第5話 顧問士

 ライが御伽の夜光団に加入した翌日、エミルがベッドの上からジャンプして彼を起こす。


「…ん〜〜、起きてるよ〜」


 目覚めの朝は青空の上に雲が広がっていた。飛行船の中なので、揺れる部屋を移動しながら廊下側の窓をゆっくりと開ける。

気持ちいい風が吹いていて、辺りは空と雲しかない光景に感動したライは窓から顔を出す。


「うわ〜〜〜すごいや!辺り全部が空だよ!


ーーーーわっ!?」


「!アンタそんなに開けたら吹っ飛ぶわよ!?」


 強い風で飛ばされそうになったライを夜桜が引き上げる。


「あ、ありがとうございます…」

「全く…はしゃぎすぎってレベルじゃないわよ!早く準備しなさいよ?」


 夜桜に注意されそっと窓を閉める。団の食堂に連れて来られたライは、組織のメンバーと合流する。


「来たわね新人!遅くない?今日はパパが帰って来るのよ?」

「パパ…?」


 ローラはライに来るのが遅いといびりながら自分の父親が帰って来ることを伝える。


「おはよう、ちゃんと眠れた?」

「…おはよう、カヨ。え…ローラさんのお父さんってここに所属しているの?」


「そうよ!アタシのパパは御伽の夜光団の顧問士なんだから!」

「顧問士?」

「あぁ、私が説明する。顧問士というのは魔法組織に所属しメンバーをまとめる一流の魔法使い達なのだが一級魔法官とも言われている」


 ローラの父親は一級魔法官と言われる実力者であり、現在では御伽の夜光団をまとめる顧問士と呼ばれる役職に就いている。その彼が今日戻ってくる。


「ま、来るまでもう少しかかるから私達は朝食でも済ませましょうかね」


 夜桜は全員に今日の朝食のブレッドを待ってくる。カヨがファンタジア王国で購入してきた少し大きめのブレッドで王国では有名の花やいちごを使ったジャムと一緒に食べるのが主流。

ジャムの瓶を持ってきたミミはブレッドにたっぷりと塗り大きな口で頬張る。


「このジャム美味しいんだよね!中々売ってないって聞いてたから買えるなんてある意味奇跡みたいなもんだよ!」

「うん、確かに見た目も綺麗だし味もしっかりしていて美味しいかも!!」


 団員達は次の目的地に到着するまでの間ゆっくりと朝食を済ませ顧問士が戻る前に準備をする。



___



 起きてから約三時間後、飛行船が着陸出来る場所にまで到達。どこの場所かわからないが、入り口の扉を開けて彼を待つ。


 そして数十分後、茶色の帽子を被った西部風のような男性がこちらに向かって歩いてくる。


「夜桜さん、もしかしてあの人が……」

「ええ、あの人が私達の組織の顧問士よ」


 男性の姿がはっきりと見えた時、ローラが急いで彼の元へ駆け寄る。


「パパ!!」


「ようお前ら、だいぶ留守にしちまったな」

「ボス、おかえりなさい!!」


 彼をボスと呼び、迎え入れる御伽の夜光団の団員達。すぐに飛行船の中へ入り、大広場へ集合する。顧問士の男性は依頼でこの組織へと加入したライを探す。


「なぁ、話で聞いた坊主はどいつだ?」

「あ、はじめまして。俺はライっていいます」

「…ほぉ、お前があの破皇邪族の末裔って奴か。俺の部屋へ来い…色々話がある」

「…はい」


 顧問士の男性に自分の部屋へ移動するように指示され、ライは彼の後をついて行く。強面で煙草を吸い出す彼にビクビクしながら話を聞く。


「まずは自己紹介しよう。俺はジョージィ・フォスター。ここの組織のまとめ役…って感じだな」


 彼の名前はジョージィ。ローラの父親であり御伽の夜光団の顧問士。一級魔法官の称号を持っているベテランだ。

いつも煙草を口に咥えていて、腰元には銃を差し込んでいる。


「ライって言ってたか?色々と聞きたいことが山ほどあるんだが…どうしてここに入ることを受け入れたんだ?」


 ジョージィはライにまずどうして御伽の夜光団に加入したことを引き受けた理由について尋ねた。

 ライは少し悩んだが、自分自身の叶えたいことについて勇気を出して彼に話す。


「俺は……冒険に出ることをずっと夢見ていたんです。そのために外の世界へと出て色々見てみようと思っていたら偶然カヨに会いました。最初は抵抗もあったんですけど、ちょっとずつ話し合って……俺に世界を見せてほしいことを条件にここへ入りました…!」


「なるほどな…そこまでしてでも旅をしてみたいってことか?」

「はい」


 ライの話を聞いて何も答えずに無言で頷くジョージィ。そして彼は次の質問をする。


「まあいい、次だ次。お前は破皇邪族だったよな?それなのにどうしてこんな日中でも普通に動けるんだ?」

「…!!」


 ジョージィは日光に弱い特徴がある破皇邪族であるライに何故日が当たっている昼でも行動出来るのか尋ねた。

不自然な点に気づくであろう内容に扉の外から二人の会話を聴くカヨ。

その答えは……


「……それは………


をしたんです」

「契約…?」


 契約で日中でも行動することが出来たと言うライ。その経歴を語る…


「俺は小さい頃に故郷である洛皇にある幻の洞窟に足を踏み入れました。そこは魔法の地図がなければ行くことの出来ない特殊な場所でした…。とても美しいところでそれを見たことが冒険に出ようと思ったきっかけでした。滅多に行くことが…そもそも発見が難しいところへたどり着いた俺は不思議な声を聞いたんです。願いを聞き入れ、それを叶えよう。ただしそれにはひとつ何かを差し出せ…って。まだ幼かった俺は悩んだ末にこのようなことをお願いしたんです。



……破皇邪族としての力を失ってもいいから、青空を見たい。この種族が日に弱いのは知っています。でもそれだと外の世界を知ることは限りなく難しいと思ったんです。

だから、耐性が低いという特性を無くすことが出来ればもっと色々な世界を一日中見ることが可能である。でも、それでも夢を叶えたいんです!」

「なっ……あの力を差し出しただと……!?じゃあ今は……」

「破皇邪族としての力は何ひとつありません…」


 何とライは最強とも言われる破皇邪族としての力を失う代わりに弱点でもなる日光を浴びても大丈夫な体を手に入れたのだ。

その事実に思わず席を立つジョージィ。会話内容を聞いていたカヨも驚きの表情を隠せない。


「…なぁライ。それはこれからのことにおいて大変な道になるかも知れないんだぞ?」

「……」

「ということは、お前は戦闘や魔法のことについては何も知らないってことか?」

「…はい。経験もありませんし知識も何も……」


 ジョージィは近年再び魔法使いや魔法組織が動き出した事実を知っている為今のライは不利であると考えた。それだけではなく彼は経験も知識も何もない状態だ。


「…悪いな、こんなこと言いたくはないんだが、それではこの先厳しいかもしれんぞ。まず言えることは、今この時代は魔法が使える者が主流だ。強大な戦力までもが動き出している…世界を知りたいの言うのであれば、旅をすると同時に戦闘能力も鍛える必要がある」


 近年の魔法勢力の拡大により、それが上手く使えないとこの先はかなり厳しいと警告された。

力を失ったはライは今すぐにでも力をつけておかなければならない。


「じゃあ俺は…どうすれば?」

「はぁ…そこまで考えてなかったのか……。それ以前に基本も知らないんだろ?まずはそこからだな」


 後先考えずに契約を結んでしまったライに煙を吸ってはぁーーっとため息をつくジョージィ。

ライ自身も慌てた様子でようやく自分が取り残されていることに気づく。


「…ったくそういうことも想定してないとは…それじゃあまずやる事は、ここの連中に魔法について基礎を学ぶことだな。手加減はするつもりないからな!」

「…わかりました!」


 ライは国を旅する前に御伽の夜光団全員で魔法の基礎知識を学ぶことになった。

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