第3話 理解の外

少女は、目の前で起こった出来事に思考が追い付かず、しばらく呆然としていた。


死を覚悟し、半ば生を放棄しかけていた脳が、「命の終わりはどうやら今ではないようだ」と判断をするのにかかった時間は十数秒だったが、もっとずっと長かったように思えた。


その間、少女の目の前には、変わらずに一人の人間族の男の背中。


そしてその足下には動かなくなった魔熊。


いや、正確にはその姿は変わっていたが、男の背中が変わらぬ位置にはあり続けていた。


呆然と座り込んでいる少女の目の前にあったその背中は、はじめは微動だにしておらず、少女にとっては新たな外敵であるかも、という緊張を強いていたのだが、その背中がだんだんと揺れだし、不安げに辺りを見回しだした後、振り向いて少女を見た顔に若干の涙が見えたところで、やっと少女は恐怖の時間が終わったのだと理解できた。


少女は振り向いた男に声をかける。


「あの... 助けてくれてありがとうございます...??」


そう言って、自分の足からくる激痛に気が付き、深く傷ついた自らの足に目をやり、ショックと痛みのあまり意識を手放した。



~~~~~



目の前には美しい森。


日々都会で暮らしていた竜人にとっては、久しく味わっていない澄んだ空気。


そんなことが頭の中に沸いては消えていく中、竜人は段々と強くなる不安感に苛まれていた。


(とっさに反撃しちゃったけど、これ、熊ではないよなぁ~。)


(さっきの感触からして、殺しちゃった、よな?)


(そもそも、ここってどこなんだ??)


(俺、今どうなってる???)


(分からない、分からない、あ~、あ~~…)


まとまらない考えがグルグルと頭の中に沸き上がり、知らず知らずのうちに足は震えていた。


あまりのストレスに精神的にパンクしかけた竜人の耳に、カサリと後ろから物音が聞こえてきた。


実際には、魔熊に完封勝利を収めているので、肉体的にはなんのダメージもなかったが、そんなことは今の竜人には関係なかった。


被害妄想にも似た、害される、という恐怖が沸き起こる。


理解が全くもって追い付いていない中で、後方から聞こえた物音に怯え、涙目になりながらゆっくりと振り向く。


そこにいたのは、、、なんだ、この生き物???


まだまだ平静を取り戻せるのは無理そうだった。

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