土(ヂードゥ)で汚染され全体的な畑の面積が減った。

 土地を奪われた難民の中には、農業をしたくても土地がない農民が大勢いる」


まさに自分達のように。とセリは納得する。


「農業を行いたい農民の熱意と、食糧難の間にボトルネックがある。

 土地が足りないという問題だ。

 だからそれを解決する………樹人(トレント)の農業利用が形になれば、人類の新たな開拓史と農業革命が起こる。

 難民は土地と仕事を手に入れて、食糧に困ることなんてきっとなくなる。

 未来の食卓が豊かになっていく」


ツバキはフロアに落としていた目線をセリに向ける。


「父は、やがて起こる食糧問題を予測して庭師から農家に転向したらしい。

 食糧不足を、農民を救うための見識を積み上げていくために。

 築き上げていかなければこの世は窮屈な世界になってしまう。

 子供達のために、俺達にはやらなければならないことがある。


 セリ、きみは正しい。

 なかなか信じてもらえないかもしれないが、俺は尊敬したんだ。

 ―――けど、少し心配にもなった」 


「し、心配?何を?」とセリは困惑する。


「それはまぁ……追々として。俺は、父の考えていることは正しいと思う。

 きみの考えていることも。その正しさを一緒に成していきたいんだ、俺は。

 セリ。これからも俺と話してくれないだろうか。

 俺はもっと、きみのことが知りたい」



地下一階、大階段の上で、セリは人生で初めての、告白のようなものを受けるのだった。




九章八話 『三男ハコベラと積木の世界』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る