枯れ木
荒野に枯れ木が一本。時折吹く一陣の風に舞う砂ぼこりを見る。どこへ向かうこともなく、朽ち果てるのをひたすら待つだけの日々。
いつから一人きりであったか。思い出すこともできない。足元を駆ける野狐、枝を這う虫、いたような気もするが、その感覚も、吹き抜ける風と共に、少しずつ薄らいでいった。
たまに蛇が来るようになった。少し巻き付いて遊んではどこかへ去る。
逞しいやつだ。この何も命を感じないところで、命をつないでいるのだな。
蛇が来る度に、感動を覚え、それが楽しみとなった。
蛇に話しかけてみた。
やあ、いつものように、私に巻き付いて何を見ているんだい。
蛇は言った。
地べたからは見えない景色よ。
ほう、それは、どんな景色なんだい。
なにいってんだ。あんたは、いつも見ているんじゃないのか。空と大地が等しく地平線で分かれている景色だよ。
確かに、そんなものは見慣れている。というより、私は、地べたのほうが見てみたいね。飽きてしまったよ。
飽きる飽きないじゃないさ。そう生まれたからには、そこから見る景色が全てじゃないか。おれもあんたも、自分という枠にはまった世界の一部なのさ。
君は、私の体を登って違う景色を見れる。ずるいものだね。うらやましいよ。
あんたは、長い時間、この荒野をずっと観察し続けてきたんだろ。狙われることもなく。おれはそいつがうらやましいね。
そんな会話だった。
どこか噛み合わない。それでも枯れ木には、満足であった。
そうか、砂は、私よりさらに長い歴史にいるのだろうな。いつか、砂になるのが楽しみになってきた。
空と大地のはざまに舞い散る砂ぼこりが枯れ木に夢を見せるようになった。
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