第2話

 僕は誰とも関わらない。そう、極力。だから此処にいる。そのために選んだ。それなのに——。

「あなた、名前は?」

 めんどくさいことになりそうだ。誰とも関わらないつもりで此処にいるのに、関わってくる奴がいるなんて。

「答える義務はない」

「つめたー!」

 どうでもいい。関わんないでほしい。うるさい。

「言いふらしたきゃそうしな。好きにすればいい」

「もしかしてメンタル鬼つよ?」

「さぁ、どうだかな」

 此奴は僕より後に来たから、いつから僕がいるかなんて知らない。ただ、此処に来た以上、何かは抱えていそうだ。中学生の時点で通信を選ばなかったわけだから。

「そろそろ帰らせてくれないかな」

 授業と授業の間じゃないんだからあんまり干渉しないでほしい。間の休みでも嫌だけど、授業が始まるから強制的に話切れる。それにここ、気づいたら駅だし。

「同じ方向なんだから一緒に乗ろうよ」

 終着・始発駅であるここで違う方向なんてあるか。はぁ…ウザい。

「うちは桜小路みふゆ。あなたは?」

「だから名乗る気なんてない」

 撒けるはずもなく、同じ車両に乗ってみふゆと名乗った此奴は延々と話している。電車が動いてもなお。僕には聞こえていない。地下鉄の中で会話が成立するなんてあり得ないんだよ。前の学校の子とも車内で話す流れになったことあるけど、〈普通〉の人は地下鉄の中で会話が成立すると思ってるの?てか成立するの?僕には聞こえないんだけど。話してるのはわかるけど、途切れ途切れにしか聞こえない。早く降りてくれないかな。それか僕の最寄り早く来て。結果を述べると、僕が先に降りることになった。何かと災難だったような気もする。前なら『僕を不快にさせる奴全員死ねばいいのに〜』って思ってたから成長したな、たぶん。あ〜…死ななくていいから僕の前に現れないか、関わんないで欲しいわ。

 改札を出て家に向かう。十一月のくせに十九度とか上がってくれるじゃん。来週は氷点下らしいけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る