貞操逆転世界の温泉で、三助やることに成りました

峯松めだか(旧かぐつち)

第1話 少女の朝

「えーっと、これは……?」


 朝焼けの中、海岸線の砂利交じりの砂浜で、握りこぶし大の石を一つ拾い上げ、しげしげと観察する。


 乳白色と言うか、うっすらと半透明、角ばっていて……


「石英、はずれ」


 小さく呟いてポイっと放り投げる、狙いの石としては透明度が高すぎる、結晶の劈開面へきかいめんも違う、狙いの石にはそもそも劈開面は無い。私を含めて、この辺りをウロウロしている面々の狙いは翡翠ひすいだ、他の土地では特大石英の時点で結構珍しいらしいが、流通価格で高値を狙えるのは翡翠だけだ。


 石英も純度が高ければ水晶として流通できるが、この辺で採れる石英原石は真っ白なので価値無しだ。


「ん?」


 緑がかった石を一つ拾う、興味もなさげに観察する……


 丸っこくて、緑に黒のゴマ模様と……


「蛇紋岩」


 ぽいっと放り投げる、橄欖石かんらんせきの透明度が無い物だ。宝石系の母石として地表にコレがあれば、宝石が一緒に上がってきている証拠として、新規で産地を探したい地質学者には喜ばれるが、この辺に宝石が出る地層が在るのは昔から知られて居る事の為、今更だ。


 そもそも母石ではなく、砕けてしまっている小石状態でこの辺に転がっているので、今更これを見てロマンにかられる人間は余り居ない。


 同じように緑っぽい石を拾い上げる。


「きつねっと」


 ぽいっと捨てる、翡翠の偽物としてよくひかっかる石だ、水化粧状態だと奇麗に見えてしまうので、だまされる人間が続出している。


 狙いの翡翠は緑がかった乳白色か、紫がかった乳白色や、ただの乳白色で、光に透かすとうっすら光を通す、緑が濃いのは極上枠だが、観光客や地元のストーンハンターが真っ先に狙う為、ほぼ残っていない、だから白が強い物がねらい目と成る、そして白ばっかり狙うと石英と白長石に引っかかる羽目になる、どっちみち時間と根気と知識は必要だが、地元民には元手のかからない仕事と言うか趣味の為、この辺の水辺は暇人達のたまり場と成って居る。


 この一連の動きは暇な地元民にはお約束で、子供でも知っているご当地の地学系雑学である、私だけがこんなに詳しいわけじゃない。






「うーん、いまいち……」


 そこそこ大きめの小石が転がる海岸線をそんな感じのストップ&ゴーで止まっている時間の方が多いような散歩ダッシュで流しつつ呟く、台風や嵐で川が増水した次の大潮の日なんか、つまり今日はねらい目と思ったのだが、どうやら当てが外れたらしい。


「あっちまで足を延ばすかな?」


 今は街道として機能していない、海岸線の難所を目指すことにした。


 古くは街道筋であったのに海岸線はほぼ岩場で構成され、引き潮の時にしか足場が出来ず、海流が激しすぎて地元民もあまり推奨される採取スポットでは無いというか、そもそもまともに人が近づかない。


 それでもこの辺では数少ない街道だったため、古くはかなりの人数が海の藻屑と成っていたらしい、正式な地名としても親不知子不知おやしらずこしらず街道、むしろ海道、口の悪い者は黄泉平坂みたいなもんとか言われる辺りだ。


 余りにも評判が悪いので、拾えればデカい穴場である、総延長15キロほど、丁度今が引き潮のタイミングなので、駆け抜ければ行けそうだ。


「よしっと」


 軽く気合を入れて歩を進めた。




 そんな軽い気持ちの散歩だったのだが、とんでもない拾い物をすることになるなんて事は、この時点では本当に想像もしていなかった。




 追伸


 書き出しは新潟旅行楽しかったネタで書いてみました、作者という生き物的に、元ネタとして消化すれば色々セーフなのです。


 最近の地域ルールとして、握りこぶしよりデカい原石を採取すると密採取として逮捕されるとかなんとか、作中の元ネタ、親不知子不知地帯は危険な上、明らかにそれよりデカいのがごろごろしてます、犯罪を推奨してるわけではないので、ご注意を。

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