第10話 きっかけ

2016年…9月…




俺はもう、怖くて押せない…


何度もアキラの死を見てきた…


俺は今、時間屋にいる…


黒い時計の販売機の前で


時計のスイッチを押せずにいた…





「大丈夫…ですか?」

「とても顔色が悪いですが…」



フードの男からの呼びかけに反応する気力もない



「…繰り返しているのですね…」

「何度も、同じ結末を…」




「…………」


もう2年ほど意識を過去に戻した…


俺は約20年の命を、この時計に捧げている


アキラを助けられなければ、このまま犬死に確定







「あなたがこの店に来たのは偶然ではない」


「あなたの世界」


「修正のきっかけ」


「過去・現在・未来」


「何かが変わるきっかけ」


「世界はひとつではないのです」




信用できない男の

前にも聞いたようなセリフ…


、今こうなっている







俺は時計を使わずにポケットに入れ

時計屋を出た…




今日もアキラは心臓麻痺で死んだ…

外的要因を避けるため、がない場所にアキラを誘導したり、一緒に居たりしたが、死の運命は変わらない


どのパターンを試したところで

心臓麻痺で死なれたら、どうすることも…






(♪♪♪♪♪)


「もしもし、トモキ?どうしたの?」

「もしかして、もう私に会いたくなった???」



今日のアキラの死を、ユキはまだ知らない


アキラは今、自宅に





俺は心が辛くて、ユキに会いたくなった…
















「へぇ〜この店、2階がカフェになってるんだぁ」

「いいね!本を読みながらコーヒータイム!」

「最高♡♡」



俺とユキは『dolls』にやってきた


アキラもよく来ていた店だ


俺たちは2階に上がり、一番奥の個室に入った




「私ね、トモキに告白した時、絶対断られると思ったんだぁー」


この時、俺とユキは付き合い始めて一週間


俺がユキに告白されて、OKを出したんだ…




「…アキラの事、気にしてるのか?」

俺は恐る恐る聞いてみる



「うーん、なんていうか…アキラくんは昔から読めない人だから、トモキがアキラくんに気を遣って私の事蹴るかも!って思い込み!」



「はは…確かにアキラは真面目なのに、時々ねちっこい時あるもんな!」



「高校の時は私を取り合って」

「よく2人で喧嘩してたよねーー」



俺たちは高校の時も同じ時を過ごしていた


思春期継続中の俺とアキラが、どちらがユキを射止めるかの勝負をしていたことが懐かしい…



「懐かしいなぁー」

「あの時のユキは、ぶっちゃけ俺らどっちかの事、好きだったのか??」

俺は恐る恐る聞いてみる(パート2)




「うーん……」

ユキは少し恥ずかしそうだ





「実はあの時は、アキラくんの事が好きでしたー!!!」「ごめんね♡」 


「やっぱりかー!!あの時のユキはクールなアキラ推し!そんな気がしてた!」

「だから俺も必死になってたんだよ!やばいって!」


2人で懐かしのカミングアウト大会が始まった


今の俺の心を少しでも癒してくれる…


ユキの存在には感謝しかない…


ありがとう…ユキ…





「でも高2の夏?だっけ…」

「2人が一緒に軽トラに跳ねられて死にかけた時は、ホントに絶望だったよー」



「あー!それも懐かしい!」

2助かったのは奇跡だった!」


「ホント奇跡だったよ!だって2人共、一度は心肺停止したんだから!」

「あの時の私は一生分の涙を流したね!!」

死ななくてよかったよーホント…」










その時俺は、ふとフードの男の言葉を思い出す


「何かが変わるきっかけ」


「世界はひとつではないのです」












『きっかけ』って


まさか…






「あなたの世界」


「修正のきっかけ」







ガタッ!!

俺は思わず席を立ってしまう


「きゃっ!どうしたの?急に!」

当然驚くユキ




「ユキ…ごめん…俺わかったかも…」


「え?なにが???」





「ホントごめん!ちょっと行ってくる!!」

俺はまた、ユキとのデートをキャンセルし

急いで店を出る…













またもや1人取り残されるユキ





その時、俺は振り返らなかったが

ユキは店の窓から、走り去る俺を見ていてくれた気がした









『気をつけて、いってらっしゃい…トモキ…』





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