<冒頭&中盤試し読み>晴雪くんとあおいちゃん
青葉える
<冒頭試し読み>第一章・第二章
一.小学二年生 七月十三日
あおいはいつもぼくを見つけてくれる。ぼくが先にしょうこう口にいても、後からかいだんを下りていっても、すぐに「はるゆきくーん!」と手をふってくれるんだ。ほいくえんからずっとなかよしのぼくらは、クラスはちがうけど、帰りはかならずいっしょ。
学校を出ると日かげがなくなって、かんかんでりが目にとびこんできた。空にはぽこぽこ、丸い雲がうかんでいる。
「まぶしいねえ」
あおいは目を細くする。
「こうすればいいよ」
ぼくがあおいの頭にかめんライダーの下じきをかぶせてあげると、「頭、じりじりしない! はるゆきくんすごい」と、おかえしにミッキーの下じきをぼくにかぶせてくれた。うでが交さして歩きにくくて、ぼくらはきゅうにたどたどしい足どりになる。それがなんだかおかしくて、顔を見合わせ、わらった。
前を歩いていた六年生たちが角をまがって見えなくなったとき、今だ、と思った。かたにかけていた手さげバッグから、チューリップがらのふうとうと、パンダのマスコットをとり出す。
「あおい、おたん生日おめでとう」
あおいは目をパッと大きくして、ばんざいみたいにりょううでを上げた。
「えー! ありがとう!」
よろこんでもらえてうれしい。きょ年はおり紙で作ったお花としゅりけんだったけど、ことしはおこづかいで買ったんだ。
「パンダ、すっごくかわいい! はるゆきくんだと思って、大じにするね」
「大げさだなあ」と言ったものの、気に入ってもらえたのがうれしくて顔があつくなった。
「お手紙もとってもうれしい。帰ったら読むね。楽しみ」
あおいのくりくりの目がたれ下がっているときは、うれしかったり楽しかったりするとき。ぼくはその顔がすきだった。
「わーい、あっりがと、あっりがと、はっるゆっきくん」
スキップするリズムであおいは言った。そしてぼくの手をとってぶんぶんとふる。だれかに見られたら「まだほいくえんにいるみたい」とわらわれそうではずかしかったけど、うでで風をきっているうちにぼくも楽しくなって、「どういたっしまして」と口ずさんだ。夏のあつさの中でも、あおいの手のあたたかさはイヤにならなかった。
ふうとうの中の手紙のさい後には、こう書いてある。
『ずっとなかよしでいようね はるゆき』
読みおわったあおいが、ひとりでこっそりうなずいてくれるのをそうぞうして、ぼくはふふっ、とわらった。
二.小学三年生 七月十三日
帰りの会が終わり教室を出たところで、「晴雪くん」とよび止められた。ふり向くとカマタさんのグループの子たちがずらりと立っていて、ぎょっとした。
「晴雪くん、二組のあおいちゃんといっしょに帰ってるよね」
カマタさんはうでを組み、口をとがらせている。
「う、うん」
「じゃあ晴雪くんから、『さい近調子に乗ってるよね。止めた方がいいよ』って言ってくれない?」
ぼくは口をぽかんと開けた。あおいが『調子に乗ってる』なんて思ったことは一度もない。
「何でそう思ったの?」
ぼくはおそるおそるたずねる。
「あおいちゃんが、自分が男子にもててるって思ってるの、すごくわかる。毎日はるゆきくんと帰ってるのも、自分が男子に人気があるのを自まんしたいんだよ」
またびっくりした。だれのことを言っているんだろうと思うくらいはじめて聞く話ばかりだった。どうして、いつもいっしょにいるぼくがわからないのに、クラスもちがうカマタさんたちが『すごくわかる』んだろう。でもそのぎ問を口にする前に、「晴雪くんだって、あおいちゃんのことすきなんでしょ?」と言われ、ぼくは反しゃてきに「ちがうよ!」とさけんだ。すきな人の近くにいたらドキドキするらしいけど、ぼくはあおいといたら楽しくて、心地よくて、ドキドキなんてしてるひまはないんだから。「ちがうよ」と言ってから、あおいをキライと言っているみたいだったかなとちょっと後かいしたけど、カマタさんはそこにはつっこまず、「じゃ、あおいちゃんがはるゆきくんをすきで、べたべたしてるの?」と言ってきたので、すぐに「それもないよ」と返した。あおいだってぼくと同じ気持ちだと思う。ドキドキなんかしてたら、毎日いっしょに帰るなんてむりだろう。
はっきりひ定したのに、カマタさんはうたがうようにぼくをじろりと見て、「あおいちゃんといっしょにいると、はるゆきくんも調子乗ってるって思われるかもよ」とすてぜりふをのこし、女の子たちを引きつれて教室にもどっていった。それと同時に、「はるゆきくんっ」とよばれてぼくはとび上がる。二組の教室から顔をのぞかせたあおいが、にこにことわらっていた。
「今日は帰りの会が終わったタイミング同じだったんだね」
「あ、えっと、そうだね……あっ、あおい」
「ん?」
あおいはさいそくとか期待とかを一切見せずに、目を丸くしてぼくの言葉のつづきを待った。そのえがお、ほほえみっていうんだろうか、それがすごくやさしくて、ちょっと天使みたいだと思った。
「おたん生日おめでとう」
動物がらの分あついシールセットをさし出す手がなんとなく重かった。でもあおいは、まるで空からまいおりてきたばかりの女の子みたいに目をきらきらさせていた。
「ありがとうっ」
その目がきゅっとたれ下がる。このえがおがなくなるのは、イヤだ。ぼくがとなりにいると、またあおいが悪く言われるのかな。ぼくら、いっしょにいない方がいいのかな。
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