ウソ

三毛栗

ウソ




 1人目が言った


 

 "ウソ"は悪いことだ


 隠し事がある証拠


 自分も他人も偽って


 きっと誰かを傷付ける



 自分を誇れない証明だ


 偽りから何を得られる


 

 胸を張って生きられない人の


 自分を投げ出す逃げ道だ




 それを聞いて2人目も言った



 "ウソ"はそこまで悪くない


 誰しも隠し事はある


 人を守る優しい優しい


 そんなウソもあるだろう



 必ず自分を誇れる訳じゃない


 偽りから得られるものだってある


 

 自分の弱さを知っている人の


 優しく真っ直ぐな生き方だ




 綺麗事だね


 

 1人目が不機嫌そうに言った



 結局弱さを隠してる


 得られるものって何なんだ


 どれだけ優しいウソだとしても


 いつか誰かを傷付ける




 それこそ君の言い掛かりじゃないか



 ムスッとした2人目は言い返す



 そんなにボロクソ言うならば


 君はウソなど吐かないの?


 もしもウソを吐かないならば


 何故そんなことを言えるんだ




 ウソを吐かれたことがある



 寂しげに1人目は語る



 大切な人に吐かれたウソ


 とても優しいウソだった


 とても残酷なウソだった


 ウソなんて吐かないで欲しかった


 全部受け入れてあげたかった


 本当の自分を隠さずに


 堂々としてて欲しかった


 あなたはとても優しいのだから


 胸を張ってて欲しかった


 自分も他人も騙して


 苦しんで偽って泣いて


 結局何も得られずに


 あなたもみんなも傷付いた


 ウソの何が良いもんか


 苦しみ偽り傷付くだけの


 優しく悲しい諸刃の剣




 それは君の視点だろ



 我慢できないとばかりに2人目が叫ぶ



 大切な人だから吐いたんだ


 みんなを傷付けたくなくて


 自分で抱えておこうと思って


 どうしても吐かずにはいられなかった


 受け入れてくれると分かっていても


 自分が自分を受け入れられなかった


 こんな自分はと卑屈になった


 みんながとても優しかったから


 隣で胸を張れなかった


 みんなをずっと騙してた


 その事がずっと苦しくて


 結局全部バレた時


 僕は少しだけホッとした


 ウソは僕なりの生き方だった


 苦しんだけれど後悔はない


 僕を偽る硬い殻




 ふざけるな!



 1人目は声を荒げた



 何が抱えておこうだ


 何が傷付けたくないだ


 結局全員傷付いた


 結局何も得られなかった


 ウソの何が良い


 隠し事の何が良い


 俺は本当のことが知りたかったんだ


 俺はあなた自身を知りたかったんだ


 優しいウソを吐くあなたの


 本当の姿を見たかったんだ


 俺はあなたを愛してる!




 僕を愛してる?



 2人目は戸惑いつつも言葉を続ける



 そんな訳ない


 ウソを吐いた


 綺麗事を言った


 僕の都合でみんな傷付いた


 実際は君の言う通り


 僕は正真正銘最低のウソつきだ


 自分を偽った


 君たちにさえ偽った


 本当の僕はこんなにも醜い


 なのになんでそんなことを言う


 君のその気持ちはきっと偽りウソ




 そんなことない!


 

 1人目は泣きながら言った



 ウソを吐いていた頃のあなたも


 本当になったあなたも


 どちらも心から愛してた


 だからこそウソが嫌いだ


 あなたを苦しめていたウソが大嫌いだ


 ウソは悪いことだ


 本当のことを見落としてしまう


 見たいものが見れなくなってしまう


 本当が何か分からなくなる


 だからウソは悪いことなんだ




 本当…?



 2人目もしゃくりあげながら言った



 僕のことが好き?


 嫌いになってない?


 きっとウソを吐いていた頃の僕の方が良い子だ


 ウソを吐いていた頃の僕は綺麗だった


 ウソを吐いていた頃の僕は正しかった


 ウソを吐いていた頃の僕はだった


 ウソはそこまで悪いことじゃない


 本当の僕は間違っていたんだ


 だけど…それでも君は僕が好きなの?


 それでもウソは悪いことなの?




 少なくとも俺とあなたとみんなにとってはね



 1人目は目を真っ赤にして落ち着いたように言った



 誰かが救われるのならウソはそこまで悪くない


 けれど誰かが傷付くのなら


 無理矢理にでも偽るのなら


 ウソは絶対に悪いことだ


 そもそも本当のあなたは間違ってなんかいない


 生まれ持ったものが世間と一致していなかっただけ


 誰にも迷惑をかけていない


 自問自答で傷付き続けている


 そんなあなたがまたウソで傷付く


 そんなことがなぜ許される




 そっか



 2人目は今度は静かに涙を溢しながら呟いた



 僕傷付いてたんだね


 救われてなんかいなかったんだね


 無理矢理偽ってたんだ


 性格も性別も


 気持ちだって本当はウソだったんだ


 僕って馬鹿だな


 こんなにも真っ直ぐに救ってくれる人が居たのに


 わざわざ遠回しに救われに行こうとしてたんだ


 大事な人の意見より世論を気にして苦しんで


 君たちに向き合ってなかったのかな




 違うよ



 1人目は2人目を抱き締めながら言った



 あなたは向き合ってくれていたよ


 だから受け入れてくれるって分かったんでしょ


 その上でやっぱり


 自信がなくて臆病になってしまっていただけだよ


 大丈夫だから


 俺もみんなもいるから


 いくらでも信じて救うから


 あなたに足りていないのは自信だけだよ


 自分を信じて愛すれば


 もう偽ろうなんて思わない


 胸を張って自分でいれるさ




 ありがとう



 2人目は1人目を抱き締め返しながら繰り返し言った



 ありがとう


 言い合ってくれて


 ありがとう


 気持ちを伝えてくれて


 ありがとう


 救ってくれて


 ありがとう


 教えてくれて


 ありがとう


 ウソで固められたこんな僕を愛してくれて


 本当にありがとう


 僕も好きだよ


 大好きだ




 1人目と2人目は瞳を合わせる


 惹かれ合うように


 見惚れ合うように


 今までのウソを否定するかのように


 本物の真っ直ぐな瞳で相手を見つめて


 フフッと笑みを浮かべた






ーーー






 ウソは必ずしも悪いものじゃない


 人を守るための優しいものもある


 けれどやっぱり


 無理をしてまで自分を偽るウソ


 それで周りが傷付くウソ


 そして何より


 悪意からのウソ


 周りを害するための故意のウソ


 自己中心的な考えや欲からのウソ


 吐いてはいけないウソもあるから


 見極めよう


 気遣いのウソと自分勝手なウソ


 偽って良いことなのか


 偽ってはいけないことなのか


 自分自身でしっかりと


 自分に自信を持てるように


 まあ結局のところ


 "ウソ"の本質は


 一人一人が決めるものだから


 悪いウソを吐いていないと


 貴方は心から言えますか?




 




 







 




 


 




 


 



 


 

 


 

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