九章七話 『次男スズシロと殲滅戦』

人魚(マーメイド)は唄いながら、彼岸の騒乱を眺めていた。


それはアシタバ達の読み通り、遥か下層から水流を辿り昇ってきた個体だ。

そしてアシタバ達の警戒に反して、地下三階の湖には下層から来る魔物を除いて危険な魔物はいない。

だから彼女が荒らす。戦車蟹(タンククラブ)を使って。


―――と。


素早く人魚(マーメイド)が頭を反らす。次の瞬間、そこを風を切る矢が裂いていった。

湖岸、【月落し】のエミリアだ。

睨む彼女の視線に人魚(マーメイド)は微笑むと、唄を切り上げ湖へと潜っていった。






知性魔物は魔王とともに全滅したはずだ。という疑問がまずアシタバを襲った。

まだ人類がサンプルの入手に至っていない人魚(マーメイド)は、そもそも知性が人間に近いのか魚に近いのか、知性魔物なのか習性魔物なのか定かになってはいないのだが。


「………魚側だったのか?」


真実を言えば、このアシタバの考えは間違いだ。だが今はそれよりも地下三階の騒乱だった。

木々という木々をなぎ倒し戦車蟹(タンククラブ)が進行する。速度を速めていく。

赤黒い体。大型トラックほどもある巨体が、数にして十。

体の両側にある幹のような脚ががしゃがしゃとせわしなく動き、その巨体を横へと加速させていく。

戦車蟹(タンククラブ)を相手取る時には、相手に速度を与えてしまわないよう注意しなければならない。

そうなれば手を付けられなくなってしまうからだ。

つまりこれは、いかに進軍始めの出鼻を挫くという戦いになる。


それだけではない。





「戦車蟹(タンククラブ)は必ず殺せ」


と、ツワブキは戦闘部隊全員に言っていた。


「元より殲滅戦と題しちゃいるがな。戦車蟹(タンククラブ)は人類に最も被害を与えた種だ。

 当然かなりの研究と生態調査がなされた。

 だがな、歴代の探検家たちがどこをどう探しても戦車蟹(タンククラブ)の幼体は発見できなかった」


成体が相手取れないなら、子供のうちに殺すか交尾中を襲えばいい。という理屈だ。


「だから結論として言われているのは、戦車蟹(タンククラブ)は魔王城内でしか交尾をしないって話だ。

 鮭の里帰りみたいにな。もしそれが本当だった場合、地下三階に限らず、いずれ俺らは戦車蟹(タンククラブ)に出くわすはずだ」


いつもの陽気ではない。ツワブキの目は鋭く、冷たい。


「今一度言わせてもらうぜ。会ったら殺せ。特に成長しきっている奴はな。

 一旦水に潜られれば、奴ら海を伝って外へ出るかもしれねぇ。

 一匹でも成体の突撃は集落1つぐらい十分に吹っ飛ばせる。

 殺せ。絶対に一匹も逃がすな。逃した一匹が、瓦礫と死体の山を築く」




まさに破壊の権化と呼ばれる戦車蟹(タンククラブ)を、外に出さず魔王城内で仕留めるという、これは世界を守る防衛戦だ。

林をかけ戦車蟹(タンククラブ)の元へ向かう、ツワブキ班、トウガ班、ストライガ班。


「出し惜しみはしない。水流操作フィフス―――“海怒乱龍ワダツミ”」


トウガ班、魔道士ユーフォルビアは目的(それ)を理解し、そして胸元の魔水晶(クリスタル)を砕いた。

彼女、ユーフォルビアの究極魔法(アルテマ)。

彼女の近くの湖の水が渦巻き、渦巻き、そして宙へと昇る。

うねり渦巻く水流が、戦車蟹(タンククラブ)に劣らないサイズの龍の形を成した。


「一匹。潰す」


高密度のマナが巡る、超常じみたユーフォルビアの瞳は珍しく殺意に満ち。

彼女の杖が指す方向へ水の龍が飛んでいく。木々をすり抜け。

そして戦車蟹(タンククラブ)へ水の塊が着弾した。


「水膨張フォース―――“海胆裂泡アカグモ”」


ユーフォルビアが拳を握り、そして戦車蟹(タンククラブ)に着弾した水が大爆発を起こした。


「っはあ!!俺に負けず劣らずの豪快っぷりぃ!!」


ユーフォルビアに併走する魔道士パッシフローラは、派手な爆発に満面の笑みを浮かべる。

林の奥でバラバラに砕ける一匹。だが残り九匹は行進を続ける。


「ナイスだユーフォルビア!!」


言いながらもツワブキは、戦車蟹(タンククラブ)とは別の方向を見ていた。

地下四階から出てきたセイレーンの群れだ。数にして20から30。

ハルピュイアと異なるのは体毛……潜水する彼らを補助するべく、撥水性を兼ね備えた黒い羽だ。

つまり攻撃性は全くハルピュイアと同じ。目的は恐らくカルブンコや祝福兎(イースターバニー)。


戦車蟹(タンククラブ)は空飛ぶ彼らにとって脅威ではなく、むしろ益さえもたらす。

スズシロ達の狩りと全く同じ理屈、戦車蟹(タンククラブ)に追いたてられ逃げ惑うカルブンコ達は、セイレーンにとって狩りやすい獲物だ。

完全な漁夫の利狙い。セイレーンと戦車蟹(タンククラブ)は、セイレーンに一方的な協力関係にあった。


「………邪魔だな」


つまりは対するツワブキ達の敵。隙あらば横やりを、攻撃をすら加えてくるだろう。

どうするべきか。刹那の逡巡。

を払うように、二本の矢がセイレーンの群れへと飛んでいった。


「エミリア!!スズナ!!その調子で矢を撃ち続けてくれ!!

 ティア、二人の護衛!!各自自分の判断で撤退してくれて構わない!」


アシタバだ。少し離れた湖側の位置。

自分の班とラカンカ班、タチバナ班から数人選抜して出張っている。

いい判断だ、とツワブキは心の中で呟き。そして林の方向で、彼の想定外がもう1つ。


「ツワブキ、ウォーウルフだ」


彼の相棒、ディルが言う。ウォーウルフの群れが、戦車蟹(タンククラブ)の一匹に併走している。

十匹。いや、十四匹ほどか。縄張りを荒す存在には徹底して抗戦する種だ。


全匹が、戦車蟹(タンククラブ)の脚の1つに飛びついた。

齧りつき、そして何匹かは振り落とされ踏み潰される。

踏ん張ったものは牙を深く、深く食い込ませていく。


「捨て身か。エグいな」


ストライガ班、【竜殺し】のレオノティスが呑気に呟く。

追加のウォーウルフが戦車蟹(タンククラブ)に飛びかかり、そしてとうとうその脚が折れる。

バランスの喪失。スピードそのままに転げ回り。

何匹ものウォーウルフを下敷きに、道連れにした後、戦車蟹(タンククラブ)は停止した。


そこへ距離を保っていたウォーウルフの予備隊が飛びかかる。

牙や爪を食いこませ戦車蟹(タンククラブ)を削り殺していく。


「一匹やってくれたか。だが効率が悪りぃ」


この勃発した生存競争において、重要なのは何を敵に回し何を味方につけるか。

手っ取り早く自分達が何と敵対しているのかを示す必要がある。


「気合い入れろよ野郎ども!!俺達もいよいよやるぜ」






戦車蟹(タンククラブ)に相対するツワブキ達を通り抜ける形で、アシタバ達は地下四階に続く洞窟を目指し駆ける。

その上に滞空していたのはセイレーンの群れ―――彼らが請け負うべき相手だ。


オオバコは顔をひきつらせる。ハルピュイア迎撃戦の苦い記憶。

しかもこちらの味方はたった四人……アシタバ、キリ、そして騎士タチバナ、魔道士エーデルワイス。


「悪いが俺は矢で落ちた奴の追撃に専念する。この腕なんでな」


アシタバが包帯で巻かれた腕を掲げ、オオバコの味方は三人に減った。


「大丈夫よ」


先頭に立つキリが、上空を見据えた。


「私がやる」





ローレンティアはセイレーンへ向かい合うアシタバ達を見守った。

横ではスズナとエミリアが順次矢を放ち、セイレーンへと的中させていく。


「人魚(マーメイド)はもう潜ったか。出来れば仕留めておきたかったが」


【月落し】のエミリアが湖の方を確認する。

既に人魚(マーメイド)は岩場から姿を消し、歌声も止んでいた。


「あれは………?」


今度は湖と反対、林の方を見ていたスズナが呟く。

ローレンティアも視線を送り……そしてその反応に納得した。


網だ。

おそらくツワブキ達によって前もって用意されていた網が、男達に引っ張られ、木々の間に複数張られる。


「―――刺し網漁法?」


スズナが呟いた単語に、エミリアもローレンティアも理解が及ばない。知らない方が当然だ。

それはカニの漁方法の1つ、二人の無知と言うよりは、海の漁にまで挑んでいたスズナとスズシロの節操のなさと言える。

刺し網漁法は端的にいえば、垂直に張った網に蟹を絡ませる漁法だ。

蟹が網に刺さるようになることからそう呼ばれる。


「まさか戦車蟹(タンククラブ)相手に漁を………!?」


そのまさか、だった。

前述の通り人類に多大な被害をもたらし続けた戦車蟹(タンククラブ)を、歴代の探検家達は熱心に研究し、当然対策についても様々なものが試されてきた。

中でも最も簡易的かつどこでも用いることができるのが、今回ツワブキ達が採用した刺し網漁式トラップである。

決して捕えることが目的ではない。網自体も、戦車蟹(タンククラブ)を覆う程に大きくなくていい。


ローレンティアはその網が役目を果たす様を目撃した。

もっとも湖から離れた網が、一番に戦車蟹(タンククラブ)と接触する。

がしゃがしゃと動く脚がそれを巻き取り、そして片側四本の脚に複雑に絡まった。

たまらず戦車蟹(タンククラブ)は盛大にずっこける・・・・・。トラックの横転と同じだ。

戦車蟹(タンククラブ)の胴体が地面と激しく擦り合い、やがてその脚が止まった。


戦車蟹(タンククラブ)が脅威なのは、大行進が予測不可能で突発的であることだ。

来るのが分かりきっているのであれば、それを迎撃する手段は過去の識者達が多く立案していった。

また一匹、戦車蟹(タンククラブ)が網にかかる。もう一匹。更に二匹―――。


「C型:潜伏雷エスミーネ


動いたのはストライガ班、魔道士パッシフローラ。

網に取り付けられた魔水晶(クリスタル)が発光し、炸裂する。


「っはァ!!」


閃光と灼熱に包まれる戦車蟹(タンククラブ)が五匹。

だが仕留めるまでには至らない。それでいい。

追撃と足止めと、相手を行進から敵対処に移行させること。

パッシフローラの爆弾は役目を果たした。


「三匹!!逃した!!」【隻眼】のディルが叫ぶ。


網の地帯を抜けた戦車蟹(タンククラブ)三匹。

それを最も湖側に待機していた、ツワブキとグラジオラスが対処する。






鬼気迫る、という言葉が浮かぶようだった。


セイレーンの群れを相手取ったキリの戦闘―――。

旋風のように体を回転させ、攻撃回避と切りつけを同時に行っていく。

滞空するセイレーンの羽をナイフの投擲で貫き、弱ったセイレーンの喉を的確に裂いていく。

ミノタウロスなど単純にタフな相手には攻め手に欠ける彼女だが、部分的に脆い相手に対しては非常に相性が良い。

正確で素早い攻撃の連弾。没入していく。深く、深く。


彼女はその戦い方しか知らなかった。背後では仲間達が戦車蟹(タンククラブ)と戦っている。

すぐにセイレーンこいつらを殲滅して助太刀にいかなければ。

だから殺していく。守るために殺す。迅速に。正確に。そして無感情に。


視界を過ぎる脅威を切り払っていく。彼女はその戦い方しか知らなかった。

視界を過ぎる脅威を――――。


「違う、キリ!!」


肩を掴んだアシタバが、彼女を没入から引き戻す。

固まる。ナイフを振り下ろさんとする構えのまま、その先には一匹のウォーウルフがいた。


「ただ目の前の魔物を片っぱしから殺していけばいいわけじゃないんだ!

 相手をよく見ろ、キリ」


見る、見る。目の前のウォーウルフ。魔物で鋭い牙。

しかしナイフを振るえば届く距離なのに、飛びかかってくる気配はない。

キリの目を真っ直ぐ見ている。


その後ろに続く数匹のウォーウルフ。彼らの意識が向けられているのは………。


「セイレーン?」


ウォーウルフが対立せんとしているのはセイレーン達だ。

その敵意はキリ達には向けられていない。

キリの前のウォーウルフは、依然として視線を動かさない。


「戦車蟹(タンククラブ)の大行進にセイレーンの乱入。

 縄張りを荒されることをウォーウルフは許さないが、流石に2つ同時に相手取るのはキツいんだろう。

 ………同盟を提示されている」



知らない。そんな戦い方なんてキリは知らなかった。







「グラジオラス!!足止めできるか!?」


ツワブキとグラジオラスの元へ、三匹の戦車蟹(タンククラブ)が迫っている。地響き、打ち鳴らす巨体の行進。


「…………やってみる」


答えるなり【蒼剣】のグラジオラスは魔水晶(クリスタル)を砕き、彼女の究極魔法(アルテマ)を発動させた。


「―――斬撃強化フィフス、“万里一閃アヴァル”!!」


それは刃渡りで言えば戦車蟹(タンククラブ)のサイズにも引けを取らない、巨大な蒼い魔法剣だ。


「紫、電、一、閃!!!」


踏みこみ、振るう。蒼いその一閃は、戦車蟹(タンククラブ)を捉え……。

一体を一刀両断。そして別の個体の、脚を二本狩りとった。


「十分!!」


脚が欠けバランスを崩した戦車蟹(タンククラブ)の脚に飛びつきよじ登ると、ツワブキは斧を叩き込みその膝を割る。

戦車蟹(タンククラブ)を逃がさないというこの戦いにおいて、優先されるべきはとにかく機動力を削ぐ事だ。

その意味では、最後に残ったのはツワブキ達の逃した一匹。


「ちっ―――」


悔しがる。が、失敗ではない。人数の計算はしておいた。

戦車蟹(タンククラブ)の進行方向、湖岸に待機しているのはエミリア、スズナの弓コンビとローレンティアだ。






「………射ぬける?」


「いや、無理だ。動いている甲殻類は隙間がない」


スズナとエミリアは迫る戦車蟹(タンククラブ)を見ていた。

彼女達の背後には湖、辿りつかせてはいけない水辺。彼女達は文字通り最後の砦だ。


「私が止めます」と、ローレンティアが一歩踏みだし。


「いや、その必要はないようだぞ」と、エミリアが左手を指さした。


「え?」


ローレンティアが目を移せば、砂浜を一直線、何かがこちらに向かってくる。


「キリ?」


疑問形になるのも無理はない。それはウォーウルフに騎乗したキリだった。

後ろには同様に、ウォーウルフの背中に乗ったアシタバ達四人が続く。

彼らの背後では、残るウォーウルフ達がセイレーンを食い止めていた。

それは恐らく人類史で初めて行われた、人間と魔物の共闘だ。


「―――ティア!下がっていろ!俺達がやる!!」


駆けるウォーウルフが戦車蟹(タンククラブ)と併走する。先陣を切ったのはやはりキリだ。

忙しなく動く脚の軌道を冷静に見きり、飛びついてよじ登ると膝を貫く。


二撃目を請け負ったのは騎士タチバナだった。

明らかにそれは騎士団で鍛錬を受けた騎馬上の槍術だったが、併走するウォーウルフの背中から槍の一撃を放ち、膝を1つ壊す。


「俺だって!!」


慣れないながら、オオバコも垂直に斧を振り下ろし、三撃目、三本目の脚を折る。


「やった!!」


オオバコの叫び。最後の一匹が体勢を崩し。砂浜に横転する。

これで戦車蟹(タンククラブ)は全て止め終えた。


はずだった。



「いや、あれは―――」


迷宮蜘蛛(ダンジョンスパイダー)という新種の登場。

ミノタウロスが身につけていた傭兵の戦法。

見知った魔物でも、魔王城(ここ)では気を抜いてはならない。


一匹、その十匹の行進とは離れ林を駆け抜ける個体がいた。

ツワブキやアシタバ達がいる場とは遠く。


「―――囮!?」



戦車蟹(タンククラブ)にとって、外と魔王城(ここ)では戦い方が違う。

外では自らの食糧を求める暴食と行進。

そして魔王城(ここ)では、外敵がいた場合、一匹でも多く外に出るための脱出作戦。


人類に最も被害を与えた破壊の化身。家々を吹き飛ばす巨大な戦車の如き魔物。

その修飾語の仰々しさにツワブキやアシタバでさえ見落とした。

魔王城が兵器育成の場であるのなら、ここから出ていく戦車蟹(タンククラブ)は新兵であり挑戦者である作戦を敷いてくる。

化け物ですらある相手側からの視点。

を、戦闘部隊全員の中で、ただ一人だけが・・・・・・・忠実に追っていた・・・・・・・・


「―――そこに来てくれてよかった」


林を抜け、湖に到達せんとするその戦車蟹(タンククラブ)が大きく前のめりに傾いた。

前方側の脚が地面に埋もれている。否、落とし穴にはまっていた。

直後、その穴から閃光、爆炎が戦車蟹(タンククラブ)を包む。


「んっはっはー、我が魔法ながら大人気っすね!

 ようやく俺の便利っぷりに世界が気付きましたか!」


林の中でその様子を見ていたパッシフローラが胸を張る。

戦車蟹タンククラブを見据えた、その落とし穴を作ったのは。

彼女に、落とし穴に爆弾を設置するよう頼んだのは――――。




「俺は今でも憶えているぞ」


マリーゴールドの“黙して潜む消失陣カゲロウ”の中。

その呟きを、不思議そうにピコティが、心配そうにマリーゴールドが、そしてラカンカが真剣な顔つきで見守る。

タチバナ班、狩人スズシロが、その燃える戦車蟹(タンククラブ)を睨んでいた。


「あの、お前らが村を踏み潰していく様を、俺は今でも憶えている」


燃え盛る家々が、赤い津波と形容される戦車蟹(タンククラブ)の大行進に呑まれ、ぐしゃぐしゃに踏み散らされていく。

スズシロの故郷が魔王軍に滅ぼされた、あの光景だ。

いつも気丈なセリ姉は呆然とその光景を眺め、家族も悲痛な沈黙に包まれた。

あの日、日常は不条理に打ち壊され、貧困と不安の難民生活に叩き落とされた。


「俺がお前らを外に出すと思うかよ」


誰に届けるわけでもない言葉を、スズシロは吐き捨てていく。

あの光景を、どこかでまた起こすわけにはいかない。


「俺が、お前らを逃がすと思うのかよ」


ずっとどこかで待っていた。

それは、故郷を持たないアシタバにはない。

城に籠っていたローレンティアにも、生まれた地に愛着のないキリにも、故郷が魔王軍に襲われなかったオオバコにもない―――。


復讐者としての、底を這いうねる怒り。


世界を否定し貴族を恨んだ、同じ復讐者の【月夜】のラカンカが、その様を静かに見届けていた。




九章七話 『次男スズシロと殲滅戦』

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