第67話 外伝 琥珀と八咫烏

「まあ早々無いんじゃよなあ」

 何時も通り一人で呟いた。

 暇潰しの趣味として、久慈川の周辺エリアの砂浜を散歩する習慣中。

 理由としては琥珀が時々流れて来るから。琥珀は水より軽いので、水に浮かんで流れて来る。

 で、海流的にこの辺の浜に打ち上がったりするのだ。

 時々漂着前で浮かんで居たりするため、いざというときには泳いで採りに行ったりもする。

 二束三文のクズが多いが、時々極上品が有って、売ると結構なお値段に成るモノが有るので、結構楽しく時間が潰せるのだ。


「ん?」

 遠くの海面を見て違和感に気がついた。

「ヒト?」

 石とは別のモノが浮かんで居る気がしたのだ。

「いや、マネキンかなんかじゃろ?」

 おっかなびっくり目を凝らす。人にしか見えなかった。

「ヤバい案件か?」

 咄嗟に服を脱ぎ捨て、浮具替わりに近くに落ちていた空のペットボトルを手にして、海に飛び込んだ。


 結果は、まさかのヒトだった。

 でもって、めちゃくちゃ重かった。

 意識の無い人体を水中で運ぶのがどれだけ辛いか、初めて知った。

 コレからも活かす機会は無さそうなアレである。2Lペットボトル一個の浮力がやらたと有難かった。

 体温はまだ有るっぽいけど、脈と呼吸がない、状況的にはお亡くなりな感覚だが。


 溺れた時も先に心臓動かせだったかな?

 吐き出したら儲けもんだったか?

「すぅ……はぁ……せーの」

 精神統一しつつ、首と顎を弄って、気道を真っすぐにして。

「よっと、ふーんふんふふふふぬーぬぬぬぬぬーぬぬぬぬぬーぬぬぬ、ぬーぬぬぬぬー」

 水戸の御老公のテーマのリズムに合わせて鼻歌を歌いつつ、心臓だかみぞおちの辺りを押し込んだ。

「なななななーなななーなーななーなーなー」

 段々と楽しくなってくる。

 腕じゃ無く、体重を使って、人体の反発を利用して。全身を使ってリズム良く押し込む。


 エンドレスでリピートする、歌詞はうろ覚えなのでリズムだけ鼻歌だ、何回押したかなんて正直覚えていない。

 何回押したか数えろとか言われていた気もするが、そんなのより何回、何秒押しこんだか勝負だった気がする。

 血中酸素が無くなるまではコレで良いし、衝撃の反作用で横隔膜動くから肺も結構動くとか何とか云われてた気がするが、結局押し込んでりゃ何でも良いと言うオチだったはず。

 そんな訳で押し込み優先だ。

 何だったっけ、AEDとか要るんだっけ?

「おっけーぐるがる、発信、119番、通報!」

 あーもう面倒くさいと、手は止めずに咄嗟にスマホの方を音声認識を呼びだした。

「スピーカー切り替え! 良いから来い! 救急車の方! 溺れて呼吸停止中! GPSは拾っとるんじゃろ? 後は知らん!」

 繋がっているらしい向こう側が騒がしいのだけは聞こえた、後はもう本気で面倒臭く成って居た。


 ゲホ! ゲホ!

 良い感じに蘇生完了、水も吐き出せた様子だ。

 よし、ここだと言う感じに足で蹴って転がしてゲシゲシしつつ、吐き出すのを手伝う。

「儂もまだまだいけるのう」

 心臓も動いている様子で何よりだ。

 自分自身の腕にほれぼれする。


 ちょっと話して見たが、記憶も何も分からないらしかった。

「名前もわからん?」

 名無しの権兵衛じゃお約束過ぎるのう?

 まあ、土左衛門よりはマシじゃと思うが、ネーミングセンスが無い。

「つけて良いんか?」

「じゃあ、うーんと、琥珀で良いな?」

「この辺で流れ着く浮かんでる価値のあるモノってそれぐらいじゃし!」


「いつまで裸で居るんだって?」

「何じゃ、恥ずかしいんか?」

 指摘されて少しテレを思い出して赤く成って見る。

 ドザエモン改め、名無しの権兵衛改めての琥珀も赤くなって視線を右往左往させていた。

 ウブい反応にちょっと楽しくなる。

「どうせだからご感想は?」

 開き直って仁王立ちしてみた。

「眼福でした」

 予想外の褒め言葉だった。

「そりゃあ何よりじゃな?」

 得意になって大笑いした。


 んでもって、人里は遠く、救急車が迎えに来たのは、大分後だった。


 なお、琥珀は海水を飲んでいたせいもあって、体調を崩し、暫く入院する羽目になった。

 拾ったのは儂じゃしと言う事で、そこそこ世話を焼いて居たら懐かれたので、そのまま籍入れした次第だ。

 当時は男が減り気味では有ったが、そこまで珍しい訳では無かったので、琥珀は良い男だが、そこまで競争率は高くなかった。


 ソレが、その後も長い付き合いになる、琥珀との出会いと馴れ初めだった。



 追申

 思った以上に翡翠とミサゴ、まんまだったと言う琥珀とヤタちゃんでした。

 出だしの話の対に成るんで、最終回に使えた気もしますが、書けたのでやっちゃえと言う事で。


 追申

「貞操逆転世界の温泉で、三助やることに成りました」

https://www.alphapolis.co.jp/novel/979548274/358865286

 アルファポリスでファンタジーカップ開催されてます、コレも参加してますので、良かったら投票にご協力お願いします。


 トキ祖母ちゃんのイメージを近況に追加、眼鏡かけてたよなあって事で。

 良かったら感想とか応援とか評価の★3とか文字付のレビューとかも、ご協力お願いします。

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