第7話 旅の準備
ライが御伽の夜光団に加入してから約五日後__
「ふんふんふふんふーん♪」
鼻歌を歌いながら洗濯物を干すカヨ。今日は虹のかかった空が心地いい。
「
カヨが考え事をしていると、後ろからワンと鳴く声が聞こえてくる。
振り向くとしっぽを振りながら彼女のもとへと近づいてくるエミルの姿が。
「あぁ、エミルか。おはよう」
ゆっくりとエミルに歩み寄るカヨ。彼は何かを言いたそうな顔をしていた。
「…ん、どうした?」
エミルはカヨの足元に寄ってきてその場を離れない。何やら一緒に旅に出たいようだった。
「大丈夫、一緒に行こう。…それにまだお前の帰る場所へ行くのは時間がかかる。なぜならこれから壮大な冒険になるかもしれない…!」
御伽の夜光団はこの先数年ぶりになるおとぎの星を旅する計画が立てられていた。それは彼ら至上最大級の冒険になる。
「正直私もそこまで様々な国を訪れるなんて初めてさ。…と言ってもこの組織へ入ってそれほど経っていないんだよ…」
カヨは小声でエミルに自分が御伽の夜光団に入って経由について語った。彼はそれをまるで本当に話を理解しているかのように軽く頷いていた。
彼女が魔法組織へ加入したのは今から三年前のこと___
それまでは出身地である日ノ和で唯一の女性剣士として活動を行っていた。皇女であることを隠して他の剣士達と行動を共にしていた。
唯一の女性剣士であった為に他の剣士達はあまりそのことを快く思っていなかった。彼女自身もそれに気づいており孤独な毎日を過ごしていた。
(私が女であることがそんなにおかしいの…?)
剣士達に冷やかされることもありながら、それでもめげずに頑張るカヨ。すると…
「あれ…今日も練習?君っていつもここでやってるよね…。きつくないワケ?」
「はぁ…またお前か。練習の邪魔だからあっち行って」
「違うって!名前聞きたかっただけ。そう言えば聞いてなかったな〜ってさ。
俺は
「…私は……私は……カヨ」
「よろしくね、カヨちゃん」
蓮と名乗る彼は、藤色の髪に茜色の瞳をした飄々としている美少年。
当初から何かとカヨに絡もうとしており、彼女からは鬱陶しがられていた。ここから二人は相方同士として一緒に行動する。
ある日、民家が火事になっているところを発見する。中にいた人達はなんとか外に出たが、男女二人が顔面蒼白でその場に立ち尽くしていた。
「何をやってるんだ!早く逃げろ!!」
付近の住民が大声で叫ぶ。しかし二人はその場を離れようとしなかった。
「…まだ、あの中に娘がいるんだ!」
「何だって!?」
「早く助けないと…!」
「ダメだ危険すぎる!!」
火の中へ入ろうとする子供の両親と思われる二人を必死に止めようとする住民。するとすぐそばにいたカヨが無言で火の中へ走り出す。
「!?」
「ちょっ、カヨちゃん!?まさか…」
「お嬢ちゃん危険だ!!」
カヨは暑い炎の中子供を探した。煙が充満している中で意識が朦朧としていく。
(暑い…息が苦しい……!)
炎の中に入ってから数十秒後、瓦礫の下に埋もれて倒れている子供の姿が。
(…いた!)
カヨはすぐに子供を抱きかかえ急いで外を出る。彼女達はやけどを負ったものの、意識はあった。
「あぁぁ…良かった…!」
「娘を助けてくれてありがとう…!」
「…い、いえ……」
この後二時間程で火は消えた。子供は一命を取り留め両親の元へ帰った。
一方カヨの火傷の処置をしていた蓮は、あまりに無茶なことをした彼女を叱りつけた。
「あのさぁ…ちょっとは自分の身分を考えた方が良いんじゃないの?」
「だって困っている人を放っておけないだろう!」
「突発的に突っ走るお馬鹿さんがどこにいるんだよ!!」
「蓮は…誰かを助けたりしないのか?」
「少なくとも君のようなことをする程頭は悪くないよ。
…全くこんなじゃじゃ馬姫初めて見た」
蓮は呆れながらも彼女に付き添うことに決めた。
___
しかしそれからしばらくして、蓮は突然日ノ和を離れることに。
「どうしたんだよ、急にここを出るって」
「ごめんねカヨちゃん。俺…やることが出来た」
「やること?」
蓮はなぜ日ノ和を出ることにしたか具体的な理由を明かさず荷物を持ち出る支度をする。
すると蓮はカヨの方を振り向き、いきなり優しく抱擁を交わす。
「え、蓮…急にどうした…」
「全部終わったら…また来るね」
そう言って、蓮はカヨの元を去った。
___
「…ということがあって、それから私は
…って寝てる!?」
話の続きをしようとしたら、エミルが横でぐっすり眠っていた。
「話が長すぎたか…まあいいや。そろそろ準備しないと、皆が待ってる…!」
カヨは急いでやることを済ませて階段を駆け足で降りる。下から夜桜が声を掛ける。
「カヨ、やっと来た!」
「寝坊してたの?」
「す、すまない…」
「全員集合したな!これから次行く国について話すから、よく聞いておけよ?
御伽の夜光団再始動したことだが、まずはそのことを女王に伝えなくてはいけない」
「…女王って誰のことですか?」
「ライはまだ会ったことないか。
エンゼル・エンパイアという天使の国の女王だ。こことも長い繋がりがある」
最初に行く場所は天使の国であるエンゼル・エンパイア。その国にいる女王に挨拶をするために訪れる予定だ。
「じゃああと数時間後に出発するからな、準備するように!」
「はい!」
数時間後にエンゼル・エンパイアへと向かう団員達。全員で準備をしている最中、ライの元へ暁が話しかけてきた。
「‥ライ、だったか?」
「!えっと…暁…先輩ですよね?どうも…」
「その呼び方、ちょっと恥ずかしいな。
それを言いに来たんじゃなくて、こうして話すのは初めてだったよな」
「はい…そうですね。どうしましたか?」
ライと暁が面と向かって話すのはこれが初めてだった。
「…お前に見て欲しいものがある」
「え、一体何を……」
そう告げると、暁はライの顔に左手をそっと当てた。すると周囲が白い光で包まれ、その先にぼんやりと誰かの影が見えてくる。
キーーーーーン!!
突然耳鳴りがして、頭を抱えるライ。そこに映されていたものは……
「こ、これは……何?誰の記憶だ…?」
___
塔の上で歌うカヨと思われる少女の姿。
杖を持つ翼の生えた女性の姿。
手を差し伸べる少年のような姿。
燃えているどこかの国の風景。
こちらを見つめる無数の人影。
___
「…っ!!」
目を覚ますと元の場所に戻っていた。あれは一体なんだったのか…。ライはよくわからずただぼーっと立っていた。
そしてようやくハッとしたライは暁に問いかける。
「暁先輩、さっきのは…?」
「見たのか。まあいずれ分かる…」
何だったか詳しく言わずにその場をあとにする暁。
「…何だろう?」
___
御伽の夜光団がエンゼル・エンパイアへと向かう三十分程前、飛行船を覗く眼帯をつけた少年が木の影から顔を出す。
「あれが…御伽の夜光団……!」
海賊だと思われる少年。その後ろには彼の仲間と思わしき姿が……一体何者なのだろうか。
「絶対に仕留めてやる」
果たして彼らは何が目的か。
そして天使の国エンゼル・エンパイアの全容とは…。
第一章に続く___
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