【番外】彼らの欠片
白浜ましろ
冬の小瓶の章
欠片、一つ目。冬紅葉。―スイレン―
森を吹き抜ける風の冷たさに、白狼はぶるりと身を震わせた。
思わず立ち止まり、身体を縮こまらせる。
その横を、からからと音を奏でながら、落ち葉が地を転がっていく。
「風も随分と冷たくなったもんだ」
人の姿であったのならば、思わず鼻をすすっていたことだろう。
空へ抜けた風を目で追い、枝葉によって遮られる空を見上げた――が、記憶よりも覗める空に、白狼は空色の瞳を瞬かせた。
秋に色付いていた木々も、寒さに備えてすっかり葉を落としていたらしい。
森の装いの変化に、季節の巡りを感じた。
白狼は落ち葉でふっかりとする土を踏み、息を吐く。
「精霊界の“外”はもう冬だな」
白狼――スイレンの言を肯定するように、また風が吹いた。
さわざわと揺れていた枝葉の音に、からからと地を転がる落ち葉の音が絡む。
冬の始まりを感じながら、スイレンはすくりと立ち上がった。
「気軽に“外”へ出られないヴィーに、何か冬の話題でも持って行こうか」
立場ゆえに精霊界から出られぬ身の彼女に、何か“外”の土産かその話題になるものでもないだろうか。
“外”には冬が来ていたよ、と。
きょろきょろと軽く辺りを見渡しながら、スイレンはふかふかとした土を踏み歩く。
地に積もる落ち葉。広がる草木は冬の色。
その風景に少しだけ寂しさを感じつつ、首を巡らす中で鮮やかなとある一点に目を惹きつけられた。
かさりと音をたて、スイレンは足を止める。
冬の色の中に鮮やかな一点。
木枯らしの風景の中に際立つ秋の色。
とたとたと動き始めた歩む足が、いつの間にかとったとったと駆ける足に変わっていた。
少しばかり息を弾ませてたどり着いたのは、大半の木々が葉を落とした中、葉数は少ないながらも未だ枝に
「またこれは、鮮やかな――」
気付けば感嘆の息をもらしてしまうほどに、その紅葉は深く色付いていた。
秋の頃よりもさらに深い色をしている気がするのは、単なるスイレンの思い込みか。
刹那――一際強い風が吹き付けた。
それはスイレンが思わずを目を瞑ってしまうほどに。
びゅうと低い音をスイレンの耳に落としながら、落ち葉を撒き散らして風は森を駆けていく。
風が落ち着いた頃を見計らい、スイレンがそっとまぶたを持ち上げる。
紅葉は無事だろうか。
ちょっとした不安を抱きながら、顔を上げてみると。
「ははっ、力強いじゃないか」
風の余韻に揺らされながらも、紅葉は未だ枝にしがみついていた。
そこに透き通るような命の力強さを感じ、スイレンは空色の瞳を細めて柔く笑った。
「ヴィーへの冬のお裾分け、みっけたな」
秋の終わりと冬の始まり。
これは、とある時のそんな頃の一欠片。
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