第12話 ロリババア
「よっこいしょっと」
ぐったりと気絶しているミサゴをお姫様抱っこで持ち上げた。
「やらんのか?」
持ち上げたところで不意に後ろから声がかけられてびくりとするが、必死の自制心で持ちこたえつつ、声のほうを振り向いた。
遠目に見た感じ、小さい女の子だった、声と口調は不思議と老成を感じるがそういうキャラ付けなのだろう。
「気絶してるんだからヤルもんじゃないでしょう?」
睡姦とか趣味じゃない。色々もうちょっと風情とかお互いの意思とか大事にしておきたい。
「まあ、それはそうじゃな?」
特に気にする様子もなく言葉が返ってきた。
「そもそも、居ないにしても大浴場でやるわけにはいかないと思うのです」
誰に見られるか分かったものじゃない。
「儂に見られてたしな?」
楽しそうに声が弾んでいた。
「その通りですけど、何処居たんです?」
「誰もいないから潜って泳いでおったんじゃ」
指が下を向いている、潜ってやり過ごしていたらしい、しれっとマナー違反宣言だった。
「まあ、程々に?」
迷惑かける相手もいないし、誰もいないのなら多少はアレである。
混浴で潜ってやり過ごして後から出てくるワニ行為は褒められたモノではないが、ソレ目的と言われなければ咎めるモノではない。
この場合の被害者に当たるのは俺な訳だが、別に恥ずかしくも何ともないので警察やら何やらに訴える必要性も無い。
「ちなみに、湯船で出して溶き卵にするの以外はギリセーフじゃぞ?」
あけすけな言葉に苦笑しか出て来ないと言うか、妙に生々しい。
「ギリなんですか……」
大体OKと言ってるようなもんだった。
「と言うか、未だお主温泉につかってないじゃろ? 其奴はそこの戸の横にあるベンチに寝かせておけば直ぐ回収されるからこっち来んか?」
「?」
そんな事を言われつつ、戸を開けると、掃除をしていたらしい従業員の人がこちらを向いた。
「お嬢のぼせました? まったくくそ雑魚なんだから……、ちゃんと運んでおきますので、そこに寝かしておいてください」
「じゃあ、お願いします」
ちらちらと目線が股間に集中して居る事は感じるが、先ほど言われた通りのことに成った事に驚きつつ、そのまま丁寧にミサゴをベンチに寝かせる。
直ぐ手元にあった裸の女体が手から離れる事に寂しさを感じるが、まあ今回はこんなものだろう。
バスタオルをかけ、じゃあまた後でと、おでこの辺りを軽くなでて、顔にかかる髪をよけた。
「いった通りじゃろ?」
浴場に戻ると、どや顔の可愛らしい少女が居た。こっち来いと手招きされていたので、そのまま浴槽につかり近くに座るように肩まで沈む。
温泉の熱が冷えていた指先や足先を温めていく、どうやら思ったより冷えていたらしい、痛い位に熱く感じる。
薄く濁った温泉の下、お互い色々見えているが、今更である、お互い恥ずかしがらなければ何の問題も無い。
「ええ、なんでわかったんです?」
「こっちから人影は見えたからのう、何時もの清掃スケジュール的にも誰か居るのは分かっとった」
どうやら関係者らしい。
確かにこの位置からはすりガラスの向こうで動く人影が見えた、ミサゴを運んでいるらしい。
「おみそれしました」
一先ず感心したので素直にほめておいた。得意気にのけぞる少女、その動きで少し濁っていた水面の下に有った平たい胸元の先っちょが湯面から上がって綺麗に見えた、素直に見せてもらう。
目線が合うと、ニヤリと笑われた。
「儂は海野ヤタ、お主は?」
「記憶が無いんですけど、海野翡翠(ひすい)って呼ばれてます」
「名付けはミサゴか?」
「はい」
どうやら全部知っている様子だ。
「悪くない名前じゃな?」
「ありがとうございます?」
仮の名前だが、名前を褒められるのは悪い気はしない、名付けから未だ数時間程度の話なのだが、思ったより馴染んでいるらしい。
「同じ苗字ってことは?」
「身内じゃ、因みに妹じゃないぞ?」
詳しい家族構成は謎なままだ。
「行く当ては無いんじゃろう?」
「はい、何が何やらです……」
地名から何から正直全然わからないと言うか、違和感しか感じない、年代もかなり違う気がする。
「戸惑うのは無理もないじゃろうから、気にせんでいいぞ?」
何故か訳知り顔だったが、気のせいだろう。
「お主は良い男じゃから、何時までも居てくれても構わんぞ?」
既に気に入れられていたらしい、身内にセクハラした男な訳だが、それを間近で見ていて気に入ったと言う辺り、中々ぶっ飛んでいる価値観だ。
「さっきのアレは?」
恐る恐る、言外に聞いてみる。
「むしろもっとやれ位の話じゃな?」
カラカラと笑われた、セーフどころか、ストライクらしかった。
追伸
ヤタ、八咫烏のヤタ、所謂ロリババア枠です、妖怪扱いは伊達じゃない。
良かったら感想とか応援とか評価の★3とか、お願いします。
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