美食

猫又大統領

読み切り

 ホームルームの最中、フータは担任の話を一切気にすることもなく、黒板の上にある時計をじっと見ていた。

 ホームルームの前、担任が受け持つ英語のテストが返却され、喜怒哀楽様々な反応をする生徒たち。

 一方フータはテストを受け取ると点数をチラリともすることもなくすぐに鞄にしまってしまう。

 心ここにあらずというフータにはそれに相応しい理由があった。

 それは、昼休みまでさかのぼる。

 一匹狼のフータがトイレで小用をすませ、廊下でふざけ合う生徒たちを華麗に避けながらトイレから帰ると、机の上に白い小さいメモが置かれていた。

 学校からの連絡事項だと思い読む。

 ”脳みそチャレンジの商品”

 ”体育館裏”

 一見ただの詰まらないイタズラだと一笑して終わりだが、フータにはそう思えない事情がある。

 そのメモ読むと額から汗が吹き出し、トイレに再び戻り嘔吐を繰り返す。

 そして、現在に至る。

 ホームルームが終わり、生徒がみな立ち上がり、帰りのあいさつをする。

 フータは爆発するような勢いで体育館裏へと向かうため、素早く大きめの一歩を踏む。

 しかし、その先には人が立ちふさがった。体重を急いで後ろにかけて衝突を避けることができたが、フータは勢いを殺しきれずに尻もちをついてしまう。

 「あぶない? 急いでるの? それより、ねえ、テストの点数教えてよ? 上位にいつもいる常連だもんね。テストの点数なんてみないのかな」

 そういうとフータを見下ろし、首を傾げた。フータが尻もち尾をついたことは露ほどにも気にする様子もない。

 意識は体育館裏に向かっていたフータは目の前の人物をようやく理解した。長い黒髪のクラス委員長のタナだ。

「てす……いや、知らない、どいてくれ」

 フータはそういうと、タナの返答を待たず、全速力で体育館裏へと向かう。


 体育館の裏には一人の生物。銀色の皮膚。大きな頭。大きな二つの目。小さな口。

 エイリアン、とフータは呟く。するとエイリアンが少し微笑んだ。

 

「君は先週から人間を襲って脳みそを食べている少年だね」

 知られたくない真実をよりにもよってこんな奴に知られてしまったことにフータは落胆する。

「ああ」

「私は研究目的で人間の脳みそを食べているが君は何のためだ?」

「美食。ただおいしいものを求めて。悪いか?」

「君は素晴らしい研究材料になる。だが、報告では少女のはずだが……」

「あいにく男だよ、俺は」

 エリアンは戸惑っている様子だった。

「まあ、いいか。後で確認をする」

 研究ということばに嫌な予感をするフータ。

「それでは、今から君を食べる。すまないな少年」

 一瞬、視界揺れる。

「君の脳みそはこうなったているのか、やはり見た目は何も変わらない脳みそだ」

 フータは地面に寝かされ、どうやら脳みそを守る頭蓋骨を開けられたようだった。体の感覚はひとつもなく、宇宙人の言葉だけが自分の状況を知るだけだった。

「味は変わらない。人間を食したことがある珍しい脳……ぐっあう」

 宇宙人のうめき声が聞こえる。

 フータは自分の脳みそを食らって言葉にならないほど反応する宇宙人を僅かに羨ましく思う。

「どんな味なんだ。俺の脳みそは……」

 フータが放つ言葉は誰かに聞こえているのかそれとも自身の胸の内に響くものかもうそれすら分からなくなっている。

「あなたの脳みそを食べていた宇宙人の脳みそは、まあまあね」

 その声はタナ。フータの顔を覗き、数歩後ろへ下がった。

 緑色に染まった制服を気にする様子もなくタナは宇宙人の頭を片手で持っていた。

 フータの目の前でむしゃむしゃとタナは宇宙人の脳みそをほじくりだして食べる。

「あなたも私と同じで脳みそを食べて賢くなると信じている分類の人? 違うの? まあ、その頭の傷だともう助からないから、友達にはなれそうにもないわね」

 タナはそういうと小さく笑う。

「あのメモね。本当は私に来ていたものを、あなたの机に置いたの。そしたらやっぱり宇宙人がフータにこんなことをしたでしょ。よかった。日ごろから人の脳みそを食べてるから私は賢いな」

 「くそっ……」

 フータは消えそうな声でつぶやく。

 タナは首を傾げる。

フータは力を絞り睨みつけた。

「不満?」

「これが最後の記憶だと思うと最悪だ。俺は美食家なだけだ。宇宙人は研究目的。お前はなんなんだ! お前は図書館で勉強でもしておけばいいじゃないか!」

「秀才になるために食べてるの。フータの脳みそ食べてあげてない。ああ、せっかく食べてあげようとおも――」

 タナは急に黙った。と思うと次の瞬間、再び話し始めた。手がぶるぶると震え、目を白めにして話し始めた。

「体を乗っ取ったのはいいが、この女、強い。このままではこの体の中で囚われてしまう。さらばだ美食家」

 

 そいうとタナの体を乗っ取ったエイリアンは長く変形させた爪で、自らの喉を切り裂き地面に体を打ち付ける。

 フータは消えゆく意識の中、エイリアンに乗っ取られた、タナの脳みその味ばかりを考えていた。

――ほんの一口でいいから食べさせてくれ

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美食 猫又大統領 @arigatou

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