Distorted【お試し版】
タチ・ストローベリ
#1
その恐竜博士は
じきに集まりだすさ。また
男は
そうだ、こんな日に仕事を引き受けるのも案外、悪いものではないのだ。男はそう思い、遠い昔に自身を去ったはずの信仰心に促され無意識に聖地の方角へ目をやった。熟れた
男はクーラーボックスから炭酸飲料を取り出し博士へ手渡して言った
「あんた随分見込みがあるよ、それに運もいい。済んだのか?」
「ええ」博士は化石博物館で見るはずの生き物が、ここでは未だ絶滅していない理由を知りたがっているかの様に複葉機を観察しながら応えた。
「ごめんなさいね、無理を言って」
男は首を振った。
「もっと早くに嵐が来ると思ってたが、こんな日もあるもんなんだな。運がいいよ。あんたも、俺も」
こうして二人は砂から上がった。そして沈み行く太陽を背にして徐々に下がってゆく気温の中へと飛び立った。真下に広がる地球の
コクピットの男が口を開いた
「あんた名前はなんていったっけ?」
「ルーナ。ルーナ・ハロウェイよ」
「日本生まれか?」
「いいえ、合衆国よ。どうして?」
「日本人の彫刻家だっていう男が、あんたを訪ねて来たことがあったろ。俺があそこまで乗せたんだ。見てたら、あんた随分と
彼は名を
「ここの前はしばらく日本で研究していたの。よく気付いたわね、誰か知り合いでもいるの?」
「ああ。去年のイスタンブル五輪、俺は候補に挙がった時点で東京だと踏んで宿の予約を入れたんだ。まぁ、お陰であちこち見て廻れたから良かったよ。友人もできた。次は京都にいこうと思ってる。アマノハシダテだったか? いつか金ができたら海の近くで暮らしてみたいんだ」
「日本は何処も海辺みたいなものよ、後は温泉。私は北海道にいたから毎日海を眺めにいってた。当時は両親が亡くなったばかりで北海道の海は感傷的な思考にぴったりだった。でも時々、青黒い水の中から恐ろしい怪物が立ち上がって全てを連れていってしまうんじゃないかって、そんな風に見えることがあって。その反動でこの国に来たのかもしれない」ルーナは後ろを振り返りながら言った。
その目には無情の風にまたがる、この星の小さな小さな
「あんたらティラノサウルスの先生方も怖いもんがあるのかい?」
「
飛行機乗りが笑う。
さよなら、と彼女の口は動いた。新しい別れと出会いを見い出してくれた太古の賢者達に。そしてもう二度と見付からない、ささやかな思い出の指輪に。
二人は目的地へ向かって進み続ける。
遥か後ろ、その牙をむき出しにした
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