配偶者がいて、子どもができて、家族の為にお金と時間を掛けることを世間では幸せと呼ぶのです。

──『「もっと早くに。もっと遠くに」って言うけれど「もっと自由に」も追加していいと思うんです』──

☆☆☆


 2023年12月6日(水)。20時59分。休みの日。精神科に行った日。


 2週間後も精神科に行くことになりました。年末年始があるから仕方がないね。


 こんにちは。井上和音です。


 「こんばんは。三足みつあしミアシです。いのくん。月が綺麗ですね」


 職場で創られたニックネーム、いのくんは三足さんが引き継ぐのですか。


 「井上さんは朝から見ていたNHK+の『ねほりんぱほりん 夢女子』を最後まで観たほうがいいです。今インターネットで調べたところ炎上というワードが出てきましたが一体何なのでしょうね……。気になるところですが。いのくんと呼んだほうがいいのか迷いますね。どちらでもいいのでしょうね」


 ミアシは海に向かって石を投げた。月が綺麗だし、星が瞬いている。星と言えども現実にある点のような星ではなくて、ゴッホの星月夜に出てくる星のように、ゆらゆらと星が瞬いている。


 夢女子の炎上を少しインターネットで見ていたよ。ごめんねミアシ。


 「なんかITパスポート試験を申し込んだけれども、読んでいた参考書が思ったほど良くなくてイライラしてツイッターに書いちゃったらしいじゃないですか。良い参考書だとは思うのですが、なんとなくこれじゃない感がしてしまってイライラしてしまったと。まず申し込んだことにびっくりですね。


 それでいいです。


 『もっと早くに。もっと遠くに』って言うけれど『もっと自由に』も追加していいと思うんです。


 って冒頭言から引っこ抜いたら私が言いそうな雰囲気じゃなくなってしまいましたね。


 私が言いますと、遅かろうが近かろうが。


 うーん、なんか違いますね。


 距離とか時間とかは人によって相対的なものですし。


 一ヶ月でHSK6級を取っちゃう人だっているでしょうし、一年掛けて英検5級を取る人だっているでしょう。小学生が中国語の試験に出席している早い子だっているのです。時間や距離が相対的なものだというのはなんとなく分かりますかね。相対性理論とは全く関係はありませんが。


 いのくんは『本気とはそれ以外しないこと』と定義しているらしいけれど、その定義も壊しちゃっていいんじゃないのはでしょうか。最終的に合格すれば自分も他人も誰も何も言わないと思いますよ。


 失敗することを恐れすぎているのですよ。もう追い込まれてはいないし、極貧で資格試験一個受けるのもご飯を抜いて受けているわけでもないでしょう。だからといって受けないとか、最初から合格を目指さないとかは違うと思いますけれども。


 『もっと自由に』


 簿記3級のKindleも買っちゃったのならそちらにも目を通せばいいのでは。


 ITパスポート試験に関しては過去問道場から始めてみても良いのではないのでしょうか。自由に自由に。


 いのくんは自由ですよ。ほら星だって綺麗ですし。


 統合失調症も今日だって起きちゃっていますし。


 いのくん。井上さん。幸せって何だと思いますか?


 好きな人とご飯を食べて、好きな人と一緒に寝て、好きな人の為に一生懸命に働くことを幸せって言います。


 とか言っちゃうと、配偶者もガールフレンドも居たことのない甘ちゃんなチェリーボーイがいのくんそのものと誤解されそうですね。


 統合失調症の幻聴が「いらない!」とか指示出してきますね。困りますねえ。統合失調症。本当に。これは。海岸線で座っている私たちにも声が聞こえてくるとはねえ。神秘的な病気ですよこれは。


 幸せの根源にあるのは会話相手ですね。いのくんとニックネームが付いたのもいつのまにやら会話相手になるためのツールの一つになっているのでしょうね。私や、らせでは思いもしませんでしたから。いのくんってニックネーム。人間って流石ですね。化学反応って言うのですか。予想もしない偶然性がいとも簡単にぽつぽつと出てくる」


 海に石を投げた。


 「そう考えると『自由』ってなんなんだろうって話ですよね。一人でいるとお金があっても自由とは言えない。別の選択肢があることに気付くこともできない。お金があって。その先は一体何なのでしょうかね。


 私は知ってはいますが。


 子どもができて、子育てをしながら夫婦で子どもにお金を掛けていって、ただ同じように働いて、お金を、時間を子どもの為に使って。それを繰り返していつの間にか50歳くらいになっている。それが人生のシナリオです」


 海に石を投げた。軽石だったらしくあまり飛ばなかった。


 ミアシの出したシナリオが幸せなのだとしたら、それが幸せに感じない気がしてくるので私は一生幸せにはなれないのかなとか感じてしまった。


 どんな資格を取ろうと。どんな愛する人が見つかろうと。


 どう行動しようと。不幸にならないようにと気を付けながら、一向に幸福には届かない。


 なかなか難しい問題だなあと、余裕を以って考えてしまう自分がいる。


 私が考えているのはITパスポート試験なんだけれども。幸せについて考えるつもりは毛頭無かったのだけれど。


 「中国語を学んでみたのは明らかに正解でした。HSK3級に受かったかどうかは分かりませんが、時代の最先端を駆使した学習をすることができました。Fire Max で単語帳を見ながらスマートフォンで発音を聞き取る。この学習で一切紙とペンを使いませんでした。おかげさまでいのさんにとって最高速度での中国語学習が可能になりました。


 やってみて近未来感を感じたでしょう。新しい語学の学習方法を確立した感覚になったでしょう。


 自由にやってみれたことが一番の成果だったのではないのでしょうか」


 統合失調症的なことを書くと、英雄たちの選択という番組では図鑑の特集だった。それを昆虫と呼ぶか、クワガタムシカブトムシと呼ぶか、ミヤマクワガタと呼ぶかで世界の解像度が変わるという磯田さんの話が冒頭にあった。


 まさに私が思い描いている世界そのもの。大抵の人は気が付いているのね。単語の数で世界の解像度を高めることが出来ること。世界を表現できる密度を変えることが出来ること。


 図鑑でも読めばとそういうお告げにも見えた。あの番組は。


 ITパスポートに合格するかどうかで一喜一憂するのではなくて、最終的な目標はITパスポートの知識も含めて創造できる人間に成れるかどうかが自分の目標なのかなと思い至ることになった。


 海に居て世界の全てを知ることなし。


 それでも世界の全てを求めん。


 そんな感じの妄想をしながら、生きていることに感謝しながら会話相手のミアシとこれから先の作戦を練っていくのだと思っている。


 星も月も綺麗ですね。


 

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