第65話 矢吹の事情
「やっぱキツイって、俺床で寝たいって」
「それはミーたちが許さないよ」
「俺に意思決定権はないのか」
「ないね」
「人権を一部否定されたんだけど」
時間は夜11時、俺たちはキングサイズのベッドの上におしくらまんじゅう状態で寝転んでいた。
キングサイズとはいえ、基本2人用のベッドなので4人で寝るとなるとキツくて、暑苦しい。
なので、俺が床で寝たいと言った基本的人権の一部を否定されたところだ。
現役ピチピチの美少女達に囲まれてベッドで寝れる。
シチュエーションとしては天国だ。
だが、現実は漫画と違う。
暑いし身体の色んな所が当たって理性が時々崩れそうになる。
大会当日の夜にチーム仲間を襲うのは普通にヤバい。
「ちょ、マジで暑いねんて」
「逃げるのは許されない」
矢吹がヘッドロックを掛けて来た。
2つの意味で汗が出てきて、熱中症になってしまいそうだ。
そして、俺はその状態で睡魔に負けてしまった。
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「樹君、樹君、起きないならビンタするよ」
「もうしてるだろ」
俺の両頬をペチペチと往復ビンタして、矢吹が起こしてきた。
まだ外はまだ暗いままなので俺が寝落ちてちょっとしてから起こされた様だ。
優葉と冬樹は爆睡している。
「眠いから寝させて」
「ちょっとストップ、お風呂に入ろう」
「意味が分からない」
「樹君とあんまり深い話した事なかったから話したい」
「急に真面目な事言うやん」
ふざけた事ばっかり言ってるのかと思ったら、急に真面目な事言い始めた。
「お願い、色々話したい事があるの」
「…………なら、分かった」
さっきまでのふざけた態度とは一転して、真剣な眼差しでそう言ってきた。
普段矢吹は死んだ魚の目をしている事が多く、それ以外は基本的に人を虐めて笑っているかのどちらかなので、ここまで真剣な表情でお願いされると断れない。
それとも俺がこうした方が言う事聞いてくれると分かっているから、そういう風にしてるのだろうか?
ともあれ、矢吹がここまで真剣な雰囲気を醸し出している事は珍しいので一緒に風呂に入り話を聞くことにした。
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「入っていいよ」
「は〜い」
流石に全裸だと問題が発生するので、タオルで大切な部分は隠してもらっている。
俺も勿論の事、隠している。
そして俺たちは軽く身体を水で流して、浴槽の両サイドに座った。
「話すと言ったって何話す」
「じゃあ質問、樹君の叔父叔母ってどんな人だったの?」
「なんで俺の叔父叔母?まぁ、一言でいえば物静かだったかな、矢吹の叔父叔母は?」
「ミーの叔母、アメリカ人なのよね」
それは初耳だ。
顔にも特にアメリカ人ぽい要素はない。
叔父叔母くらい血が近かったにも関わらず、母親の血がかなり濃かったのだろう。
「だからミーの一人称ってミーなのよ」
「そう言う理由だったんだ」
最初はミーという一人称に少し違和感を覚えていた。
だが、ずっと一緒にいて聴き慣れてしまっていたので、最近は特に何も思わなくなっていたが、そう言う事だったのか。
「一人称がミーになっちゃう程って事は叔父叔母と一緒に暮らしてたの?」
「一緒に暮らしてる訳じゃないけど、そう、ね、中学入る前までは殆ど毎日会ってた」
「へ〜何で中学から会わなくなっちゃったのさ」
「ミーが叔父にレイプされかけたから、って言ったらどうする?」
「は?」
矢吹が少し悲しげに俯いていた。
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