第63話 雷がもたらした洪水

「あぁぁぁぁ〜マジで涼しい〜」


俺はベッドに腰掛けながらそう言った。


流石夏だ。


首元が汗でしっとりとしている。


「そうっすね」


俺の叫びに優葉が反応した。


優葉もエアコンに当たりながら


矢吹と冬樹はスマホで今日の大会の実況を見て、クスクス笑っている。


「dolphinさんたち意外とみんなフレンドリーだったっすね」


「な、ノリが高校生だった」


この飲み会でdolphinたちとの仲はめっちゃ深まった気がする。


だが、帰りにシェリーさんがベロンベロンに酔って千鳥足の3人に


「なんでこんなになるまで飲んじゃったの!?アンタら二日酔いするでしょ!?」


とブチギレていたので、向こうは小さなヒビが入っただろう。


「あとさ、何?そのなんともいえない距離感」


ベッドに腰掛けてからずっと思っているのだが、優葉たちは俺に対しての接し方が何となくぎこちない。


すこーしだけ距離感を置かれている。


いや、普通はこの距離感が正解なのだろう。


でも今までの距離感が近過ぎて、少し距離を取られるとどうしても違和感を覚えてしまう。


「なんでもない」


「深刻過ぎて語尾忘れちゃってるじゃん」


っす、という部活の後輩の様な語尾をつけ忘れてしまっている。


相当状況は深刻なのかも知れない。


何かしただろうか?


だが、いくら記憶を遡っても何かやらかした記憶はない。


あるとしたら、エドウィンの尻穴開発講座の声が3人に聞こえていた事くらいだろう。


「もしかして聞こえてた?」


「何がっすか?」


「いや、何でもない」


優葉がキョトンとした顔でそう答えた。


本当に何も知らなそうな顔をしているので、尻穴開発講座が原因ではないだろう。


仮に尻穴開発講座が原因だったとしても、ここまでは引かない……引かない筈だ。


「じゃ、ミー風呂入ってくるね」


解説を見終わったのか、矢吹がそう言って立ち上がり着替えを持って風呂場に向かった。


「そういえばさ、樹君、夏休み明けて結構直ぐに文化祭ない?」


「確かにあったな」


「その時の有志発表あるじゃない?」


「却下だ却下、何を言おうとしてるのか全て理解した、俺をこれ以上変な方向に進ませてどうするつもりだ」


「つまんないの〜」


「地震?」


俺と冬樹がくだらない雑談をしていると、急に優葉がそう呟いた。


その直後、ゴォォォと地鳴りの様な音がした。


「いや、雷じゃね?これ」


そう言って俺はカーテンを捲ると、遠くに月光で浮かび上がった巨大な積乱雲が見えた。


「原因、絶対あれやん」


時折、雲の中でピカピカと稲妻が走っているのが見える。


「こっち来ないといいな、雷うるさくて寝れなくなるよ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ザーーッ………」


「フラグ回収したな」


外は土砂降りの大雨だ。


「パチパチ」と雨が窓に当たる音が聞こえる。


だが、雷の音はまだ聞こえない。


(神様俺らの事寝かせる気ないやん)


そんな事を思っていると「ゴロゴロ」と音が聞こえた。


「ん?」


すると、俺のお腹がズーンと痛くなってきた。


どうやらさっきの音は雷ではなく、俺のお腹の音だったらしい。


「ちょっとトイレ」


俺はそう言って矢吹が風呂から出て来てないのを確認し、風呂場に隣接されたトイレに入った。


(ジュース飲み過ぎたか………)


dolphin達との飲み会で、俺はコーラをジョッキ2杯分くらい飲んだ。


確実にそれが原因だろう。


「ガチャッ」


ドアノブを捻る音が聞こえた。


「あー、すまん、今俺入ってる」


「早く出て来て」


「無理、めちゃめちゃ腹痛い」


段々と腹痛が悪化していき、今や冷や汗ダラダラだ。


「結構ミーも限界なんだけど」


「マジで今だけは俺を優先させて、マジでヤバい」


「ミーもヤバい」


お腹の痛みが頂点に達したと思ったら、今度は俺の腹痛が段々引いて来た。


また第2波来るだろうが、このタイミングで一旦矢吹にトイレを譲ろう。


矢吹が出たらまた入ればいい。


そう思った時だった。


「ドゴォォォン!!」


「きゃっ!!」


「うぉっ」


突如、轟音が鳴り響いた。


まるでホテルの真上に雷が落ちたかの様な音だ。


「ピーーー」


部屋の中に備え付きの電話の電源が落ちる音と「バチン」と部屋のブレーカーが落ちる音がし、トイレの中が暗転した。


「うわ〜ガチか、停電したじゃん」


「ピチャピチャ……」


するとだ、急にさっきまで聞こえてなかった筈の水の音が聞こえた。


「雨?」


次に足に生温かい液体が触れた。


ドアの下の隙間から侵入して来たようだ。


まさか本当に真上に落ちて天井をぶち抜いたのだろうか?


「矢吹〜、大丈夫?」


「……やっちゃった………」


念の為俺がそう聞くと、矢吹が掠れた声で呟いた。


すると、呟きと同時にピチャピチャという音が止まった。


「…………」


足に触れた生温かい液体、そして矢吹の何かとんでもない事をやらかしたかの様な呟き。


状況が把握出来なかったので、取り敢えずスマホでライトを付けて足元を照らした。


そこに写ったのは、若干黄色っぽい感じのサラサラとした液体。


「………矢吹、すまん、譲れば良かったわ」


そう、足を浸していた生温かい液体の正体は矢吹の尿だったのだ。


後書き


友人とタブレットの入れ違いが、起きて3日程何も出来ませんでした、すいません。

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