第3話 御伽の夜光団

「えっと…あれに乗って過ごしている…ってこと?」

「まあそんな感じかな。私達はあの飛行船に乗って色々な世界を行き来している」


 カヨが所属している魔法組織は普段は巨大な飛行船に乗って様々な国を移動しているのだ。拠点地があるわけではなく、その日その日で違うところを自由に行き来している。


「〜っ……」


 急に顔を下げたライの顔を覗き込むカヨ。


「…どうした、ライ?」

「ねぇ…中入って色々見てもいい?」

「え…別に構わないが…」


 今からこの飛行船に乗ることができると思い今すぐにでもその全容を見たくてライはウズウズしていた。少し戸惑いながらも彼の答えにカヨは頷く。



「…そうだ。私の組織に入るのであれば、仲間達に挨拶しなくてはな」

「!他にも人がいるの?」

「そりゃあ一人であれには乗らないだろう。じゃあ話も済んだし、中へ入ろう。それとももう少しファンタジア王国を見ていたい?」

「あ…」

行けるさ、その内に…」

「え?それってどういう…」

「それについては近いうちに話す」



 ファンタジア王国を後にし、二人は飛行船へと……



 カヨは飛行船の扉のロックを解除し彼を中に入れる。

そこでライが目にしたものは、飛行船の中とは思えない程ひとつの建物の一室が並んでおり、生活感あふれるところであった。落ち着いた茶色を基調とした酒場のような雰囲気のある場所だった。



「さあ、まず来たからには彼らに会わないとな。皆はこっちにいる。

連れて来たぞ。新しいメンバーが!」


 カヨに案内された場所へ向かうと、本や装飾品、たくさんの武器などが置かれた大きな広場に数人の人物の姿が見える。


「あら、カヨ遅かったわね。ところで約束の花束は持ってきてくれた?部屋に飾りたいって思ってたのよね〜!」

「もちろんある、これのことだろ?あ、隣にいる者を紹介しよう。彼はライ。依頼で引き取ってほしいって言われていた者だ」

「…はじめまして、ライといいます。今日からお世話になります!」

「ん〜〜?」


 初めて出会う人達に若干緊張気味になってしまうライ。カヨに声を掛けてきた少女が彼にゆっくりと近づき、様子を伺う。


「あぁ、彼女は夜桜よざくら。ここの魔法組織の二代目団長だ。私の古い友人でもある」

「アンタが新人?私は夜桜っていうの、よろしくね」

「はい、よろしくお願いします…!」


 夜桜はカヨの幼馴染でこの魔法組織の二代目団長でもある。お団子頭のバイオレット色の髪色、赤と黒の和服姿で全体的に露出度が高い艶っぽい印象の美少女。メンバー全員をまとめているのは彼女である。


「ま、何か分からないことがあれば私に聞いてね」

「ありがとうございます!」

「じゃあ次だ、あそこにいるポニーテールの…」


「アタシのこと!?そこは超かわいい女の子って言ってほしいわぁ〜〜」

「…そうだな。彼女はローラだ。…えぇ、とにかく自己主張が激しい感じだから、そんな感じだな」

「新しいヤツが来るなんて久しぶりじゃない?そこの新人!!アタシはローラ・フォスター!超可愛くて強いから!ね!」


 やたらと自己主張が強い少女の名前はローラ。オレンジ寄りの茶髪をポニーテールで結んでいる。黄色い派手な衣装で頭の大きなリボンが特徴である。ナルシストで自分のことが大好きでその主張の強さにカヨもライも少し引き気味になっている。


 そんな様子を興味深く見ている二人の幼い子供がいた。


「ねぇねぇ、あの人が今日からここに入るんだってさ。僕達も先輩になるのかな〜?」

「ホントに!?ウチらの方が年下なんだけどね〜」


 二人の子供はライに興味津々であり、彼の方へスタスタと歩いて行く。


「この二人はミミとロロ、双子だ。幼いけど実はマジシャンでもあるんだ」

「えっ、こんな小さい子もいるんだ…!?」


 二人はミシェル・ブレンディとロシェル・ブレンディ。ミミとロロの愛称で呼ばれている双子のマジシャン。紫みのあるピンク髪が特徴でまるでおもちゃのような色合いの衣装を着ている。ロロが兄で、ミミが妹。


「んじゃ一緒に遊ぼうよ!」

「ダメよ、まだライには色々やることがあるんだから!」

「え〜〜」


 ロロはライを遊びに誘うとするが、入ってきたばかりなのでやるべきことがたくさんあるからダメと夜桜に注意されふてくされるロロ。


「…まあ次行こうか。奥の方にいるのがあかつき。大人しいが良い奴だ」


 両目が隠れている青年の名前は暁。彼は遠くの方から無言でそっと手を挙げる。ライもそっと会釈する。

彼らがカヨの所属している魔法組織のメンバーである。


「以上になるな、どうだった?」

「…うん、俺も色々頑張るよ!」

(すごい個性的な人達だなぁ…)


 癖の強い人物が多くまだ緊張がほぐれないライ。そんな彼をエミルがカバンの中からひょっこり顔を出して彼の顔をすりすりする。


「よし、今日はお前の部屋まで案内するから一緒に来てほしい」

「俺の部屋?」

「一人一人個室になっていて、そこで普段は過ごしているんだ。新しい環境で色々疲れただろう、だから今日はもう休んだ方がいい。明日は私達の顧問士がいるからその人に会いに行く」

「今日はいないの?」

「そうだな。別の国に行っていて、明日帰ってくる予定らしい」


 二人が別の部屋に行く前に、夜桜達メンバーがライの元へ走ってきて夜桜が大きな声で言う。


「待ってアンタ、ライって言うんだっけ?寝る前に一言言わせてほしいの!








……ようこそ、御伽おとぎ夜光団やこうだんへ!!!」


 夜桜はライに歓迎の一言をかけた。久しぶりの新しいメンバーに皆賛同してくれていたのだ。優しく歓迎してくれたメンバー達に、ライはようやく緊張がほぐれ笑顔になっていた。



___



「皆個性的な感じではあるが基本は良い奴なんだ。少しずつ仲を深めて行こう」

「ちょっと気まずい雰囲気だったらどうしようかと思っていたけど、とりあえず良かったよ…破皇邪族はあまりそういうの歓迎されないからね……」

「…そうなのか?」


 ライは戦闘種族であるが故に誰かと一緒になり共に行動できるかどうか不安であった。それが理由でずっと緊張していたのだ。

そう話しているうちに、彼の部屋になる場所へと辿り着く。


「ここがお前の部屋だ。好きに使ってもらって良い……この扉の窓の空はとても綺麗なんだ。」

「確かに綺麗だね。夢みたいだ、これから自分の願いが叶うなんて…ずっと」

「本当にどこも行ったことがないのか?」

「まあね、あの暗いところで一体どれだけの時間を過ごしていたんだろう…それが退屈で仕方がなかったよ」


 まさか本当に色々な世界を渡ることが出来るなんて未だに信じられなくて夢のようであると語るライ。彼は長い間、閉鎖的なところで数年もずっと暮らしていたためこのような開放感のある感覚は初めてであった。その話を聞いたカヨは、かつての自分と似た境遇の彼の話を真剣に聞いていた。


「そんなものだよな、私もこの歳だから色々なものに興味を持っては突っ走っていたことが多かったような…」

「へぇ、カヨもそんな感じなんだね?」

「静かな奴だと思っていたら大間違いだぞ?私は侍になりたくて刀を持ったんだから…!」

「何でもやりたくなる気持ち、分かるよ。同じことばかりじゃつまらないもんね」

「…うん、じゃあ私はここで。また明日」


 二人はたっぷり話をした後、カヨは自分の部屋へと戻って行った。そしてライはエミルと共に部屋でのんびりしていた。



「エミル、安心したよ。最初どうなるかと思っていたけど、しばらくはここにいてもいいかも」

「ワンっ!!」

「カヨも初めはちょっと怖いなと思ってたんだけど、いっぱい教えてくれてとても優しい女の子だった。これから何があるか分からないけど、それも冒険の面白さってものだよね!!」



 そうして安心したのか、すぐに眠りについた……



 魔法組織【御伽の夜光団】の新しいメンバーとして加入したライ。これから彼と仲間との冒険が始まる___

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