1.3
途端、彼の絵は溶けるように燃え上がり、オレンジの光が炉火の冷徹な顔を照らした。炎はあっという間に彼の指に迫る。指がパッと離れ、燃え残った紙片が地面に落ちる。炉火はさっきと同じように、執拗にそれを踏みにじった。
一連の行為のあと、炉火は再びこっちを見た。
その瞬間、身体の奥に痛みを感じた。
彼の中に宿る苛烈な炎が、その視線を通して自分を焼いたようだった。
「今日のことは誰にも言うなよ。言ったらお前が煙草を吸ってたことを言いふらしてやる。お前、名前は。」
「……春岡。
「覚えとく。俺は、」
「知ってるよ、四谷炉火だろ」
初めて口にする〈炉火〉の名前は、口の中でどこか引っかかる感じがした。
その次の月も、俺たちは同じ時間帯に同じ場所で鉢合わせた。示し合わせたわけでもないのに。そこから炉火に一方的に呼び出されるようになるのに、時間はかからなかった。
炉火はいつも何枚かの絵を持っていた。あるいは画用紙や粘土、木で作った立体のときもあった。いずれにせよ美しい作品だった。
俺は煙草を吸いながら、火をつけろ、という彼の命令に従った。それは俺と炉火の、二人だけの儀式だった。その儀式が、俺たちを結びつけていた。
やがて炉火は、兄の通った美術科のある高校には行かず、俺と同じ進学校の
秘密裏に作品を破壊する関係は、今も続いている。
その関係が〈友人〉であるとは、俺には到底思えなかった。だが、他にその関係を表現する言葉もなかった。
俺は彼が自分と同じだと思っていた。同じ孤独に苛まれているはずだと。そんな彼が、誰かに恋をするなど思ってもみなかった。
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