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 静の胸元に額を預けながら、息を整える。

 汗ばむ洸太と対象的に、静は一滴の汗も流さなかった。体液にまみれた洸太の身体を、愛しそうに抱きしめている。

 宣言どおり、めちゃくちゃな情交だった。

 再開の喜びを噛みしめながら、最後の別れを惜しんでいるみたいに、何もかもを与えられた夜だった。


「なぁ洸太、」

 静の胸は言葉を発する度に柔らかく動く。生きてるのか死んでいるのか、ますますわからない。


「何、」

「聞かないのか」

「……何のことですか、」

「あの日、お前を置いてこの家を出てったこと」

 背に回された彼の腕に、少しだけ力が入るのを感じた。


「……今は、いいです」


 洸太はいくつか浮かんだ言葉から、一番穏やかで無難な言葉を選んだ。


「そっか、」

 髪を優しく撫でられる。子供をあやすような、慈愛に満ちた仕草だった。


 なぜ彼がこんなにも優しくするのか、洸太には分からなかった。

 自分を捨てていったことへの罪滅ぼしなのだろうか。

 だが先に罪を犯したのは――彼の人生を奪ったのは、自分の方なのだ。

 優しくされる必要は、どこにもない。

 むしろ変に優しくされればされるほど、胸の奥で軋む音がする。


 あるいはそれが、洸太に対する罰なのだろうか。

 胸を締め付けるような痛みが、静の人生を奪ったことへの、罰なのか。

 それなら、甘んじて受ける他ない。



 夜は深くなる。雨が再び降り出す。遠くでまた、山が泣いた。洸太はその音に、どこか慰めのような温もりを感じていた。

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