第9話 従者達のドタバタ晩餐会
その頃、エンゼル・エンパイア王宮内では御伽の夜光団の再始動を祝うための晩餐会の準備を三人の従者達が行っていた。すると…
バリィィィィィン!!!!!
台所から皿の割れる音が響いた。従者のひとりである天使ガブリエルが急いで確認をしに駆けつけると、目を回しあわあわとして倒れている妖精のユミリカの姿が。
「わ〜〜っ、すみません…またやっちゃった…」
彼女の名前はユミリカ・レイス。茶髪のシニヨンヘアで緑色の羽が生えている妖精の女の子だ。どうやら家事が苦手らしくいつも皿を割ってしまう。
「またですかユミリカ…本当にもう落ち着いてください…」
「だって今日は女王様が晩餐会を開くって聞いてたから、つい張り切って…」
「ほぼ毎日でしょう?」
「う…」
ガブリエルに叱られしゅんとして落ち込むユミリカ。その隣では眠そうに作業をしているもう一人の従者が。
「早く終わらせてさっさと寝たいわ」
「レーチェル、うとうとしながら掃除をしない!」
「もうガブリエルは…いつも以上にピリピリしすぎよ。時間までに終わらせられればいいんでしょ?平気よ」
「あなたの平気は信用できません」
淡いピンクの服を着て薔薇の飾りをつけたレーチェル・ロイローズ。常に眠たそうな瞳をしている天使であり、根暗な性格。
少し癖のある二人に厳しいツッコミを入れてているのは常識人で規則にうるさいガブリエル・スカイ。彼はレラの身の回りの世話を担当しており他の従者達の管理もしている仕事人。
彼らは今晩餐会の準備でバタバタしていた。あと少しで団員達が来る前に急いで仕事に取り組む。
そこに心配そうにレラが様子を見に来る。
「皆さん、どうですか?」
「あっ、女王様!?」
「貴方達だけでは大変でしょう?私もお手伝いしますよ」
「…申し訳ございません…!女王様に負担かけてしまうなんて、私とユミリカとレーチェルで十分でございます…っ!」
レラが従者達の仕事を手伝うと言うが、女王に負担をかけさせたくないガブリエルはそそくさにほうきを取り出して作業を再開する。
「ガブリエル…何でも自分達だけで解決しようとするのはあまり良くないですよ。私にもきっちり報告してくださいね」
「ありがとうございます、女王様。
…二人とも!女王様が手伝ってくださるのだから、気を抜かないように!」
レラと協力して晩餐会の準備を行う従者達。ガブリエルの声がけにユミリカとレーチェルも賛同する。
「女王様が手伝ってくださるなんて…あたしももうひといき頑張ります!」
「…言われなくてもわかってるわよ」
そして全員で準備に取り掛かるのだった。
___
迎えた晩餐会本番。王宮内では華やかな飾りが飾られており、国内でもお祝いムードになっていたのだ。それもそのはず、今日は偶然にもエンゼル・エンパイアの建国記念日である。
「見て、ドレス姿のアタシ素敵でしょ〜〜?」
団員達はレラから用意してもらった礼服を身にまとい、再び王宮内に入る。初めて高貴な服を着たライは、本当に別の国に来たという感覚を感じて高揚感に包まれる。
「こんなに高そうな服着たことない…!俺は本当に違う国に来たんだよね…?」
「ライお兄ちゃんって何でもリアクション大きい〜」
「だって初めてなことってテンション上がらない?」
「うーん………、
僕もそう思う!!」
「な!」
未知の世界に互いに目を合わせてわくわくしているライとロロ。そんな二人を見た夜桜は、呆れた目を向けながら周りの人達も盛り上がっていることに気づく。
「まったくもう…男ってなんでこうもどこでも元気なのかしらね…。ん、それにしても国の人達もものすごく盛り上がってるけど…何で?」
「ああ、今日はエンゼル・エンパイアの建国記念日らしいぞ。女王は多分そのことも考えてお呼びになられたのだろうな。…そろそろ時間だ。お前ら行くぞ!」
ジョージィが腕時計を見て、もうすぐ時間になると団員達を会場へ連れて行く。すると王宮内のダイニングルームへと行く途中でふよふよと浮かぶ七体の精霊と思われる生き物達が団員達をダイニングルームに案内する。
彼らはジョージィが以前ライに魔法の基本を教えている時に言っていた七つの属性をモチーフにしたような外見をしている。
精霊達に案内された先には、団員達のために準備して待っていたレラと従者達が立っている。
「お待ちしておりました、御伽の夜光団の皆様」
レラが頭を下げ、団員達を席へ誘導する。大きなダイニングルームを改造してより豪華な雰囲気に。
「ユミリカ、早速ですが御伽の夜光団の皆様にお茶を淹れてくださるかしら?」
「はい!」
ユミリカにお茶を淹れるように命じるレラ。彼女はゆっくりと下に降り、ティーポットとティーカップを持ってきて席に座っているカヨにお茶を淹れようとした時、緊張のあまり手が震えてお茶をこぼしかける……
「きゃっ!?」
「あ、危な…」
___
「気をつけなさいよね…」
レーチェルの出現させた細い茨がティーポットとティーカップをキャッチし、お茶をこぼさずに済んだ。
「今のは…?」
「私の魔法。植物を操ることが出来るの」
植物を操る魔法を使うことができるレーチェル。彼女の冷静な対応で事なきを得た。
「ま、まあ次行きましょう。料理人が作った本日のメインディッシュです。ローストチキン、ポテトとインゲンのソテーになります。私達もよく食べていますよ」
ほんのりバターの香りがして肉汁があふれ出すジューシーなローストチキンが食欲をそそる。そして塩をまぶしておりホクホクのポテトとインゲンのソテー。レラも普段夕食に召し上がっていると言う。
一口食べるとバターの香りとチキンのかみごたえのある食感でそれだけでも満足感を感じる。
「…おいしい!こんな柔らかい肉初めて食べたかも…!」
「お前…今までどんな人生送ってきたんだ…?」
何でも新しい体験をしたかのような反応をするライに思わずツッコむジョージィ。
「楽しんでいただけたでしょうか?これはまだ始まったばかりですよ。上をご覧ください。七つの属性の精霊達が皆様におもてなしをしたいらしいですわ」
レラが頭上に向かって指を指した方向を見ると、先ほどの精霊達が天井からきらきらしたフェアリーパウダーをふりかけそれぞれの属性を模した光のアートを生み出した。
「女王様!あたしもやっていいですか?」
「ええ、もちろん」
「…さあ、ご覧ください御伽の夜光団の皆さん!あたし達妖精は魔法を美しく見せることが得意なんです!」
ユミリカの掛け声で晩餐会はもっと華やかに。辺りは少し暗くなり七色のランタンの光が輝き出す。
「メインディッシュのあとは美味しいデザート!フェアリーパウダーのかかったフルーツのホールケーキと甘酸っぱいベリーチーズケーキ!香ばしいクッキーもどうぞ召し上がれ〜!!」
彼女の魔法でたくさんのスイーツがポンッと現れた。
色もくるくると変わりカラフルで幻想的な空間に包まれる。
「わぁ!!」
「もう一度見せて〜!」
団員達にアンコールをお願いされ虹色に光り輝く魔法を使うユミリカ達。レラも杖を持ち参加してフィナーレに突入した。
光は天使と妖精の形になって周りを走り回る。そしてそれは小さい花火になり儚く消えた。
「本日はどうもありがとうございました。こんな素敵な会は久々です。
ここにあの子もいれば……」
レラは団員達に晩餐会に参加してくれた感謝を伝え、そしてある人物にも来て欲しかったと語る。
奥の部屋の方からその光景を見ていた女の子が……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。