阿鼻叫喚のダンジョン配信【最強スキルのはずなのに不安しかありません】

蒼衣 翼

第1話 スキルは選べない

「うー、……アサミねーちゃん、見てる?」

『大丈夫、ちゃんと見てるから』

「もし俺がここで死んじゃったら、父さん母さんに今までありがとう、ってちゃんと伝えてね?」

『なに言ってるの! 弱気になっちゃダメよ。アナタのスキルならこのレベルのダンジョンは楽勝って、協会の人も言ってたじゃない』

「あの人達はしょせん、他人事だからね。俺がどんだけダンジョン攻略者なんて嫌だって言っても聞いてくれなかった連中だし!」

『ほらほら、いまさら泣き言言わないの。さんざんごねたおかげで破格の時給で仕事を依頼してくれてるんでしょう?』

「俺は金持ちになりたいんじゃないんだよ! ふ・つ・うの、安全な仕事がしたいの!」

『そうだね。怖いよね。それに、ミコトががんばってくれてるおかげで、私達は安全に暮らせるってこともわかってる。すごく感謝しているし、気の弱いミコトにとって辛いだろうって可哀想には思っているよ? でも……』

「でも?」

『あなたの授かったスキルが、強すぎたのよ』

「うううう……」


 絶望。

 そう、俺の絶望は、十八歳の成人の日に始まったのである。




 ――……二十年ぐらい前、この世界に一人の魔法使いが誕生した。

 それまで科学と経済で回っていた世界は、魔法などという非科学的な法則を認めなかったらしい。

 さんざん世界から馬鹿にされたその魔法使いは、世界への報復のためなのか、世界中の主要都市にダンジョンというシステムを発生させた。

 そしてダンジョンは、ゲームのダンジョンそのままに、危険で強力な敵が跋扈ばっこする異空間であり、その土地の場を歪ませて、外にまで大きな影響を与え始めたのだ。


 ダンジョンは特殊な場で、なかに入ると、一人、もしくは四人までのパーティごとに独立した場所に飛ばされるらしい。

 簡単に言うと、ダンジョンは大人数で共有することは出来ず、全く同じように見える場所が、そのパーティごと同時に発生するようなのだ。


 最初、各国の政府はこの危険な場所を閉鎖して、研究機関を設置して研究することで、解決しようとしたらしい。

 だが、ダンジョンを閉鎖してきっちり一年後、ダンジョン周辺に、ダンジョン内に現れるようなモンスターが出現するようになり、それがどんどん増えていった。


 そこでくだんの魔法使いが、インターネットでダンジョンの取説を発表した。


『ダンジョンは一年攻略が進まないと魔物が現実世界に発生し、被害が拡大することになる。それはダンジョンを世間に公開しない政府の責任だ。このダンジョンはゲームを参考に作られていて、最初のチュートリアルダンジョンには危険がなく、そこに初めて挑戦した者には、ランダムでスキルが与えられる。このスキルは、人にモンスターと対抗できる力を与える。ちなみに一度与えられたスキルはリセットできない。ダンジョンをきちんと攻略することで、今までは概念でしかなかったような有用な物質やエネルギーや武器、防具、お宝を手に入れることができる。どうだ? 理解できたかな? ……では、人類よ。魔法のある世界をエンジョイしたまえ』


 ということで、世界の情勢は、ダンジョンを攻略して有用なアイテムを手に入れる方向にシフトしたのだ。

 我が日本では、成人である十八歳になる年に、チュートリアルダンジョン入りが義務化された。


 そのチュートリアルダンジョンで、俺が得たスキルは【サーチアンドデストロイ】というもので、超強力なスキルらしい。

 おかげで、対ダンジョン協会からの強引な勧誘により、俺はほぼ無理やり攻略者として登録させられてしまったのだ。


 しかも、このスキルのせいで他人とパーテイを組むこともできない。

 平和で静かな生活を好む俺にとって、悪夢のような話だ。


 俺は誰もいないところで一人死んでしまう自分の姿を夢に見て、うなされるようになった。

 その俺の思いを汲んで、姉弟同然に育った従姉妹のアサミねえちゃんが提案してくれたのが、ダンジョン配信だ。

 不思議なことに、ダンジョンの内部は規定数の人間とその身にまとう装備しか受け付けないのに、配信機能は使えるらしい。

 その配信機能を使って、アサミねえちゃんと会話しながらダンジョンを攻略すれば、孤独死の恐怖からは逃れることができるということだ。


 だから、俺はほかのダンジョン配信者のように、目立ちたいとか、儲かりたいとか、楽しみたいとかという理由で配信するわけではない。

 観ているのは身内だけでかまわないと思っている。


 そもそも、ダンジョンを作った魔法使いって奴は、自分の作ったダンジョンを自慢したいんじゃないかと思う。

 じゃなきゃダンジョン内部を配信可能にしないだろ。

 そいつの思い通りになるのは腹が立つので、大勢に観られるのはむしろ嫌なぐらいだ。


「くそっ! スキルを与えるなら、本人に向いたスキルにしろよ!」


 俺の叫びは虚しく暗い岩肌に響くだけ。

 いや、ただ一人、外で配信を観ているアサミねえちゃんは聞いているか。

 まぁ身内だから、恥ずかしいって気持ちはないけどな。


【接続人数が更新されました……】


 びくびくしながらダンジョンを進むみことが、チカチカと光ったシステムメニューを見ることはなかった。

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