第54話 狩猟大会二日目
狩猟大会二日目。
一時、大会は中止と発表されたが、私が中止にはしないで欲しいとロイドお父様に訴えたことにより、大会は継続することになった。
どうしても大会を続けて欲しかったのは、エドが優勝する(今のところロイドお父様と接戦だけれど)姿が見たかったのが一番。だって、絶対にエドの自信に繋がると思うから。
色んな面で、王太子様やクリストファー様に敵わないとチャレンジせずに諦めることが多かったエドが、初めて彼らに勝てる訳でしょ?成功体験って人を大きく成長させるものだから、あれもこれも勝てなくても、ただ一つに自信が持てれば、努力家のエドなら絶対に大成長間違いなしよ。
ロイドお父様にそう訴えたら、それまで頑として中止を言い張っていたロイドお父様だったけれど、最後は私の意見に折れてくれた。
被害者であるサンドローム公爵家が継続を訴えれば、大会は警備体制を強化して継続することになった。それに、一応容疑者はつかまえてある(私はビビアンさんが犯人とは思わないけどね)のと、事件の捜査をする上でも大会を継続した方が都合が良かったこともあった。
で、狩猟大会を継続する代わりではないけれど、私は屋敷に戻らされ、王族以上の警備をつけられたってわけ。また狙われるといけないからと、屋敷と王宮以外の外出の制限つきで。
王宮はOKなのよね?
よし、ならここも大丈夫な筈と向かったのは、王宮騎士団の詰め所。ギリギリ王宮敷地内ですから。
暇な時間を持て余すことなく、事情聴取をする為に身柄を拘束されているというビビアンさんの元へ向かった。
ビビアンさんは、王宮騎士団詰め所の取り調べ用の一室に監禁されていた。
窓には鉄格子がはまり、扉は外から鍵が閉められていたが、部屋の中は必要最低限の家具があるし、フカフカのベッドに食事も三食つくようだから、私が平民として過ごした時よりは、快適な空間にいると言っても良いかもしれない。伯爵令嬢からしたら、劣悪な環境と受け取っているだろうけどね。
「アンネさん!」
私が部屋の中に入ると、一日で憔悴しきったビビアンさんが私に縋り付こうとして、騎士達に羽交い締めにされて止められた。ビビアンさんはパニック状態になり喚き散らす。
「私は何もしていないわ!私を家に帰して!せめてお父様に会わせて!」
「落ち着いて、ビビアンさん。私もあなたが何かしたなんて思ってないから。まずは話をしよう。ビビアンさんを離して、座らせてあげて」
ビビアンさんを椅子に座らせると、私もその前に座った。私と一緒に部屋に入ってきた私の警護をしている騎士二人が、ビビアンを注視しながら私の斜め後ろに立った。
いや、ビビアンさん怯えてるよ?剣の柄から手は離そうか。
「クリストファー様達がさ、ビビアンさんが言ったこと聞いたらしいんだけど……」
「確かに言いましたよ?!昨日もしつこいくらい聞かれました!ちょっと心の声が漏れちゃっただけじゃないの。別に本当に矢で射ろうとか、怪我させようなんて思ってないわ。それなのに……」
私の言葉の途中で、逆ギレように叫んだビビアンさんは、机に突っ伏して泣きじゃくりだした。
「そりゃそうでしょうよ。ちなみに、ビビアンさんは矢を射た経験は?」
「あなた馬鹿なの?!ある訳ないでしょ!仮にあったとしてもありますなんて言うと思うの?!」
ごもっともです。
「そりゃそうですよね。今のはなしで。私が聞きたかったのは、その心の声が漏れちゃった時に、周りに人はいなかったのかってことなんだけど」
「は?」
ビビアンさんは、涙と鼻水でグショグショな顔を上げた。一応ハンカチを差し出してみると受け取ってはもらえたが、使用した後に返そうとしてきたからそれは辞退した。
「あなたが言ったことをクリストファー様が聞いたその現場ね、その時に周りにいた人を思い出して」
「周りに人は……それなりにいたわ」
「学園の人は?」
「いたわよ。カサリナとイライザ達がいたし、上級生も。ほら前に教室までわざわざ来て、アンネさんに呼び出しかけた先輩達。他もいたかもだけど、覚えているのはそれくらい」
確かに、元クリストファーシスターズ改名クリストファー親衛隊は、クリストファー様がいる場所では、いつも視界の端をチョロチョロしていた気がする。
「わかった。先輩達にも話を聞いてみる」
「私、あの後はカサリナとイライザと一緒にいたから、私の無実は彼女達が証明してくれる筈よ。ねえ、彼女達にも話は聞いているのよね?」
「うん、聞くから大丈夫よ」
実は、カサリナさんとイライザさんは「ビビアンさんならやりかねない」って証言しちゃってるんだよね。「一緒にいた時間もあるけど、四六時中一緒にいた訳じゃない」とも言っていて、彼女達の証言もあったから、ビビアンさんがいまだに釈放されていないってわけ。
恐ろしい女子の友情だよね。
まぁ、ビビアンさんが犯人になった場合、彼女がどうなるか聞かされた筈だから、さすがにちゃんとした証言をするだろうとは思うけれど。
「じゃあ、すぐに開放されると思いますから」
「本当?本当ね?!」
ビビアンさんが私に縋ろうとし、騎士達に阻まれて再度椅子に崩れ落ちる。
だから、それはちょっと可哀想だよ。私に危害を加えようとしている訳じゃないんだから。
騎士達は、ロイドお父様からもエドからもきつく言われているようで、私に接触しようとする人間は徹底排除する姿勢を崩さない。
とりあえず屋敷に戻り、クリストファー様親衛隊にどうやって接触しようか考える。
クリストファー様は狩猟大会に出ているから、彼女達も狩猟大会会場にいるんだろうが、狩猟大会会場は王都外れの王家の森が会場になっている。
行ったら怒られるだろうなぁ。ちょこっと抜けて、すぐに帰ってきても駄目かな?でも、騎士達を撒ける気もしないしな。
私も無駄にロイドお父様やエドを心配させたい訳ではないのだ。ただ、このまま犯人が見つからないと、いつまでたっても私の軟禁状態は終わらず、下手したら学園に通うのも禁止されたりしそうじゃないか。
「お嬢様、またくだらないことを考えていませんか」
くだらないって……思っていても口に出すのはメアリーくらいだよ。
「クリストファー様親衛隊の先輩方と話をしたいんだけど、ほらあの人達推し活に忙しいから、なかなか呼んでも来てくれないだろうなと思って。コソッと抜け出して、私から会いに行ければいいんだけど」
「ああ、ならば餌をまけば良いじゃないですか」
「餌?」
「推しですよ。推し」
推し……って、クリストファー様だよね。なるほど、一緒に呼び出せばついてくるか。
それにしても、王子様を餌扱いするうちの侍女、最強過ぎないかな。
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