第10話 小さな王女
(あの人達が…?)
「ん…誰か覗いてるよ?」
「ひいっ!?」
誰かの視線を感じたミミが扉の奥の方に目を向けると、それに気づいた女の子がびっくりしてサッと逃げてしまった。
「あ、あの子は私の娘のクララです。少し恥ずかしがり屋でして…」
「娘?」
実は先ほどの女の子は、女王レラの娘である王女のクララ・アンジェラス。金髪碧眼の可憐な少女でいつも天使の羽の髪飾りをつけている。
母親と同じく優しい性格をしているが、少々恥ずかしがり屋さんなのである。
「すみませんね、そのままお食事をお楽しみください」
___
その後、晩餐会を終えた団員達は、エンゼル・エンパイアの事前に予約をしていた民家へ泊まる。しかしカヨの姿が見えないことに気がつく夜桜。
「あれ、カヨ見てないかしら?さっきまでいたはずなんだけど」
「また外を出て色々見てるんだろ、夜桜…ちょっと見に行ってくれないか?」
「わかりました」
ジョージィは夜桜にカヨの様子を見に行ってほしいと頼んだ。彼女は民家から出てカヨを探しに行くことに。
「全くあの子はどこ行っちゃったのよ…もしかして……」
心当たりがある夜桜は王宮内の窓の中をこっそり覗いてみると___
「女王にお願いしてもう少しだけここにいてもいいよう許可をもらったが、あの女王の娘の部屋はどこだろう…?話を色々聞きたいんだよな……」
もう夜なので、静かに王宮内を歩くカヨ。すると灯がついている部屋があった。よく見るとレラの娘であるクララが油絵の具で絵を描いていた。
「よし、できました…!仕上げに……」
「っ!…な、中々上手いな」
「きゃあっ!?あなた…どこから入ってきたんですか!?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれないか!?別に私は何も……」
いきなり現れたカヨにクララは思わず大きな声を出してしまう。カヨは彼女を落ち着かせるため、事情を説明する。
「すまなかった。その…女王に娘がいるというのは前から知っていたのだが、直接会うのは初めてだったから色々話したいと思って…」
「私は今まで国民の皆さんの前に姿を見せたことが一度もなくて……何といいますか…怖くて」
王女であるにも関わらず、公の場に姿を見せたことが一度もないクララ。中々勇気が出ず、王宮内に閉じこもってばかりだった。
「勇気が出なくて、お母様や従者の皆さんにも何度も説得されたんですけど…」
「うーん…無理に出ようとしなくてもいいと思うけれど、それではダメなのか…?」
「…私は次期女王になるんです。だから、今のうちに慣れておきなさいとお母様に言われています」
クララは現女王であるレラのたった一人の娘であるので、彼女の跡を継ぐ次期女王になることは既に決まっていたのだ。
「そうなんだ…まあ、私も皇族だから…」
「あなたも私と一緒なんですね。そう言えば名前は…?」
「カヨでいいよ」
「わ、私はクララ…です。よろしくお願いします…!」
同じ王族同士ということで、二人はすぐに意気投合した。
「…でもカヨさんは違うところでご活動されているんですよね?跡継ぎはされなかったのですか?」
クララに自分の国にどうしていないのか尋ねられたカヨは少し黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「私の母国は………一度滅んだ」
「え………?
…あっ!?ごめんなさいっ!!何か辛いことを思い出してしまうことを言ってしまって…」
「…いや。そんなつもりで言っていないのはわかっているから…」
「ほ、本当ですか?今のは聞かなかったことにしてください」
クララはすぐに謝罪し、この質問は聞かなかったことにしてほしいと言った。彼女は次の話題に切り替えようとする。
「本当にごめんなさい…」
「そんなに謝らなくていい、気にしていないから。…まあ私は侍に憧れていたっていうのも理由の一つだ」
「お侍さん…ですか?カヨさんは何か好きなことがあって、それになりたかったと…」
「親の影響…かな。元将軍だったらしいから、何だかかっこいいなって」
「…そうなんですね!私も絵を描くことが好きで、よくお母様がたくさん絵の具をくれるんです…!」
「クララも好きなことあるんだな」
話題はお互いの好きなこと・憧れていることについての話になり、それを話している二人の表情は緊張感がほぐれ柔らかい表情へと少しずつ変わっていく。
「…好きなことは心の支えになる。それを忘れずに持っていればきっと大丈夫…私はそう思うよ」
「はい」
(なんだ…心開くと結構話してくれるみたいだな)
カヨは話すことによってクララの警戒心を解いていく。その途中でハッと気づき、民家に戻る約束をすっかり忘れてしまっていることを思い出す。
「しまった!早く戻らないとボスに怒られる…っ!」
「どうしました、カヨさん?」
「私…もう戻らなきゃ!話の続きはまた今度で…!今日はありがとう!」
「いえいえ、私の方こそたくさんお話が聞けて良かったです。おやすみなさい」
急いで戻ろうとするカヨ。カバンを持って部屋を出ようとすると渡り廊下で彼女を探しに王宮へ来た夜桜に遭遇する。
「…夜桜!?」
「あんた…ボスがカンカンよ!?早く戻りなさい!!」
夜桜に背中を叩かれ急いで戻る二人。彼女はレラに一礼し、民家に戻る。
「申し訳ありません女王様!大変失礼いたしましたーっ!!」
「あらあら、もう戻られるのですか?」
___
「カヨ…もう夜中だぞ?」
「すみませんボス……」
「そもそも何かあれば先に俺に伝えてからだ、わかったな?」
「はい…」
入口でずっと待っていたジョージィにこっぴどく怒られるカヨ。夜桜が経緯を説明する。
「あの王女のところへ行っていたらしいんです」
「…女王のか?」
「…そうです。色々話をしたくて…」
「そうか〜………じゃないだろ!!もう今日は早く寝ろ!」
ジョージィに突っ込まれたカヨはすぐに寝るように言われて寝室へと戻っていった。一方寝ずに話をこっそり聞いていたライは扉を開けてレラの娘であるクララについて興味を示し個室から出てきた。
「あの〜その話って何ですか?」
「ライ、起きてたのか。それは明日な……
ってお前ら皆部屋戻れ!!!」
(バレたか…)
部屋の隙間からその話を聞いていた団員達。皆今日見たクララのことについて色々気になっていたのだ。ジョージィは全員に早く部屋に戻れと叫んだ。
ようやく全員就寝して、彼らの長い一日が終わった。ライは寝る前に今日初めて訪れたエンゼル・エンパイアについて知ったことを紙に書き留めていた。
「これでいいかな…今日は色々なことを学んだし、こうしてたくさんの国を旅してひとつの物語にしてみようか…!」
彼はおとぎの星の様々な国の文化を学び、冒険を通じて一冊の本を作ることを目標とし自分自身の夢を叶えようと決意する。
「終わった終わった〜〜。じゃあ、俺もそろそろ寝ようかな」
ベッドに入ろうとした瞬間……
___
「動くな。もし叫んだら……
お前の喉をこいつで突き刺すぞ」
「なっ……!?」
突然背後から何者かがライの首元にナイフを当てて動くなと脅迫してきた。
ライはどう対処する………?
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