第??話 妹のために
昔からやりたいと思ったことはやらないと済まなかった。
勉強も、運動も、全部やりたくなったら片っ端からやった。でも、どのやつもすぐに好成績で、すぐに終わってしまう。どれも長くは続かなかった。
終わったら新しいの、それを繰り返していくうちになんでも出来るようになってしまった。
でも、それが分岐だったのだと思う。
何よりも大切な妹に嫌われてしまった。
両親が仕事で忙しい中で、私だけが妹の面倒を見ることが出来るのに、私はその妹を放っておいて自分のやりたいことに熱中した。
その結果、妹は1人で立つようになって、1人でなんでも出来るようになった。
私は姉としての役目を果たせず妹と犬猿の仲になった。
私は姉失格だ――
中学生になって、妹は私とは別の中学に入学することになった。お母さんやお父さんは初めは反対していたものの、妹の強い意志を踏んで許した。
私もそれがいいと思った。
自分のことを見てくれずに、勉強や運動に熱中していた姉と同じ学校に通いたいと思うはずがない。
だから私は反対しなかった。
私が反対しなかったとき、妹はどう思ったのだろう。私には分からなかった。分かるには一緒にいた時間が短すぎた。
いや、それも言い訳。短かったんじゃない。自分で削ったんだ。そう思った時にはもう、妹と会話することすらままならなかった。
中学2年生の春。親友の玲奈の弟が入学すると聞いた。
初めは玲奈に弟なんていたっけ? と思ったけど、後々から分かった。弟の夜狼さんは訳ありで玲奈の弟になったのだと。だから彼に初めて会ったとに何も聞くことは無かった。
親の離婚、親の死亡、それによって親戚に預けられることなんてよくあること。漫画の世界だけという訳では無い。
だから彼が玲奈の義弟になったことも何かしらの事情があって、彼の名前が波夜瀬怜になっていないのはもしかしたら彼のお願いなのかもしれないと思い、触れないことにした。
それよりもどんな人なのか気になった。思っ以上に玲奈が溺愛している所があったから、私も彼が一体どんな人なのか気になった。
それから一学期中間テストが終わり、その結果が張り出された。
私は目を疑った。
1位――1年1組 夜狼 怜 500点
まさかの満点だった。
私でもテストで満点を取るのは相当な努力を要する。それを彼は難なく全教科満点と言う記録を残した。
そして、彼の口から出たのはさらに衝撃的な言葉だった。
――勉強することがなかった
彼は1度もワークなどに手を触れず、教科書を読み返すだけでテストに挑んだのだ。それが何よりも衝撃だった。
桁外れの記憶力。私すら相手にならないかのような余裕ぶり。
私は勝てないと悟った。
勝てない相手に勝負を挑むほど私も馬鹿ではない。でも、いつも夜狼さんの横にいる白崎さんは何度も彼に挑戦していた。
不思議だった。
でも、2人は勝負することを楽しんでいた。
夜狼さんが勝ってからかって、白崎さんが負けて悔しがって、2人はそうすることで楽しみを保っていた。
私もちゃんと妹のことを見ていればこんな関係になれたのかな。そう毎回思った。
でも、もう叶わない。
私が捨ててしまったから。
高校に上がって、1年生にして生徒会風紀委員長になっても特に自分が変わることは無かった。大きな変化と言えば周りからの視線が変わったことだろう。
学園2大美姫の1人という通り名が付けられて、一部の生徒からは学園の姐さんと呼ばれるようにもなっていた。
それと同時に怜さんが学園一の怠惰のような人になってしまった。
理由はよく分からないけど、彼はただ一言めんどくさくなったとだけ言っていた。
これまでずっとテストの点数で負けていたという白崎さんは学年2位を取り、一方で怜さんは常に学年30位以内という結果になっていた。そのような結果で白崎さんが納得しているのかは不明だったけど、白崎さんは特に何も疑問に思っていない様子だった。
そして、何より驚いたのと同じに嬉しかったのが妹の葵が学年1位を獲得していたことだった。
高校に上がると同時に家から離れて一人暮らしを始めた葵。離れ離れになっていた妹が同じ学校で学年1位をとっていることが何よりも嬉しかった。
でも、学年トップの成績を取っているはずなのに虚ろな表情をして、まるでつまらなさそうな様子だった。
心配だけれど、今の私が何を言っても無駄だと思った。
結局、高校生になっても私は姉としての役目を果たせないダメな人間なのだと強く思い知った。
玲奈が羨ましかった。
どうしてそこまで本物の姉弟でもないのに怜さんのことを愛せるのか。姉として振る舞うことが出来るのか。教えてほしかった。
だから直接聞いてみた。
――姉として何をすればいいのか。
玲奈は答えた。
【これといったことはしてないわよ〜? ただ怜くんに大好きってアピールをしてるだけ】
たったそれだけで弟の信頼を獲得出来るものなのか。分からなかった。
それが理解出来ない時点で私に答えなんてないようなものだった。
今更葵と話して葵が聞いてくれるとも限らない。第1、話せる時が来たとして、私は素直に話せるのだろうか。
きっと何を話せばいいのか分からず迷うはず。
でも、そんな考えも妹によって無駄だったと思い知る。
高校に入って2回目の文化祭。
その本祭で私と葵は初めてちゃんと会話をした。
――素直になりたい。
葵が最初言った言葉だった。
葵はそれから全部話してくれた。私に知っきていたことも、羨ましく思っていたことも、私に憧れていたことも。
全部。
なんでもっと早く気づいて上げられなかったのだろう。自分を恨んだ。
妹にこんなに言わせるまで、私は見て見ぬふりをしていたのだ。涙が溢れそうになる。
嬉しかった。まだ、葵の中で私は姉として見てもらえていたことに。気づかないうちに葵は私よりもずっと大人だった。
だからせめて、今だけは姉としての役目を果たしたいと望んだ。
世界でたった一人の私の妹。
私よりもずっと大人で、私よりも強くて、だけど脆いくらいに感情表現が苦手な私の妹。葵。
これからはちゃんとお姉ちゃんとして一緒にいてあげるからね。
そして、今は、―――。
――妹のために。
―――――――――――――――――――――
【あとがき】
こんにちは、またはこんばんは、八雲玲夜です。
『妹のために』、最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回のお話は頼れる姐さん薫のサブストーリーでした。
本編ではそんなに薫のことについて語ってないので、今話でこうやって語れたことを嬉しく思います。
本編の方だと葵の一方的な薫に対しての心情が描かれていますが、実際のところは薫も悩んでいたというのが分かる、ある意味いいストーリーになったのではないかと思います。
読者の皆様はどう思いましたか?
良ければコメントで教えて貰えると嬉しいです。
玲奈と怜だけじゃない、もう1つの物語、お楽しみいただければなと思います。
さて、お別れのお時間です。
次話では誰のサブストーリーが描かれるのかお楽しみに。
では、八雲玲夜でした。また
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