第2話 出会い

 街から脱出したライは、エミルと共に森の中をひたすら掛けていく。彼らに見つからないように出来るだけ遠くへ…

 そして森の中を進んで行った先に、光が差し込んで来てその方向へと向かって行くと、とても広くて美しい花畑が見える。ここは自分が住んでいた場所とは全く別次元に見えた。


「綺麗だ…本当にこんなところが存在しているのか…?」


 あれからどれだけ歩いて行ったかわからない。少なくとも一日は経過していると思う。ライは時間を忘れてずっと歩き続けていたのだ…何も知らないところへと。

 彼が冒険を始めてから最初に着いた場所は、まるで絵に描いたような色鮮やかで美しい国であった。その景色を見たライは言葉が出ずただ無言で見渡した後、目を輝かせて嬉しそうな顔を浮かべた。


「やった…やったよ!俺はこの景色を実際に目にすることが出来た……だって絵本でしか見たことない場所だよ?それが今目の前に……」


 興奮した様子のライ。初めて見る世界に圧巻された彼は、じっくりと花畑の街を散策することにした。


「えっと確かここは……この世界で最も美しい国と言われていた…ファンタジア王国のフィオーレガーデンだったかな?前に本で読んだ気がする」


 ライは冒険に出る前からずっとおとぎの星の本を読んでいたため、この場所がどこなのかすぐにわかった。



 国の名前は【ファンタジア王国】

おとぎの星の中で最も美しい国と呼ばれている。まさに童話のような場所であり、美術大学も存在している。


 そして今彼がいる場所は、第二の都市とも言われる [フィオーレガーデン]

四季ごとに違う花が咲く花畑。辺りは花で囲まれておりその種類は二百を超えると言われ癒しの場となっている。花屋や花の香りのする香水の店がある。


「せっかく来たんだし、ちょっとお店でも見てみたいな。それでもいい、エミル?」


 そう言うとライはフィオーレガーデンの中にある花屋へと向かった。規模が大きく一日で回りきることが出来ない程。

 淡いピンクと草の緑色の優しい色合いの花屋だった。店全体が木材で出来ており、植物と融合した自然が溢れるところだ。

店に飾られている花を歩きながら見ていると、女の子の鼻歌が聞こえてくる。その歌声が聴こえる方向を覗いてみると、長い黒髪の美少女が鼻歌を歌いながら花を選んでいるのが見えた。ライは彼女に声を掛けてみることに。


「あ、あの…君ってここに住んでいる人?」

「いや…」

「そうなんだ。……綺麗な歌声だね!」


 少女は静かに頷き花束を買って店を出た。


「あの女の子が気になるんですか?かわいい子ですよね」


 花屋の店員がライに微笑みながらそっと声を掛ける。


「…あっ、俺も買っていいですか?青が大好きで…記念に!」

「はい、お買い上げありがとうございます!」

「さ、行こうか!」


 花屋を出た後、ライは今日泊まる場所を探すことに。少ししかお金がなかったので、花畑を見渡せて安く泊まれる小さな小屋に一泊することにした。

 そして夜になり、ライとエミルは明日の計画を立てる。


「もうこんな時間か、早いな〜〜。明日は何しようか?俺はもう少しここを見て行きたいなと思ってるんだけど、どうする?」


 ようやく見つけることの出来た街だったためもう一日フィオーレガーデンを散歩したいと語るライ。エミルも飛び跳ねながら彼の意見に賛成した。こうして彼の最初の旅は良い一日で終わる……



「エミル…おやすみ。





ん?何か物音がするな…」


 寝る直前に誰かの足音のような音に気づいたライ。扉の方を見てみると……





「わぁぁぁぁっ!?!?!?」


 なんとそこには、先程花屋で会った黒髪の少女が扉の前に立っていたのだ。


「き、君は!?…え、どうやってここへ?」

「あの後からずっと尾行していた」

「えっ?」


 少女は花畑の影からずっとライの後を追っていた。急に現れた彼女に驚き思わず声を上げてベッドから飛び出るライ。


「青い髪に白い肌…お前はあの戦闘種族【破皇邪族はこうじゃぞく】の者か?」


 少女はライに問いかける。破皇邪族とは色白でとてつもない身体能力と戦闘の技術を持ち合わせる戦闘種族のこと。ライが住んでいた街の住民達から逃げることが出来たのは、その身体能力の高さからだった。


「君は誰なんだ?俺のことを知っているの?」

「私の名はカヨ。お前を連れていくためにここへ来た」

「…へ?」


 黒髪の少女、カヨはライを連れて行く為に彼の行動をずっと監視していたのだ。彼女は服装を変えて街へ忍び込み、彼があの街から出て行くのを待っていたと言う。


「いつから俺のことを見張っていたんだ?」

「数ヶ月前からかな。からお前を引き取るようにと…心配するな。別にお前を傷つけるようなことはしない」

「待ってくれないか、話が全くわからないんだけど…」


 状況が分からず困惑した表情のライ。知らない間に自分の後をつけられていることを知りカヨを警戒する。

カヨは薄い茶色のブラウスから赤い和服姿に変わり、手には刀を持っている。


(か、刀…!?)

「今から私が所属している組織へと入ってもらう。そして…」

「いや…断るよ。誰だか知らないけど、俺にはやりたいことがあるんだ…!」


 完全に警戒した様子のライは自分のカバンの中にしまってあったナイフを取り出す。そのナイフは長い湾刀へと変化する。


「何かあった時のために用意して良かった…短いように見えるけど長さを自在に変えることが出来るやつだ…!」

「はぁ…仕方ない。力を試そう、というわけか…」


 話だけでは彼を納得させることが出来ないと悟ったカヨは、ライの相手をする。街が傷つかないように別の場所へと瞬時に移動させた。


「!?」

「どうだ?ここなら大丈夫だろう。あの美しい国で武器を振るなどまずいからな。そこまで否定するのであれば、お前自身がどれくらいの実力か試してみようではないか」

「あっ、いや…そこまでしたい訳じゃ…」


 ライの言うことをよそにカヨは速いスピードで彼の顔に刀を向ける。


(この子…動きが速い!?)


 カヨは刀を大きく振り上げ、周囲から風をかき集める。それは雲のように白く、ものすごい勢いの威力と化した風となる。


「これは…風属性の魔法…?くっ……」

「その通り。私の魔法は空から風を集めることが出来る。その力に耐えられるかな…?」


 風の力と彼女の素早い剣捌きに圧倒されてしまうライ。高い身体能力で攻撃を受け止めるが、カヨのスピードが予想以上に速く攻撃を避けるので精一杯だ。

 周りは彼女が作った領域のおかげで壊れずに済んだが、それが無ければ一瞬で吹っ飛ばされてしまう程の力だった。


「遅すぎる!」


 戦闘種族ではあるが、実際に戦った経験はほとんどないライはどのように攻略していけば良いか分からず、彼女の攻撃を受け止めることしか出来ない。


(しまった…!)


 カヨの剣術に翻弄され、遂に湾刀が弾かれてしまう。絶体絶命の危機に陥ってしまうライ…そしてカヨがとどめを刺そうと刀をライの顔の目の前までグッと向ける。


「うっ…」





 もう終わりだ…と思いきやカヨはライの顔寸前で刀を止める。


「あ、あ……」

「…ふふ。中々良い身体能力じゃないか。もう少し極めることが出来れば更に強くなれるかもしれない」

「…それって…」

「お前には是非私の魔法組織へ入ってもらいたい。


…すまなかった。初対面で刀を向けるなどと…もう少し良いやり方があったはずなのに」

「俺の方こそ…ごめん。君は人を傷つける子じゃないってわかってたのに、混乱してて…」


 お互いに敵対しようとしたことを謝る二人。ようやく冷静になったところで、ライはカヨに事情を聞くことに。


「…そうだ。カヨ…だっけ?俺に話をしたいって…詳しく教えてほしいな」

「あぁ、そうだった。これから飛行船が来る。私と一緒に来てほしい。そしてお前に魔法組織に入ってほしい。自分自身の役目が…きっと分かるはずだよ」

「俺の…役目……?」


 カヨはライに自分が所属している魔法組織に入ってほしいと頼んだ。彼を保護するだけではなく彼自身には役目があると告げて……

その役目というものが何か分からないライだったが、彼女の目に嘘はないと気づきその誘いに乗る。


「…うん、わかった。その役目っていうのがいまいちピンと来ないんだけど、そうすればもっと色々な世界を見ることが出来そう…そんな気がする!」

「世界を見たいのか?」

「そうなんだ。冒険をすることが小さい頃からの夢でようやくそれが叶うんだ……お願いがあるんだ、カヨ。

魔法組織に入る代わりに…俺に世界を見せてほしいんだ!!」

「!」


 ライは彼女の事情を受け入れる代わりに自分に世界を見せてほしいとお願いした。カヨは少し驚いた表情で、彼の願いを聞き入れた。


「…これで、お互いの意見が一致したことになるか。…じゃあこれからよろしく頼む、ライ」

「うん、こちらこそ!」


 お互いに手を取り組織の仲間として新しく加入することになったライ。しばらくすると、カヨの魔法組織へ向かうと思われる飛行船が到着した。機械と植物が混じった大きな飛行船だった。


「すげーー!あれに乗って向かうんだね!」

「あ、あの中が私の魔法組織なんだ」




「…ええっ!?」

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