金と死で結ばれた僕ら

八影 霞

序章

 僕は人を殺そうとしている。

 とはいっても、僕自身が直接手にかけるわけではない。僕は人を殺した経験はないし、殺人についてそれほどの知識を持っているわけでもない。

それなら、どうやって殺そうと言うのか?

答えは簡単だ。

冬休みの到来に心を躍らせるクラスメイトの傍を通り抜け、人けのない緑地公園に立ち寄った僕は、携帯を取り出してあるサイトにアクセスした。


 『ダークウェブ。殺人代行サービス』


 人が生まれて死んでいくように、何度も読み込みが繰り返された後で、画面にメールの文面のようなものが表示された。

 『こちら殺人代行サービスです。ご用件は何でしょうか?』

 僕は一度、深呼吸をして自分を落ち着かせてから返信をした。

 「殺人を依頼できるっていうのは本当か?」

 『はい。もちろんです、明記してある通りです』

 意外とあっさりとしているな、と思った。

 「それって本当に大丈夫なんだよな? 万一ということは……」

 僕がそう送ろうとしていると、向こう側からメッセージが送られてきた。

 『それでは早速、本題に入りましょう。あなたは……誰を殺したいのですか?』

 僕は思わず背後を振り返った。この状況を誰かに見られるのはなんとしても避けたい。確認を終えてから、メールを返す。

 「クラスメイトを殺す依頼をしたいんだが……」

 『はい。それでは、その人物の個人情報を今から送信するフォームに入力してください。情報は詳しく、そして、できるだけ簡潔にまとめてください』

 僕は言われた通り、知っている情報をできるだけ簡潔にまとめ、フォームに書き込んだ。

 『確認が取れました』

 「一つだけ質問していいか?」

 僕はそう送った。

 「ダークウェブという組織は一体、どういうものなんだ?」

 気になって仕方なかった。ダークウェブという団体が何を目的に稼働していて、何が彼らを動かすのか。僕が今からどういう組織に関わろうとしているのか、知っておきたかった。信用できる連中なのか、確かめておきたかった。

 しばらくして、メールに返信があった。

 『申し訳ありませんが、そのような質問にはお答えすることはできません。こちらにも秘密厳守というものが存在しますので……』

 「分かった。悪かったな」

 もとより、満足のいく答えが返ってくるとは思っていなかった。

人殺しを代行するような連中が、そうやすやすと情報を教えてくれるはずがないのだ。そうなると僕はせいぜい画面越しの、それも文面だけの相手に自分の未来を委ねなくてはいけなくなってしまったようだ。

 僕は携帯をしまい、公園の中をぐるり、と見渡した。

 良くも悪くも僕の行く先を変えてしまったのは、おそらく、この日の、この場所の、この出来事だったんだと、僕はそう思う。

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